「一緒にやってきた方々はクルム様と近しい関係にありますか?」
「そうですね。私たちのところで加工職人をしていただくことになっています。どうやら先生の古い知り合いのようです」
「なるほど……、では率直にお答えしますと、カリヴは生きています」
「それは……。ではなぜ」
リゾルデは水の入ったグラスに手を添えて、しばし考えをまとめるために黙り込んでから、ゆっくりと語り始める。
「カリヴは優秀な加工職人です。古くからの技法を正しく受け継ぎ、新たな発想で加工品を誕生させていました。八年前、〈要塞軍〉を勢力に収めるべく、ヘグニ王子の使いがやってきました」
「ヘグニお兄様、ですか……」
「やってきたのはセナト侯爵一行でしたけれどね」
セナト侯爵家というのは、当代の王、先代の王の勢力下についていた侯爵家で、今の第一王子であるヘグニ王子にも、同様に協力を申し出ている。教育係を出している貴族家ではなく、その一味の一つであるのだが、それでも十分に力を持ち、王国で大きな顔をしている貴族家の一つであった。
「偉く軽んじた態度でやってきましてね、当然お断りさせていただきました。ただ、何もなく帰せば流石に不興を買うであろうからと、〈要塞軍〉一の加工職人であるカリヴに土産を作らせたんですよ。……それが失敗でした。セナト侯爵が、その加工品を身に着けたせいで怪我をしたと文句を言いに来たんですよ」
「実際どうだったんだい?」
アンの質問に、リゾルデはため息を吐く。
「まさかそんなはずはありません。あちらの要求は、カリヴの身柄を引き渡せ、でした。きっといい腕を持った加工職人だから、自分のところに欲しくなったのでしょう。うちの大事な人材を引き渡せるわけもなく、かといって真正面から断わるわけにもいかない」
「貴族ってのは本当にろくでもないねぇ」
「お恥ずかしい限りです」
「すみません」
「別にあんたらのことを言っているわけじゃないよ」
アンの呆れたような言葉に、リゾルデもクルムもつい謝罪をする。
本当にろくでもないという気持ちは一緒であったが、身分を考えれば二人ともそちら側だ。
「本人も〈要塞軍〉の仕事にはやりがいを感じてくれているようでした。だから、よくよく話し合った結果、死んだことにさせてもらったんですよ。大貴族に無礼を働いた加工職人を尋問していたら死んでしまった、と、申し訳なさそうな顔をして、魔物のひき肉を持って行って、セナト侯爵に見せてやったんです。あまり近くで新鮮な肉を見たこともないのでしょうね」
「そのしょうもない奴はどんな反応をしたんだい?」
得意げに話すリゾルデに、先が気になったアンが催促をする。
「青ざめて『何という馬鹿なことを。もういい、野蛮人共め』と言って帰っていきました」
「そりゃあ清々するね」
「はい。……しかし、これでもしカリヴが生きていることを知られた場合、セナト侯爵は激怒することでしょう。そんな理由で、カリヴは書類上も死んだこととさせていただき、最前線で腕を振るってもらっているというわけです」
朗報であった。
もしヴァモスらの立場が曖昧であれば会わせることは難しいが、今の状況を考えれば再会ができそうである。
死んだと思っていた息子や父が生きていたとなれば、随分と喜ぶことだろう。
あの頑固そうなヴァモスが、素直にそれを表現するかは微妙なところだが。
「会いに行くことは可能ですか?」
「構いませんが……、あれは〈要塞軍〉のためとはいえ家族を捨てた男です。私たちからすればありがたい限りですが、ご家族からすれば心中複雑なのでは?」
確かによく考えてみれば、幼いころから父親がおらず、挙句死んだと言われて育ったラーヴァなどは、喜ぶどころかどう接したら良いのかもわからないかもしれない。
こればっかりは本人たちの意思を聞いてみないと何とも言えないのが難しいところだ。
「……カリヴさんの父親と先に相談してみます。本人たちが望むのならば、その後会いに行こうかと」
「そうですか。では、お任せします。会いに行く場合は連絡いただければ、場所を確認してから紹介状を用意します」
「場所、ですか?」
「はい。カリヴはロブスの部隊と共に行動していますので、今どこにいるのか把握するのが難しいのです」
「なるほど……、本当に優秀な職人なのですね」
「はい」
先ほど聞いた話によれば、ロブスの部隊は〈要塞軍〉の中でも最も腕の立つ集団だ。その中に紛れて混ざっているということは、カリヴが〈要塞軍〉に所属する加工職人の中でも、誇張なくトップクラスの腕を持つということなのだろう。
しかしそこでクルムは、一つ疑問に思う。
一応旅をする中で、ロブスはラーヴァたちの旅の目的を聞いていたはずだ。
「ロブスさんはカリヴさんの事情を知らないんですか?」
「ええ。その事件があった頃にはロブスはまだ新入りでしたからね」
「なる程……」
思い出してみるとヴァモスたちはあまりカリヴの名前も出さなかった。
息子、とか、倅、とか、父ちゃんとか、そんな呼び方ばかりしていた。
もしその時名前を出していれば、とも思うが、そうなっていたらなっていたで、ややこしいことになっていた可能性はある。
「ありがとうございます。とにかく、今日は帰ったらカリヴさんのお父さんに、事情を説明してみることにします」
今日やるべきことが終わったところで、三人はまた、旧アルムガルド領の魔物についての話を再開する。
アンの知識は少々古いようだが、リゾルデにとっては知らぬことも多いようで、途中からは一度席を外してしっかり書類に書き起こしながら話を聞いていた。
どうやらこの繋がりは今後、思いのほか強固で有用に作用しそうである。