転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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協力関係

 アンは腕を組んで暫く考えてから、不意にクルムの方を見る。

 

「これを受け入れたら王女様に何か役立つのかい?」

「はい。後ろ盾となって下さる〈要塞軍〉の力が大きい方が、何かと交渉に有利になります」

「そうかい、てっきり私のことを考えてるだけかと思ったけど……、色々あるんだねぇ」

 

 狩人の家で生まれ、冒険者として育ったアンには、自分しか得がないような提案のように思えて心配だったのだ。

 しかしクルムがそういうのであれば、断る理由もなくなってくる。

 

「……そうそう、この街の名前の理由、悪い意味じゃないとは王女様から聞いたけど、どんな意味なんだい?」

「要塞軍の大将であるラウンドはグレイ様の友人です。ラウンドがグレイ様との再会を望んでいるようでしたので、その願いを込めて。そして……、長らくこの土地を守り続けたアルムガルド家とその領民の方々への尊重の気持ちを込めて〈リガルド〉と」

「……説明されてもよくわからないけど、聞けば悪くない名に思えてくるね」

 

 説明されても学び舎に通ったことがないアンには理解が難しかったが、それでもリゾルデの真剣な表情を見れば嘘でないように見える。

 

「そうかい、わかったよ。一度持って帰って息子にも相談してみるけどね。ま、協力させてもらうことにするつもりだよ」

「ありがとうございます。細かい話はまたの機会としましょう。クルム様も、紹介ありがとうございます。これで〈要塞軍〉はまた一歩前へ進むことができます」

「双方のお役に立てたようなら良かったです」

 

 話が無事に終わって三人とも少し気を抜いたところで、訓練場へ目をやる。

 どうやら今日は昨日とはまた別の兵士たちが老人二人にぼっこぼこにされている景色がそこにあった。

 昨日の人たちは一日休み。

 これを後何度か繰り返すと一巡したことになり、そこからは訓練をそれぞれ見て、アドバイスを授けるフェイズへ移行するそうだ。

 

「あそこまでやる必要あるのかねぇ」

 

 人が空を飛ぶ訓練風景を見た、アンの素直な感想に、リゾルデは苦笑いをする。

 

「その方が受け入れられやすいんですよ。強いは偉い。魔物が多いこの場所ではどうしたってそんな価値観が生まれがちです。狩人の方々はそんなことありませんでしたか?」

「……いや、そういえばそうだったよ。だからこそ、私たちはアルムガルド家を信頼していたんだろうしね」

「でしょう。この訓練が一巡すれば、皆が真面目にグレイ様の話を聞くようになりますよ。戦い自体も良い経験になりますし」

「根性はつくだろうね。死なない程度に命懸けの戦いができるなんて貴重っちゃ貴重さね」

 

 クルムの知っている騎士たちの訓練風景は、対人の訓練であるが、〈要塞軍〉の訓練は対魔物の訓練なのだろう。どちらが強いとは判断しがたいが、〈要塞軍〉の方が野性的で荒々しい雰囲気を感じる。

 その中でも特別暴れているのが老人二人だというのだから、普通は目を疑うのだが、三人共老人の素性を知っているがゆえに、特に疑問なく目の前の訓練風景を受け入れていた。

 

 この辺りのことについてアンとリゾルデがしばらく意見を交換する。

 話によれば〈要塞軍〉は、前線にいくつか陣を設けており、それぞれの場所に部隊長と一人前の兵士を置いているのだそうだ。

 ここ〈リガルド〉に滞在しているのは、交代で戻ってきた半分と新人たちなのだとか。

 グレイとの訓練の日数が後になる者ほど、より新しい兵士であり、昨日今日の兵士は割と前線に出ているベテランたちであるとか。

 なるほど、根性があるわけである。

 先輩兵たちがぐったりとして戻ってくるのを見て、今頃新人たちは震えて順番を待っているのかもしれない。

 

「ロブスさんはどういった動きをしているのでしょう?」

 

 要塞軍の展開状態を聞いたクルムは、そういえば姿を見ないロブスについて尋ねてみる。

 

「あれは前線を行き来して、危険な魔物にあたる遊撃部隊を率いてます。個々の戦闘力が最も高い部隊ですね。ロブスが一人前になるまでの数十年は、ラウンド様が直轄していた部隊です」

「忙しそうですね」

「はい。よほど安全と見ない限りは街にもなかなか戻ってきませんよ。長らく王都へ顔を出せていなかったのもそれが理由です。旧アルムガルド領の街を復興させるのであれば、落ち着くまではロブスの部隊とこちらからの兵士を派遣する形になるでしょうね」

 

 何かあるたびアンのほうにも安心できる情報を漏らしていくリゾルデは流石である。

 

 続けてクルムは、さらにもう一つ、頼まれごとについてリゾルデに尋ねる。

 

「この街には加工職人が多くいると聞きます」

「ええ、鍛冶師や鎧職人も。それで〈要塞軍〉の武器や防具を賄っていますから」

「実は今回の旅に、同行してくださった加工職人がいるんです」

「仕事探しですか? 王都ではお抱えでないとなかなか仕事が回ってこないでしょう」

 

 流石旧アルムガルド領の魔物素材を管理している責任者だけあって、状況はよく分かっているようだ。

 

「いえ、人探しに。〈要塞軍〉お抱えの職人にカリヴという方はいらっしゃいませんでしたか? その方が随分前に命を落としたと聞いて、身内のお二人が何があったか知りたいと、同行しているのです」

「なるほど……、加工職人のカリヴですか……。確かに〈要塞軍〉の方から殉職の連絡と、見舞金を送っています」

 

 リゾルデはほとんど考える時間もなく、即座にカリヴについての情報を思い出す。

 余程重要な人物であったにしても、八年も前に命を落とした、一職人のことにしては、あまりに素早い反応だった。

 続けてリゾルデは難しい顔をして「身内の方ですか……」と呟く。

 

「何か問題でもありましたか?」

「いえ、そうですね……」

 

 リゾルデは難しい顔をして、重たい口を開く。

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