竜食山前基地に戻ったグレイは、さっそくカリヴたちの場所を尋ねると、持って帰ってきた屍纏いの核と、それを覆っていた骨のいくつかを渡しに向かった。あまり趣味がいいとは言えないが、魔物の素材自体は貴重なものだ。
基地には加工屋が使うための仕事場が用意されており、今は親子三代で、共に作業をしているらしい。
あけ放たれたままの扉をくぐると、それぞれが真剣な顔をして加工に取り組んでおり、気軽に話しかけて良いような空気はなかった。グレイは声をかけずに静かに適当な場所で腰を下ろして、加工職人たちの背中を眺める。
嫌がらせをしてやろう、という気持ちはあっても、相手が真剣に取り組んでいることを邪魔するつもりはないようだ。
クルムもそれに倣って、静かに作業が終わるのを待つことにした。
最初にグレイがやってきていることに気が付いたのは、咳き込んで作業を中断したヴァモスであった。背中を伸ばして一休みするために、水を飲んで一度は椅子に座ったが、グレイを見つけて立ち上がって歩み寄ってくる。
ちょうどきりの良いところだったのだろう。
ラーヴァとカリヴも手を止めると、グレイたちがいることに気づいて、親子三代横並びになって頭を下げた。
「お二方のお陰で、父と娘に再会することができました。先日は動揺のあまり失礼な態度をとったことを謝罪させてください」
「あんたは約束を守ってくれた。だから今度は俺たちが約束を守る番だ」
「爺ちゃんからしっかり仕事は教わるからさ、こき使ってくれよ!」
カリヴが謝罪し、ヴァモスが真面目な顔で告げ、ラーヴァが笑った。
グレイはこれでは嫌がらせもしにくいではないか、と思いつつ、対応をクルムに任せるべく黙り込む。
ここから先は、クルムの仕事だ。
「……ラーヴァさんは、お父様と共に仕事をしなくていいのですか?」
「ああ、いいんです。元気だってこともわかったし、それなら私は父ちゃんを目指して立派な加工職人になるのが一番! その代わりクルム様、たくさん仕事を貰えると嬉しいです!」
「そうですか……。……では、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ヴァモスさんも」
「ああ、任せ……ておいてください」
勢い込んで返事をしようとして、クルムが王女であることを思い出し、丁寧な言葉に直したらしい。グレイには丁寧に接する気がないようだが、クルムに対してはそうもいかない。
「……ほれ、再会の祝いじゃ。魔物の骨と屍纏いの核が入っておる。お主らで好きに使うが良い」
「屍纏いの核……? そんなものは見たこともありませんが」
素直に袋を受け取ったカリヴは、すぐにその中を覗き込み首をかしげる。
「触っても大丈夫ですか?」
「うむ、問題ない」
既に体液は取り除いてあるから、本当に核の部分だけだ。
指先で摘まむように取り出した核は、ぶにぶにとしており、他にはあまり見かけない素材だ。
「これは、変わった……」
「ま、好きに使うが良い」
困惑した表情を見て満足したのか、グレイは踵を返してその場を立ち去る。
実際再会したのはよいことだと考えているし、嫌がらせはおまけみたいなものだ。
竜食山の実地調査もできたので、ひとまず今この場でできることは全て終わらせたグレイである。
翌朝、寝起きの筋トレをしているグレイの元に、目を少しばかり充血させたカリヴが走ってやってくる。
「……ちょっと見てくれ!」
そう言って手に持っていた骨をナイフで削り始めたカリヴを、筋トレをやめることなく見つめるグレイ。何を言いたいのだろうとぼんやり見ていると、数度擦ったところで、骨から落ちた粉から火が上がった。
「この骨なんだが、普通のものより弾力が出て可燃性が上がっている。これらは屍纏いの纏っていた骨なのか!?」
「うむ、そうじゃが」
「そうか、なるほど……、ありがとう! それだけだ!」
あの調子だと一晩中貰った素材について調べていたのだろう。
ちょっと嫌がらせをするつもりが、普通に喜ばせてしまったようである。
嫌がらせ自体は失敗したが、カリヴが加工屋らしく新しく見た素材に目を輝かせている様を見て、グレイはそんなことはどうでも良くなった。
グレイは晴れやかな気分でいつもより多めに筋トレをして、朝から干し肉をかじり、そろそろ起きて来るであろうクルムをのんびりと待つことにするのだった。
数日経った帰り道、ヴァモスとラーヴァはなぜだかぐったりとしていた。
それというのも、カリヴと共に、新しい素材をああでもないこうでもないと、寝る間も惜しんで議論を交わしつつ、色々と調べていたらしい。
結果的にはあの核は、他の素材の間に挟み込んで鎧とすることで、衝撃の吸収をするのではないかという結論に落ち着いたのだとか。
ただし可燃性が高いので、その辺りは十分に気を付ける必要が云々。
話が難しくなってきたので、グレイは途中から適当に聞き流すことにした。
どうやらそれなりに画期的な鎧になりそうなのだが、問題は屍纏いの核を手に入れることが非常に難しいことである。
何せ燃やしてしまうと取れない素材だ。
間違いなく希少素材になるであろうことは、現時点ではその全容を知っているクルムしか想定していないのであった。