暁の黄泉鴉 作:マサイのゴリラ
『NTC』本社ビルから飛び出した、
窮奇は妖力で形成した翼で空を飛び、檮杌は建物の屋根を跳びながら。
「おい、檮杌! てめぇついて来てんじゃねぇ! 鴉は俺のターゲットだ!」
「あぁん!? 窮奇ィ、勘違いしてんな。お前はもう鴉と
「ンだとぉ……鴉の前に、てめぇから細切れにしてやってもいいんだぞ」
窮奇は飛翔スピードを上げ、『
鴉と鬼が手を組んだことは、彼らも知っている。
ならば鴉は鬼の総本山にいると考え、窮奇と檮杌は二人して『赫津鬼会』本部へ向かっていた。
檮杌は窮奇を
窮奇は、その時の敗北の借りを返すため。リベンジマッチのために、鴉を狙っている。
「鬼共なら譲ってやるぜ、その代わりに鴉は俺によこしな! てめぇのカタキも取ってやるからよっ」
「……復讐は
「ハッ、上等だぜ……! ライバルが一人消えて楽になるしな」
商店街のビルの屋上で足を止め、檮杌は上空の窮奇を睨みつける。
窮奇も動きを止めて、檮杌を見下ろして妖力を増幅させる。
『四凶』の中でも特に粗野で、戦闘狂である二人はこれまでにも何度も衝突しかけていた。
そのたびに、「こんな奴は死ねばいい」と互いに
鴉との戦いを前にして、気の抜けない同胞同士が潰し合う。それが現実になりかねないほど、二人の殺気が高まっていく。
「「────ッ!?」」
すると、西の方角に大きな妖力の反応が現れる。
爆発するかのように立ち昇ったその妖力は、まるで炎のように揺らめき、熱いもの。
妖力を察知した檮杌はニヤリと笑った。
「たしか……鴉は鬼と一緒にいるんだったな。あれは、鬼の妖力だ!」
檮杌は屋上の床を蹴飛ばし、道路を挟んだ反対側の建物の屋根に飛び移る。
「窮奇、てめぇは知らねぇだろうがな。俺は鬼とも一回、拳を合わせてんだよ。さっきの妖力はまさに鬼のもんだった……鴉はあそこにいる! あばよっ、俺が先に鴉をいただくぜ!」
そう言い残して、檮杌は先程よりも素早く、建物の屋上や壁を蹴りながら妖力が発生した方角へ向かっていった。
取り残された窮奇は、何も言わずにその背中を見送る。
そして、もともと進んでいた方向へ顔を向けて
「……。そっちへ行くといい、檮杌。相変わらず、頭の働かないバカで助かったぜ。このタイミングで派手に妖力でアピールしたってことに、何の違和感ももたないんだからな」
窮奇はすぐに察せていた。
玉藻が『四大財閥』の面々に四凶の解放を宣言してから、すでに一時間以上経過している。
鬼たちが何か対策を立てていてもおかしくはない、それほどの時間が過ぎていた。
タイミングを考えれば、明らかに
檮杌はそうではなかったが。
「さっきの妖力は陽動だ。単細胞の檮杌を誘う……。鬼が、俺たちの戦力を分散するためにやったんだとすれば……向かってくるとわかってる『赫津鬼会』の本部には──鴉がいるッ!」
わざわざ鬼の妖力で別の場所へ陽動したのであれば、それ以外の戦力が『赫津鬼会』にいることになる。
そう考えた窮奇は、翼を広げて再び
今度こそ鴉を仕留めるために、殺意を撒き散らしながら、加速を重ねて向かっていった。
───────────
「……来たか」
『赫津鬼会』本部。
霊体の材木で造られたその屋根に、鴉はいた。
黒い軍帽、コートに身を包み、腰に差した刀に肘を乗せて向かってくる因縁の相手を待つ彼。
南西の空から高速で近づいてくる、荒れ狂う暴風のような妖力の気配を察知しながら、鴉は
「やっぱり、俺のとこには窮奇が来るか。想像はできていたがな。あいつなら、俺に再戦を望んでくると」
かつて
覚の狙撃によるサポートが功をなし、窮奇を一度は追い詰めた。
玉藻の情報を得るためにあえて命は取らなかったが、その時に鴉は彼に「戦いに慣れていない」「獣だ」と
結局乱入してきた渾沌によって、戦いはうやむやになってしまったが、だからこそ窮奇は鴉にリベンジを仕掛けてくる。鴉はそう確信していた。
「受けてやるよ、第二回戦を。来い──!」
「そうこなくっちゃあなァ!!」
突如、暴風が吹き荒れる。
ソニックブームの如き暴風は、鴉を発見し上空で急ブレーキをかけた窮奇が発したもの。その衝撃波は、付近の家屋をも震わせた。
窮奇は『赫津鬼会』本部の上空から、鴉を見下ろすように滞空する。
「待ってたぜ、この時を……! タワーをぶっ壊した時の
「ああ。思いっきりかかって来い。俺もお前に負けるつもりは無い……。安心しな、今回は、俺とお前の一対一だ。狙撃手はいない」
「……なんだと?」
鴉の言葉を聞いた窮奇は、周囲を見回す。
自分を狙撃できそうなビルは近くにはないが、『赫津鬼会』と同じほどの高さの建物はいくらでもある。
しかしその中に、妖力は少しも感じられなかった。
窮奇は今回の戦いでも、鴉には何らかのサポーターがいるものだと思っていた。
むしろ、そうした鴉以外の戦力も含めて彼を叩き潰すことで、借りの返しになると考えていたのだ。
(たしかに……近くに他の
「どうした、始めないのか。俺はもう、朝に
「…………。そうだな」
クイクイと手を動かし、「かかってこい」とアピールする鴉。
窮奇は一瞬、何かを考えているかのように動きを止めたが、すぐに元の様子に戻る。
妖力の翼を収納し、鴉と同じ足場──『赫津鬼会』の屋根に降り立った。
「遠距離攻撃でサポートする奴がいない、ってか。タイイチならよぉ、てめぇは前の時点で俺に負けてんだぜ。ずいぶんな自信じゃねぇか、ああ?」
「そうだな。確かに負けてたかもしれない。だが……もしだとか、例えばとか、そんな世界は存在しないんだぜ。戦いはいつだって、勝ちか負けかにしか転ばない。あの時は、お前が負けた。それだけだ」
「……てめぇに言われずともな、ンなこたぁわかってんだよ。だからこそ、今日! てめぇを殺すのさ!」
窮奇は妖力を解放する。
突風が吹き荒れ、鴉の帽子が空へ吹っ飛んだ。
「てめぇも! "世界"も! 俺が切り刻んでやるッ! 王座はこの俺、窮奇のものだァッ!!」
───────────
「……ど、どういうことだぁ〜〜ッ……!?」
生い茂った桜の緑に覆われた公園で、檮杌は動揺していた。
感知した鬼の妖力を追ってきてみれば、飢野公園にズラリと整列した黒服の集団がおり。その先頭には、かつて顔を合わせた鬼童丸が仁王立ちしていた。
ターゲットであった鴉は、その場にいなかった。
「お、鬼しかいねぇじゃねぇか……。どういうことだ!? 鴉は鬼と組んでるんだろうが! 鴉が一緒にいねぇだぁ!?」
檮杌は一人で騒ぐ。
黒服の集団は、『赫津鬼会』。
本部を離れた彼らは、鴉にその地を任せ、四凶の戦力を分散するためにこうして飢野に移動していたのである。
黒服の一人が、鬼童丸に耳打ちする。
「やはり釣れましたね……。あれは、檮杌でしょうか。見たままの、野蛮人ですが」
「……」
鬼童丸はコクンと頷く。
かつて『NTC』で互いに拳をぶつけた間柄である彼は、檮杌のことを知っていた。
鬼童丸の拳は檮杌の
四凶の中ではフィジカル面でトップクラス。それが檮杌である。
鬼が相手をするに、相応しい。茨木童子はそう考え、頭の悪い檮杌をこうして本部から離れた場所に引き寄せたのだ。
「会長からの伝言です、カシラ。好きにやれと」
「……」
部下からそう聞いた鬼童丸は、組んでいた腕を解き、檮杌の方へと歩いていく。
「……鴉以外にゃあ興味ねーんだけどなぁ! そんなに俺とやりてぇか、鬼!」
「……」
鬼童丸は何も言わない。
黒のジャケットを脱ぎ捨て、動きやすいようシャツの袖を巻いていく。
戦闘の準備を済ませた。
「いいぜぇ、だったら……てめぇら全員食っちまってからッ、鴉と殺し合いに行くとするぜ! まずは腹ごしらえだァァァァ!!」
檮杌の
神宿、胎東。『NTC』以外でも、四凶との戦いが始まった。
プレイヤーは黄泉の神の使い。
そして、伝説の鬼の
四凶"
窮奇
四凶"荒れ狂う
檮杌