転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ここをキャンプ地とする

 基地を抜けて山に向けて道を進んでいくと、驚くほどたくさんの魔物が現れるようになる。それらは人の半分ほどの大きさしかなくても、その鋭い爪や牙、あるいは特殊な力を使って平気で襲い掛かってくる。

 グレイとロブスは、ほんの僅かにもてこずることなくそれらを撃退していくが、同道しているクルムは、この魔物の楽園の中で、人がどれだけひ弱な生物かを思い知らされていた。

 一人で歩けば三十分もしないうちに命を落としてしまうことだろう。

 

「王女殿下はなんで一緒に来たんすか?」

 

 相変わらず遠慮のない質問を投げかけてきたのはロブスだ。

 役にも立たないくせに何しに来たんだ、という意味に捉えることもできるが、おそらくただ疑問に思って尋ねただけだ。

 デリカシーがないだけで、性格が悪いわけではない。

 

「魔物がどのようなものか自分の目で確認するためでしょうか。……基本的に先生から離れないようにしているのもありますが。どこにいるより先生の近くにいる方が安全そうなので」

「確かにそうっすね。分かってても魔物たちの山に乗り込むなんて中々できないっすけど。王女殿下って弱いわりに勇気あるっすね」

「……ありがとうございます」

 

 褒めているのだ、これは。

 決して馬鹿にしているわけではないと自分に言い聞かせて礼を言う。

 隣でグレイが肩を震わせて笑っているが、腹が立つのでクルムはそちらから目を逸らした。

 

「ってことは、王女殿下の護衛って先生に任せていいすか?」

「そうじゃな。お主は好きに動くが良い」

「そりゃあ助かるっす」

 

 そんな雑談をしながら少し歩いたところで、ふとまたも何かを思い出したらしいロブスが口を開く。

 

「そういえば王宮にいた時、先生以外からも結構話しかけられたんすよね。魔物素材の取引とか、なんか〈要塞軍〉とどうとかごちゃごちゃ」

「ほう、そんなことがあったのか。どうしたんじゃ?」

 

 滅多に来ない要塞軍の重鎮が顔を出していると聞いて、どこかの勢力が動いたのだろう。グレイはたまたま遭遇しただけだったが、広い情報網を持っている者であれば、ロブスの帰郷は知らされていたのかもしれない。

 

「いやぁ、なんか知らない貴族とか、どこの誰とか言われてもあんまり興味ないんすよね。味方しろとか素材譲れとか〈要塞軍〉やめてどうとか、偉そうなこと言うんで全部断わったっす。リゾルデさんに相手すんなって言われましたし」

「ま、そうじゃろうな。そもそもお主何しに王都に来ていたんじゃ」

「そりゃあスペルティア様の勧誘っすよ。あと、一応年一の陛下への報告っす。たまには顔を出しとけって言われて仕方なく」

 

 〈要塞軍〉の参謀であるリゾルデは、次代の中心にロブスを据えようと考えている。言動に問題のある男だが、それはラウンドも同じである。

 まだ自分たちが元気で余裕のあるうちに、一応上の組織である王家には、顔を通させておくべきだと思ったのだろう。

 思惑は分かるが、よくもまぁそんな胃が痛くなりそうな決断をしたものである。

 

 ロブスは喋りながらも頭上の木からぶらりとぶら下がってきたものを、片手間にトンファーで粉砕する。それは腕の長さほどもある鎌のような手を持った、木々と同じ色をした、虫のような魔物であった。

 降りる瞬間にはぎしぎしと音を立てていたが、鎌を砕かれ、そのまま頭まで吹き飛ばされた今はピクリとも動かない。

 

 グレイの宣言した通り、夕暮れ時には竜食山のふもとに到着する。

 森を抜けて、背の低い草花が目立つような地形なのだが、その中に自然と調和していないものが所々目に入ってくる。

 それは、焼け焦げて炭のようになっている木々や草花であった。

 普通に考えれば人が野焼きしたのかとも思うが、こんなところに人は住んでいないし目的もわからない。

 

 クルムが一体何事かと周囲を警戒し、斜面の上へと目をやると、火山岩の塊のようなものがむっくりと頭を起こしたところだった。

 閉じていた目がぱちりと開く。黄色い目に縦長の瞳孔がじろりとクルムたちの方を向いた。

 ぺろり、と長く赤い舌が出たかと思うと、ぱかりと口が開く。

 

 その瞬間、ロブスは地面を蹴ってその魔物の正面から回避。

 その場で固まっているクルムと、何かを口の中で唱え、正面に上から下へ流れる水のベールのような壁を生み出すグレイ。

 岩に擬態していたトカゲのような生き物の口から炎が吐き出されると、その軌道上にある草木を焦がしながらグレイに迫る。

 

 驚きで声も出ないクルムだったが、炎は水のベールを貫通するほどの威力はないようだ。凄まじい水蒸気が上がっているが、その熱の一部もクルムの元へ届くことはない。

 

「フレイムタン、じゃな。岩に擬態し、近づいたものを燃やし尽くして食らう。雑食のようで、燃えたものなら何でも食らうようじゃがな」

 

 グレイが呑気に解説をしているうちに、水蒸気の向こうから吼えるような声が聞こえ、すぐに静かになる。

 

「仕留めたっすよー」

「うむ、よくやった。これでこの辺りは今晩安全じゃろう。さて、一晩休んで明日は山登りでもするかのう」

 

 どうやら先ほどの音はフレイムタンの断末魔の叫びであったらしい。

 水蒸気が晴れた向こうから、ロブスが悠々と歩いて降りてくる。

 

「流石先生、身体強化すごいっすね。めちゃくちゃ動きやすいっす」

「前も言ったがな、すぐに使いこなせるお主も大したもんじゃ」

 

 クルムがよく分かっていない間に、二人はしっかりと言葉もなく意思疎通をこなし、この一帯を占拠している魔物を討伐したようだ。どちらもが本当に超上澄の戦力であることをまじまじと見せつけられたクルムは、その異次元の強さに、感嘆のため息をつくことしかできなかった。




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