転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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心当たり、ないですね

 死体を調べてみたが、どこぞの勢力と判別するだけの証拠は見当たらなかった。

 身分のわかる様な間抜けを暗殺に送ってくる者もいないだろうから当然なのだが。

 だからこそ生かして情報を得るべきだったのを、死体しか確保できなかったのは失敗だ。

 グレイは暗殺者を送られることには慣れていたが、それがどこから来たかなどは気にしたこともなかった。その頃は、分かったところで国へ帰って復讐するつもりもなかったし、普通に殺してしまう方が手っ取り早かったからだ。

 返り討ちにすることは容易いが、生かして捕らえることは難しいことを、この年にして学んだところである。

 

 朝になって先に姿を現したのはクルムだ。

 いつも通り朝の訓練をするためであったが、グレイの元へ向かってみれば死体が二つ無造作に転がっている。

 

「これは……!」

 

 クルムは多少動揺したようだが、眉間にしわを寄せつつも傍によって死体をしっかりと観察する。動揺が激しいようであれば、注意の一つでもしてやろうかと思っていたグレイであるが、その心配はないようだ。

 どこにいても王を目指すものとしての資質を試されるクルムも大変である。

 

「昨晩襲撃があってのう。どこから送られてきたか心当たりはないか?」

「先生はもう調べたのですよね?」

「うむ」

「残念ですが、こういった裏の者に私は詳しくありません。それよりも……、これがもし私に向けて送られてきたものとなると、ウェスカたちが心配です。王宮にいる限りは流石に暗殺しようとはならないと思いますが……。想定よりもずいぶん早く襲撃されました。……何か、見落としている接触があったのか……、それとも、私たちが出かけている間に問題が起こったのか……」

「ふむ……、確かにそうじゃな」

 

 ウェスカたちが心配という言葉にグレイは納得したような顔をしたが、内心で一つ思い出したことがあった。

 それは、ビアットに荷物運びをさせている時に、よく分からん木っ端貴族もどきと揉めた件である。

 そういえばあれ、クルムに報告していなかったなぁ、というのを『見落としている接触』という言葉で、唐突に思い出したのだ。

 もしかしてあれじゃね、と思いつつも、ここで正直にばらすと威厳とか諸々が下がりそうなのでお口にチャックしてしっかり黙り込むことにした。多分ビアットはグレイのことを怖がっているから、グレイさえ黙っていれば事は表沙汰にならない。

 

 これは王都へ行ったら、ちょっと王宮内を練り歩いて、あの時の木っ端貴族もどきを見つけてその親玉の首を引っこ抜く必要がある。

 どうせ暗殺者を送ってくるような連中だから、殺したって罪悪感はこれっぽちもない。あちらはグレイから売られた喧嘩というかもしれないが、元をただせばビアットをひっぱたいたあの木っ端貴族もどきが悪い。

 やっぱり殺しておくべきだった。

 どうやってばれないように奴らの親玉の首を引っこ抜くか。

 そんな物騒な思考をおくびにも出さずに、何かもっと別のことを深く考えているかのように、グレイはもったいぶって鬚をなでる。

 

 思考回路は、悪戯がばれそうになって、どうにかしてうやむやにして誤魔化そうとしている子供と同じである。

 

「少し急げないか、パクス様に相談してみます」

「それが良かろう」

 

 クルムがパクスに話を伝えると、すぐに全員が集まって死体を確認することになった。顔を青くしていたのがスリップだけだったことで、この面々が非常に修羅場慣れしていることがよく伝わってくる。

 

「私目的の可能性もありますね。派手に動いていますから。あとはまぁ、鞍替えしたスリップさん狙いとか」

「私ですか!?」

「そうですよ。十分に利益は出るでしょうから、ちゃんと常に護衛を雇って自衛してくださいね。死んではこちらも困るので」

「は、はい……!」

 

 これまで無難にやってきたスリップからすれば、突然別世界に放り込まれたような気分だ。だが、パクスの死んでは困るという言葉を聞いて、自分もある程度は頼りにされているのだと、気持ちを奮い立たせたようだった。

 普段冷淡であるからこそ、こういう言葉が刺さるのだろう。

 当然計算ずくだけれども。

 

「いずれにせよ急ぎましょうか。スリップ、急げばあとどのくらいで到着しますか?」

「早くて明日の夕暮れくらいには到着できると思います。門の開いている時間に着けるかどうかは微妙ですね」

「では間に合わせてください。食事は保存食を、休憩は、馬の休憩時間のみです。先生、よろしいですか?」

「構わん、さっそく出発じゃな」

 

 時間が惜しいという思いは共通だ。

 死体の埋葬もそこそこに、一行はさっさとその場を離れることにした。

 

 馬車の中でクルムは真剣に襲撃を指示した相手を考える。

 一番可能性としてあり得るのはケルンだ。

 古くからの血筋だけを大事にしている貴族たちに祭り上げられて、その気になっている男。伝手やコネだけは多く、クルムの知らない裏の業界にもそれらは存在するはずだ。

 パクスや〈要塞軍〉といった新しい勢力との関わりばかりあるクルムとは、正反対の勢力である。故に情報も少ない。

 クルムは焦る気持ちを落ち着かせようと、王都に戻ってからの計画を綿密に練り上げていくのであった。

 

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