転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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これがグレイ流の魔法

 ここのエリアを牛耳っていたフレイムタンを倒したおかげか、グレイの言う通りその晩は何も襲ってくることがなかった。

 朝になってしっかりと食事をとってから、グレイとロブスは山を登るのではなく、ふもとのエリアを移動していく。

 

「山は登らないのですか?」

「ふむ……、登りたいなら別に構わんが?」

「や、それはなしでお願いするっす」

 

 クルムの純粋な質問に、少しばかりワクワクしながらグレイが答える。

 今にも足先が頂上方面へと向きかけたところで、ロブスが待ったをかけた。

 

「なぜでしょう?」

 

 三人は歩きながら会話を交わす。

 ここまで歩いていてクルムが分かったことは、山のふもとの辺りの魔物は、グレイとロブスにとっては気を張る必要がないほどの相手ということである。昨晩のフレイムタンが特別強かった、と感じる程度には相手になっていなかった。

 だからこそ邪魔にならないようにずっと黙っていたクルムも、話を始めることができたのである。

 

「あー、竜食山って、基本的に上に行くほど強くて厄介な魔物が多いんすよ。そんなん刺激して、基地まで下りてこられても困るんで。そもそも今回のこれって、ふもとの方に魔物が増えてるっぽいから、間引くために来てるんす。本来フレイムタンだってもうちょっと上の方にいる魔物なんすよね」

「やはりそうですか……。今日出会った魔物より強そうだと思っていました」

「お、分かるもんすか? あの炎、先生が防いだからいいっすけど、避けられないと致命傷っすからねぇ。動作が緩慢なんでよそ見してなきゃ大丈夫っすけど、中腹に行くとあれが複数体出たりするんで面倒なんすよ。フレイムタン自体は炎に耐性があるんで、仲間とか関係なくボーボーやってくるっすからね」

「なるほど……、確かに危険ですね」

 

 四方八方から火炎放射をされては、どこから倒したらよいかわからない。

 誰かが囮をしながら、ロブスのような強力な一撃を持つ者が一匹ずつ潰して回るかな、などと想像をはたらかせる。

 

「それに。上の方行くと、空を飛ぶような魔物もかなり増えるんす。魔物が空飛んでても魔法使える先生は倒せるでしょうけど、俺は難しいんすよ。だから今回は駄目っす」

 

 自分で責任が取れる範囲でしか動かないあたり、ロブスは好き勝手やっているように見えて意外と職務に関してはしっかりとしているようだ。

 

「しかしのう、一匹くらい変なのを倒していきたいところじゃ」

 

 そしてこちらは自分の職務にも、教え子の職務にもあまりしっかりとしていない老人の発言である。この発言の意図は、難しそうな素材を持って帰ってカリヴを困らせてやろうというものでしかない。

 

「先生がちゃんと責任もって刺激した奴皆倒してくれるならいいすよ。俺はこの辺フラフラして帰るっすけど」

「ほう、では山登りするかのう。クルムも期待していることじゃし」

「いえ、危ないとわかったのでもう結構です」

「ではロブスよ、頑張るんじゃぞ」

「先生、私の話を聞いていますか?」

「なんじゃ? 最近とみに耳が遠くてのう。山登りしているせいじゃろうか。さ、しっかりついてくるんじゃ、はぐれると死ぬぞ」

 

 耳にわざとらしく手を当てて、さっさと歩き出したグレイ。

 余計なことを言ってしまったと後悔しつつ、背中に飛んできた「んじゃ、帰りもそれぞれで」というロブスの気の抜けた声を受け止め、グレイの後に続くクルム。

 

 しばしずんずんと先に進んでいたグレイだったが、すぐに歩調を緩めてクルムが急がなくても良いようにゆっくりと歩き出した。竜食山は、てっぺんには雲がかかる程高い山であるが、急勾配ではなく裾野は広い。

 その分面積も広く、様々な魔物が暮らしていくに最適な環境となっているのだろう。

 

 クルムがこれまで見たことのあるグレイの戦う姿は、大抵が素手で相手を叩きのめすようなものであったが、ここにきてようやく魔法使いらしい姿を見せ始める。

 クルムの安全に配慮しているのか、敵が接近する前に魔法を使用して仕留めていくのだ。

 

 ただ、それでもグレイらしさというのは残っていた。

 魔法というのは本来勝手に飛んでいって相手を仕留めるものであり、場合によっては動物のような姿を模して、相手を追尾するようなものだってある。

 それに対してグレイのはどうだろう。

 

「ぬぅううん!」

 

 グレイが腕を振るって放ったのは鋭い氷柱。

 それがまっすぐに空を飛ぶ翼竜のような魔物の首にあたると、刺さるのではなく、勢いのまま首を引きちぎる。

 そういえば駆鎧竜と戦った時も、腕を振るって魔法を投げつけていた。

 なぜそう脳筋じみた動きをするのか。

 どうして最後まで魔法使いらしさを維持できないのか。

 クルムは自分が魔法をきちんと使えないだけに、魔法というものに多少の憧れを持っていたのだが、すごいのはすごくても、どうも素直に感動できない。

 

「先生って、あの、もっと魔法らしい魔法は使わないんですか?」

「なんじゃ突然。使っておるじゃろうが」

「そうではなく。魔法って普通自動で飛んでいくものではありませんか?」

「これの方が魔力を消費せず効率が良いのじゃ。見た目にこだわって何の意味がある」

「……なるほど」

 

 納得はできる。

 納得はできるのに、なぜか少しだけ悲しい気持ちになったクルムは、どこか遥か遠くに落下した氷柱が砕ける音を聞いて、とりあえず今は黙って歩こうと決めたのであった。

 

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