数日が過ぎて、今カリヴが向かっている場所が判明した。
ロブスと合流して、今は竜食山方面の前線に向かっているらしい。
ちょうどグレイが〈要塞軍〉の兵士たちの訓練を一巡したこともあり、加工屋の二人とクルム、それをグレイが護衛をする形で、北西方面へと向かうことになった。
本来ならばクルムは留守番していた方がいいのだろうが、現場を見たいという本人の希望と、自分以外の者に護衛を任せないほうがいいと考えるグレイの意見の一致により、ともに出かけることになった。
サッシャー家はどうやら〈要塞軍〉との交渉や、冒険者ギルド関係との話で忙しいようで、人が出せないとか。
代わりに、物資を届けるついでということで〈要塞軍〉から荷駄部隊が一つ派遣されることとなった。グレイはすっかり恐れられており、賭け事に負けた部隊が派遣されていることは、クルム陣営は誰も知らない。
旅慣れない三人を連れているため、毎日進める距離はそれほど稼げなかったが、時折しょぼい、といってもクルムたちだけならば殺されてしまうような魔物に襲われ、撃退しながら道を進んでいく。
遠くに見えていた山に少しずつ近づいていくような旅が丸二日。
あと一日も歩けば竜食山のすそにたどり着きそうな湖のほとりに、〈要塞軍〉の基地は展開されていた。
周囲の木々を伐採して作った、かなり立派な外壁を持った基地で、そこらにある村よりよっぽど栄えているし、防衛力も高い。
対魔物の防衛戦も考慮されているようで、外壁には巨大なバリスタのような兵器も並んでいた。
連れてきた〈要塞軍〉の荷駄部隊が取り出した旗を規則的に振ると、間もなく門が開き、クルムたちは中へ招き入れられる。
中にある建物は簡素なものが多かったが、平屋で丈夫そうなものばかりだ。
荷駄部隊が荷ほどきをしている間に、責任者らしき男がやってきて、一人の兵士に耳打ちする。
兵士の一人が、はっとした顔をし、慌てて軽い説明をしたのちにその人物を連れてクルムたちの前へやってきた。
「こちら、ラウンド様の古いご友人であるグレイ様です! ロブス様の先生でもあられるとか」
「ほう、援軍、と考えていいのか?」
「あ、いえ、あ! それからこちら、クルム王女殿下です!」
それから、ではない。
普通はクルムを真っ先に紹介するべきなのだが、強いものが偉い文化で育成された兵士は、そこまで頭が回らなかったらしい。グレイが怖いというのも頭のどこかに常にこびりついていたせいもあるだろう。
王族によってはぶちぎれて首になってもおかしくないところだが、クルムは寛容だった。
まぁ、自分の影響力が低いので仕方ないと考えて、優雅に挨拶をする。
「ハルシ王が第十一子、クルム=ハルシと申します。お邪魔にならないように気をつけますので、あまりお構いなく」
責任者らしき兵士は、ものすごい形相で荷駄部隊の兵士を睨んでいたが、挨拶が始まると姿勢を正して話を聞いて、深々と頭を下げる。
「歓迎の準備もできず申し訳ございません。私、この基地の責任者である大隊長のフーヴァと申します。なにぶんこのような場所ですから、ご不便に感じることもございましょうが、ご寛恕いただきたく存じます」
大隊長というとロブスと同じ身分だ。
要塞軍は大将であるラウンドの下に参謀のリゾルデ。
その下に基地を治める大隊長が数人いるという仕組みになっているらしい。
その大隊長の中でもロブスの立場は特別で、独立大隊を指揮し、いざという時は全ての基地の指揮を執るだけの権限を持っているのだとか。
身分的には横並びでも、権限は一段階上、というのがロブスの立場であるそうだ。
「もちろんです。勝手にやって来ただけですから。こちら、リゾルデ様より預かった手紙です。目を通していただいても?」
「お預かりいたします。失礼」
ナイフで封を切ってさっと内容に目を通した大隊長フーヴァ。
「なるほど……、話は別の場所でしましょう。ご案内します」
先導するフーヴァの後に続いて到着したのは、他と変わらない一つの家だった。
中は物が少なく片付けられていたが、この人数で入ると少々手狭だ。
「こんな場所で申し訳ないですが」
本人もその自覚があるため、恐縮しきりだ。
こんな辺境に王族が来ることなどまずないのだから仕方がない。
何の文句も言わず、嫌な顔もせず、言われるがまま椅子に腰かけたクルムをちらりと見て、『想像していた王族と違うな』とフーヴァは思う。
「ここはお主の家か?」
「はい、私が使っている家です。一番手っ取り早く使える場所であったので」
フーヴァは家の中を軽く見まわす老人にも注視する。
纏っているローブだが、よく見ればそれが魔物の革から作られた特注の品であることが分かった。たたずまいには隙がなく、ラウンドほどではないにせよ、老人とは思えぬほど体つきがしっかりしている。
預かったのは間違いなくリゾルデからの手紙であったため、警戒する必要はないのだが、戦いに身を置く者として、どうしたって警戒心のようなものを抱いてしまう。
木の実で作った特製のジャムでお茶を入れたフーヴァは、客人にそれを配ってから自らも席に着き、緊張を崩さぬまま口を開く。