転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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手持ちの札を強く見せる

 正面から向き合って分かったことは、クルムが正真正銘の十三歳の少女でしかないということであった。手足は細く、顔立ちはあどけない。

 〈要塞軍〉で兵士の相手をすることの多いリゾルデから見れば、あまりに頼りない見た目をしていた。せめてラウンドのように大きな体をしていれば、先ほどのような迫力は納得できるが、こんな少女に圧力を感じていたかと思うと恥ずかしくなる程だ。

 

 しかし、だからこそ向き合う価値のある相手であるとも言えた。

 どんな経験を積んだとしても、生涯あんな迫力を出せるようにはならない人間はいる。

 そして、どんなに濃密な何かを経たとしても齢十三であんな迫力を出せる人間は、間違いなく人の上に立つ才能がある。

 

 これは天性のものだ。

 迫力は魅力、カリスマと言い換えてもいい。

 この人の言葉に耳を貸そうと思わせる力。

 

 グレイに言わせれば糞みたいな王位継承争いによって生み出された、数少ない利点は、この圧倒的カリスマの遺伝と言っても過言ではないだろう。

 リゾルデはクルムの中に、その圧倒的な才覚らしきものを見たのだ。

 それは、ラウンドとリゾルデが二人合わせて作り上げる統率力であったり、グレイの圧倒的な暴力によって生み出される恐れにも並ぶほどの才覚であった。

 

 グレイがいなければ何もない、というのは謙遜が過ぎる。

 少なくとも今の時点で、かつてリゾルデの父が支持していた王子の数段上にあるようにリゾルデには思えた。

 

「自分を売り込まなければならないのに、自分を卑下するのですか?」

「冷静に現状を分析したつもりです。先生がいなければ私はロブス様と知り合うことはありませんでした。パクス商会長に目をかけてもらえることもなかったでしょう。〈リガルド〉に来ることも、〈要塞軍〉の核たるリゾルデ様とこうしてお話しすることも」

 

 クルムはゆっくりと首を横に振る。

 その言葉に間違いはなかったが、その上でリゾルデは更に尋ねる。

 

「そのような方に手を貸す理由が〈要塞軍〉には見当たりませんね。少なくともあなたが何もできない間に、私たちはただでさえ悪い立場を更に悪くすることになる」

 

 ならお前には何ができるのか、何をしてくれるのか、それがリゾルデの問いかけだった。

 才覚を認めたうえで、正面からの問答の開始である。

 

「リゾルデ様、私は何もできない、とは言っていませんよ」

 

 先ほどと矛盾するような言葉を吐かれて、リゾルデは僅かに顔を曇らせる。

 リゾルデにとって、他人と話していて言葉の先が見えなくなるのは珍しいことだった。

 

「先生がいなければ、ですね」

 

 そう言ってクルムはにこりと笑う。

 うまくリゾルデのペースを乱したクルムは、次の言葉が出てくる前に自分の方から口を開く。

 

「一つ質問があります。よろしいですか?」

「ええ、答えられることならば」

「ここ、〈リガルド〉の街の由来というのは、アルムガルド家にちなんだものでしょうか?」

 

 この質問と共にクルムはちらりとグレイを横目で見る。

 大暴れしているのが見えて思わず表情が崩れそうになるが、さも当たり前のものを見たかのようにリゾルデの方へ視線を戻すクルム。

 

「……ラウンド様からグレイ様の話はよく聞いていましたので。アルムガルド、というよりも、グレイ様との再会を祈り、響きもこの辺りに住む人の馴染みのあるように〈リガルド〉と」

 

 先ほどのクルムの質問と視線の動きで、リゾルデは、『クルムがアルムガルド家及び、グレイの出自について詳しく知っている』と解釈をした。実際はグレイがほとんど話してくれないので詳しくないのだが、これもまた、グレイと非常に親密であるというクルムの心理的誘導の一つであった。

 

「アルムガルド家に成り代わる、というような意図はありませんか?」

「まさか。誰かがそのように噂をしていましたか?」

「いいえ。ただ、アルムガルドの名前を半分に割り、新たに作り直し成り代わる、と解釈できなくもないかなと。例えば、旧アルムガルド家を慕っていた住人の方々などが」

 

 何かを知っている。

 そんな含みを込めた言い方だった。

 そしてそれは正確にリゾルデに伝わる。

 昨日の休みの日に、〈サッシャー家〉のアンに聞いていなければ、クルムもまた、詳しく知らない情報であったが、さも訳知り顔で話す。

 

「……私たちがここへ来た時には、すでに旧アルムガルド家の街には住人がいない、と聞いていました」

「そうですか。私は〈要塞軍〉が来る前の貴族の方々が、旧アルムガルド領の方々を虐げたと聞いています」

「余計なことを……。だから協力者がまるで得られなかったのか」

 

 初めてこの土地に来た時のリゾルデは、まず〈要塞軍〉の形をまとめ上げるのに必死だった。軍隊として機能するように、ラウンドに働きかけて、しっかり大将としてやっていってくれるように誘導し、連れてきた犯罪者たちを兵士として鍛え上げる。

 その間も魔物に襲われ、仲間を失いながら〈要塞軍〉少しずつ絆を育み、形を成していった。

 

 まともに軍として機能するようになり、人を募集し、街を形成していくまでに数年。こちらからしっかりとした調査隊を出せるようになるのには十年近い時間がかかった。

 その間に声をかけることができればまた違ったのだろうが、引継ぎもろくにされず、人員も物資もまるで足りなかったのだから、そこまで要求するのは酷というものだ。

 

「欲しくありませんか、旧アルムガルド領の協力者」

「……王都に住まうクルム様に、あてがあると?」

 

 そう答えながらリゾルデも半分くらいは期待をしていた。

 何せクルムの教育係はグレイ=フォン=アルムガルド。

 今では唯一生存が確認されている、アルムガルド家直系の男なのだから。

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