暁の黄泉鴉 作:マサイのゴリラ
「鴉……!!」
「覚悟しろ、
かつて
窮奇が放った最大の技、"
暗い太陽の化身。もはや、それそのものと化した彼は、どれだけ体を傷つけられようとも炎のように揺らめき、立ち上がる。
妖怪たちにとっての死、その像のように。
「あ、跡形もなく吹っ飛ばして……なんで立ってられんだ!? そんな力、いつから隠してやがったッ!
「……」
上空から吠える窮奇。
しかし、暗い太陽のように燃える鴉は答えない。
正確には、答えられなかった。
(何者、か……。俺が一番知りたいんだがな)
黒い炎をまとって燃え、頭部が火球そのものに。
その上、本来『鴉』に無いはずの妖力まで発している。
妖怪の仲間入りをしたのか。それとも違う何かに目覚めたのか。
定義すらもままならない。鴉はもう、本来の
「……なに、黙りこんでやがる……!」
上空にいる窮奇からすれば、そんな鴉の沈黙は"余裕"にしか見えなかった。
もはや言葉を交わすような存在でもないと見下された。窮奇はそう受け取ってしまう。
誰よりも王座に固執し、誰よりも"獣"と呼ばれることを忌み嫌ってきた。
そのプライドは逆に、窮奇を追い詰める棘付きの首輪のようであった。
「ッ……!?」
窮奇はあることに気づく。
否、彼の見ている世界が
「な、んだ……こりゃあ……!?」
(空が、赤く──)
"風伯・飛廉"によって一切の雲が吹き飛ばされ、窮奇の頭上には青空が広がっていた──はずだった。
突如として、彼の視界は赤黒く染まる。
夕焼け空よりも暗く、しかし赤く。赤黒い光によって、空全体が照らされているかのような不気味な空に、窮奇に一瞬鳥肌が立つ。
空は窮奇の視線の先──遠くの景色に向け、その暗さを増している。光源の方向はすぐにわかった。彼の背後である。
窮奇は、ゆっくりと振り返った。
「……!? た、太陽が……」
彼の背後に浮かんでいたのは、巨大な光球。
赤黒く、燃え盛っているように、ゆっくりと模様が
この世に生まれ落ちて四千年が経つ窮奇でさえも、明らかにそれが自然現象の一つではないと察し、「太陽だ」と口走ってしまった。
「ッ!!? ぐ、ああアアアアァァッ!!?」
赤黒い太陽を視界に入れた瞬間、ジュウウと音を立てて、窮奇の眼球が焼けてしまう。
太陽を見つめていれば、人妖問わず目を痛めはする。
しかし、暗く赤い光が目に入った瞬間に眼球の表面が
目に火傷を負った窮奇は思わず怯んだ。顔を手で覆って、バランスを崩して地面へと真っ逆様に墜落していった。
「ガ、アァァ……! 目が、クソッ、あぁああああぁぁ!!」
「ようやく降りてきたな、地上に」
「!!」
地面にぶつかった窮奇。その衝撃は周囲に
そんなところへ歩み寄り、見下ろすのはもう一つの暗い太陽。
頭部が暗い火球と化し、燃える鴉だった。
「今度こそ決着つけようぜ。これ以上、街を破壊させられねぇよ」
「か、鴉ゥ……!」
窮奇はおもむろに立ち上がる。
充血し、黒目が
「調子乗ってんじゃあねぇぞ、ああ!? 俺を地面に落とせて、そんな気分が良いかよッ」
「……」
「ナメ腐りやがって……! あの太陽みてぇなのも、てめぇも! ムカつくんだよッ! その力は何だッ!? 今まで隠してきて、俺を油断させるためだったのか!?」
「そういうわけじゃねぇよ。俺もよくわかってねぇんだ、この力のことはな。だが少なくとも……」
「……!?」
「あの暗い太陽は、俺の味方だ」
上空に浮かび、二人を見下ろす暗い太陽。
それは、鴉が死に瀕するたびに現れる。
そして、窮奇に追い詰められピンチになった時にも現れ、鴉を復活させた。今回は、あの太陽そのものとも言える力まで付け加えて。
「加山や
「ああ……!?」
「『鴉』として、俺は黄泉から蘇った妖怪たちを狩り続けるべきだ。だが、『
「……戦う必要性だと。そんなもん、俺との本当の決着があんだろうが。渾沌のやつに邪魔された前回はちげぇ、あんなもんは決着じゃねぇ!」
「お前との決着はどうでもいい」
鴉はバッサリ切り捨てる。
「俺は、求められたかったんだ。ただ一人、ひたすら妖怪を殺す使命なんて誰にも喜ばれないし、誰にも感謝されない。だが、加山や覚はそんな俺を支えてくれてた。それが俺にとって、どれだけ重要なことだったか。二人を失って、ようやく理解できた」
「……てめぇの事情こそ、俺の知ったこっちゃねぇよ」
「いつまで自分が全ての中心だと思ってやがる。お前は、王にはなれない。ただ吠えるだけの獣にしかなれねぇんだ。今ここで、死ぬんだからな」
鴉は腰の
ゆっくりと引き抜かれ、刀身が外気に触れる。それは空気との摩擦によって発火するように、抜かれていくと共に黒い炎をまとう。
「決着、つけたいんだろ」
「ッッ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
鴉の挑発に怒りを爆発させ、妖力を解き放つ。
窮奇の最大の逆鱗、それは、"獣"として扱われることである。
東饗タワー跡地での戦闘時にも、鴉から獣だと煽られて激昂した。
それは、人間、次代の王として生まれたはずだというのに、その異形と力から疎まれた過去からくる、一種のトラウマでもあるのだ。
「死んだ連中にそこまで未練があンだったら、俺がてめぇを同じ場所に送ってやるよ……!!」
「望むところだ」
窮奇は渦巻く風刃を両腕にまとわせる。
鴉は炎をまとう刀を構え、カウンターを狙う。
「「はぁああああああああっ!!」」
動き出しは同時。
鴉が足を踏み出しかけた瞬間、窮奇の手刀が彼の両腕に振るわれる。
斬撃の性質を帯びたその手で、まずは刀を操る腕を封じることを優先したのである。
手刀は両腕の切断に成功する。これで、鴉の攻撃は遅れる。
振り払った右手の手刀に続き、窮奇は握っていた左手を解放する。鴉の首元へ、螺旋状に渦巻く風刃を叩き込むために。
完璧な不死身など存在しない。火球と体を切り離せば、鴉の再生も止まると窮奇は踏んでいたのだ。
「終わりだ」
それは鴉の言葉だった。
窮奇が両断したはずの腕は、何事もなかったかのように刀を振り下ろす。
"
思考よりも早く、反射で窮奇は地面を蹴る。
体は後方へ飛び退こうとするが、遅かった。
「ガッ──」
鴉の刀は窮奇の頭にまっすぐ振り下ろされ、顎までを真っ二つにかち割った。
ズルリ、ズルリと音を立てて、彼の右顔面が滑り落ち……
窮奇の動きは、完全に停止した。
「……」
決着は、あまりに早く。
「……話の続きだ。俺は、あの太陽に生かされている。
「──加山の意志は俺が継ぐ。妖怪は、俺が滅ぼす」
倒れることなく、その場に
鴉はそれにそう宣言すると、背を向けて立ち去っていく。
『四凶』と他の妖怪の戦いも、既に始まっている。
鴉に最も近いのは、瑞子と
両者とも、彼が倒すべき敵。そこへ乱入するため、鴉は北へ向かい始めた。
「……グ、ゥゥ……」
窮奇の体から発せられたその小さな