転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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祝100話


猫かぶり

 あとから出てきた老婆は、事情を聞くと顔をしかめたが、声を上げて反論するほどではなかったらしく、黙って家長の判断に従うことにしたらしかった。

 昨日ロブスに怒鳴りつけたところを見ると、腰は曲がって背は小さくなっていても、まだまだ現役で旅をするだけの元気があることはよく分かる。

 

 一方で、これまでロブスやグレイとはうまくやってきた家長であったが、流石に相手がお姫様となると、多少遠慮する気も起こるらしい。すっかり寡黙になってしまっていた。

 基本的に〈サッシャー家〉の面々は体がしっかりと鍛えられており、ぱっと見で分かるような武装をしているので、街を歩く護衛としては悪くない。

 見るものが見れば実力者と分かるので、たとえ胡散臭い老人が一緒にいても、いかにも身分の高そうな楚々とした美少女が帯同していても、流石に街中で絡んでくる者はいない。

 

 しかし、そのまま冒険者のギルドへたどり着くと、流石に『おや?』といった様子で、一行を気にするものが一気に増えた。そもそも〈サッシャー家〉は普段〈リガルド〉で活動しているわけではないので、当然のことである。

 見たことのない強そうな奴らがやってくれば誰だって注目するし、おまけに老人と美少女がいるのだから興味を持つに決まっていた。

 

 ギルドへ着くと、まずは席を確保してから家族がそれぞれ役割分担をしてギルド内へと散っていく。確保した席に残ったのは、家長と老婆、それにグレイとクルムの四人だけだ。

 

「賑やかで活気にあふれた場所ですね」

「下卑た場所と言われなくて一安心です」

「まさかそんな」

 

 クルムはわざと驚いた顔をして首を横に振って否定をする。

 しかし、多くの王位継承者争いに参加している者は、ギルドへ入れば家長が言ったような感想を抱き、さらに一部はそれを口にすることだろう。

 貴族たちもまた同じだ。

 王国ではそれだけ冒険者の地位が高くない。

 

 どうやらクルムが自分が思っていたような高慢ちきではないらしいことを悟った家長は、本当に少しばかりほっとしたのだろう。表情が少し緩み、急に舌の滑りが良くなる。

 

「しかし、お偉いさんが冒険者ギルドに興味を持つなんてどんな了見です?」

「どこから説明をすればいいのでしょう……」

 

 クルムは少し悩んだような顔をしてから、小首をかしげながら語り出す。

 何か演技をしているなと思いつつ、グレイは見ないふりをして、頬杖を突きながらギルド内を見回した。

 クルムが味方を増やしたそうな雰囲気でか弱い少女を演じつつ、わざと人に聞こえるように状況を説明している間もずっとである。もしグレイが殊勝な態度で口元を覆う仕草でもしてやれば、クルムの演技にももうちょっと説得力が出るのだろうに、まったくもってこういった部分は役に立たない老人である。

 

 ではグレイがぼーっとしていただけかといえば、そういうわけではなく、単純にギルド内にいる冒険者の力量をぼんやりと探っていたのである。

 現状だと腕のいい者でも上の下。

 朝のこの時間に強者がうろついていないだけかもしれないが、それにしたってロブスが人手不足を嘆くのも理解できる残念さだ。今見ている限りでは、確かにアルムガルドの屋敷があったあたりに街をつくるのは難しそうである。

 どちらにせよ、この規模の人数を収容するのは難しいので、街の位置はここが一番ではあるのだが。

 

「はぁあ、王族というのも大変なもんですね。いっそ継承権を放棄しちまった方が楽な気がするんですが」

 

 もっともな突っ込みをいれられたが、クルムは悲しそうな顔を一瞬してから苦笑をし、首をゆっくりと横に振った。

 

「そうもいかぬ事情があるのです。お恥ずかしい話なのでお伝えするわけにはいかないのですが……」

 

 確かに身内で殺し合っているのだからお恥ずかしい話だ。

 自分が兄と父を殺したことを棚に上げて、グレイは内心で王族を馬鹿にする。

 そもそもそのきっかけになったのも王族の争いなのだから、『やっぱり王族なんてのは糞だ』とグレイは再認識。責任転嫁もお手の物である。

 

「いやぁ、何か手を貸したくなるような……」

「その辺にしとき」

「お、おお」

 

 ぴしゃりと老婆に言われて、家長は狼狽しながら返事をする。

 急に喋るので驚いたのだろう。

 

「婆ちゃん、この依頼受けてから妙にピリピリしてんな」

「余計なこと言わなくていいんだよ」

「まぁ、いいけどよ。で、お姫様はこのあとどうするんです? 俺たちはちょっとばかり魔物の住み家を覗きに行くつもりですけど」

 

 老婆が余計なことをと言わんばかりに家長を睨みつけたことを、グレイもクルムも気づいていた。どうやらグレイやクルムにあまり関わりたくないと思っている節があることが分かる。

 それでもクルムは、平気な顔をして家長との会話を続けた。

 知らぬふりである。

 

「それは……数日かかりますか?」

「ま、ホントに行って帰ってくるだけなんで、長くて五日くらいですかね」

「私たちが同行しても?」

「お姫様が!?」

「はい。冒険者の方、〈要塞軍〉の方々が、どのように暮らし、どんな敵と相対しているのかをこの身で知りたく。聞いただけでは理解できないこともありますから」

「いやいやいや、流石に俺たちだけで護衛は難しいですぜ?」

「護衛の依頼ではなく、案内だけしていただければ。護衛の方は先生にお願いしますので。……お願いしてもいいですよね?」

 

 グレイは長い顎鬚をなでながら少し考える。

 護衛は結構なことだが、最深部まで行かれると場合によっては守ることが難しくなる。

 しかしまぁ、クルムが何らかの考えをもって頼んできているのだから、引き受けてやるのも度量というものだろう。ここで断って、サッシャー家の面々にビビったと思われるのも癪である。

 もちろん彼らはそんなことは思わないだろうけれど。

 

「……うむ、よかろう。ただし呪い谷の奥まではいかぬし、竜食山も登らんぞ」

「ははっ、当たり前じゃないですか」

 

 冗談だと思った家長が笑ったところで、老婆が深いため息をつき、この後のクルムの予定が決定したのであった。

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