グレイは平然とした顔でカリヴの行く先を塞ぎ続ける。
互いに理解し合ったのに顔を合わせない意味が分からない。
というか、こんなところまで連れて来てやったのだから、まあ満足、くらいの結果ではなく、最良の結果を残せと思うグレイである。
分かったような顔をしてもどうせ後で後悔するのだ。
特にヴァモスなど、まだまだちゃんと話せていないように見える。
グレイはこの世界で血のつながった家族と碌な関係を持つことができなかった。
最近いつも一緒にいるクルムもまた、愛する家族を失い、半分は血のつながっているはずの兄弟姉妹と骨肉の争いを繰り広げている。
それを見ていると折角わだかまりなく仲良くできるのだから、ちゃんと仲良くしろと思うのも当たり前のことであった。
「かっこつけとらんで、娘の顔ぐらい見てはどうじゃ」
顔には穏やかな賢者めいた笑みを貼り付けながら放たれたのは、身も蓋もない言葉であった。
職人らしい意地を、かっこつけで済まされてはカリヴも面目がない。
ぐっと顔をしかめたが、そんなものはグレイからすれば怖くもなんともない。
「口を出さないでくれ。あんたには関係がない、俺には俺の生き方がある。さぁ、どいてくれ」
勝手な言い分にぴきりと額に青筋を立てるグレイ。
交換条件とはいえ、ここへヴァモスとラーヴァを連れて来てやったのはグレイである。関係ないとはどういうことだと思う。もしどこぞの知らんやつに言われていたのならば、既に手が出ていたところである。
無言のグレイを見て、やっとわかってもらえたかと横をすり抜けようとしたカリヴだったが、グレイは当然のようにまたその目の前に立ちはだかった。
こうなったら意地でも通す気はない。
奥でついにヴァモスが噴き出して「ぶはは」と笑いだしたが、カリヴはそれどころではない。
「どいてくれって、いってる、だろ!」
カリヴは必死になって移動するが、その都度グレイがついてくる。
フェイントをかけてみたりしたが、グレイの移動が速すぎて結局は通り抜ける前に立ちはだれるので全く意味はなかった。
ただ娘に滑稽な後姿を見せただけである。
その上口を出さないでくれと言われて完全に腹を立てたグレイは、カリヴが何を言っても無視して口を開こうとしない。
そうこうしているうちに、ラーヴァは困っているようだったが、やがて笑い転げたヴァモスが立ち上がり、息を切らし始めたカリヴの肩にぽんと手を置いた。
「色々と言いたいこともあったんだがな、今のやり取りを見ていたらどうでも良くなった。この糞爺はな、人の言うことを聞くのが多分大嫌いなんだ。お前がどんなに頑張っても絶対退きやしないぞ。諦めて久しぶりに話でもしよう、倅よ」
カリヴはそれでも長らく無言であったが、ヴァモスは気にすることなくさらに話しかける。
「お前が家を出てから十年以上。積もる話もあるだろう。俺の父ちゃんとこの頑固爺の話もしてやる。ほら、こっちへ来て座れ」
「…………そうだな、諦めるか。ロブス、時間を貰ってもいいか?」
「あ、いいっすよ。駆鎧竜の加工があるんで、そっちを後でみんなで手伝ってくれるなら」
すんなり許可を出してやれば良いのに、余計な条件を付けるロブス。
どうやらヴァモスとラーヴァまで加工屋の数に数えているらしい。
まぁ、親子三代で一緒に作業をできると思えば、ある意味ナイスアシストなのかもしれないが、決して空気を読んでの提案ではないことを、ここにはっきりと明記しておく。
「……お前、もう少し気持ちよく返事できないのか?」
「してるじゃないっすか、いいっすよって」
「はぁ、もういい。……親父、ラーヴァ、少し話をするか」
カリヴが振り返ると、それとすれ違うようにクルムが部屋から出てきてグレイの横に並ぶ。家族水入らずで過ごさせてやろうという気遣いだ。こちらはロブスとは違ってきちんと空気を読んで行動している。
「ちょいとその辺りを散歩してくるか」
グレイはそんなことを言って、ドアをぱたんと閉めて歩き出す。
ロブスも、まだフーヴァと話すべきことがあるのか、グレイに一言挨拶してさっさと去って行ってしまった。ここでクルムには挨拶しないあたり、ロブスも中々の無礼者である。
無礼者の対応にもすっかり慣れたクルムは、毛ほどにも気にしていなかったけれど。
宣言通り散歩を始めたグレイは、基地の中をぷらりと散歩する。
横に並んで歩いているクルムは、家から少し離れるとおもむろに口を開く。
「良かったですね、ラーヴァさんたち」
「うむ、そうじゃな」
「カリヴさんが無事だったことも、ああして話す機会ができたことも。やはり家族はいいものです」
亡くなった母や兄たちのことを思い出しているのか、クルムはしばし穏やかな表情で静かに歩き続ける。グレイと二人きりの時には、随分と年相応の顔つきもするようになったクルムだ。
最初は険悪なところから始まり、取り繕っても仕方がないからこそ本音を話していたが、最近ではちゃんと信頼もしている。
だからこそクルムは途中でハッと気づいたことがあった。
こっそりと隣を歩くグレイの表情を窺うと、難しい顔で遠くを見ているではないか。
「……すみません」
クルムは失態を謝罪する。
カリヴたちの再会は確かにめでたいことであるし、クルムの家族との思い出も悪いものではない。しかし、グレイを前にして『家族はいいもの』というのは少々無神経だったと思ったのだ。
何せグレイは、実の父と兄を、その手で殺しているのだから。
「何がじゃ?」
「……いえ、なんでもありません」
グレイの返事に、どうやら触れないほうが良かったかとクルムはすぐに引き下がる。どんな因縁があったにしろ、良い思い出ではないに決まっているのだから。
グレイは曖昧な返事をするクルムに、内心で首をかしげる。
グレイはただ、先ほどのカリヴの態度に、まだ少々腹を立てているだけだったのだ。決してクルムが思うような繊細な気持ちで遠くを見ていたわけではない。
どうしたらカリヴにちょっと嫌な思いをさせられるかと、真面目な顔をして考えていただけだ。
どうやら二人には少々すれ違いがあるようであったが、グレイはそういった細かいことはあまり気にしないたちである。
すぐにカリヴへの嫌がらせを考える方へと、思考を切り替えたのであった。