転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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バッハ侯爵家との因縁

 バッハ侯爵家は、昔から旧貴族派閥での裏工作を得意としてきた家柄だ。

 歴代の王の教育者を出したことだって幾度もあり、歴史の転換期には多くのライバルたちを秘密裏に葬ってきた実績がある。

 もちろん表沙汰にはならないからこそ続けてこられたわけだが、証拠はなくとも、どの家もなんとなくその事実は知っている。だからこそ、旧貴族派閥での発言権は大きく、誰からも気を遣われてきた。

 

 そんなバッハ侯爵家が力を失ったのは、先代国王戴冠の頃の話。

 普段は王位継承者争いに参加していない、アルムガルド家が政争に参加してきたのが何よりの想定外だった。

 野蛮なアルムガルド家は、野生の勘か何か知らないが、バッハ侯爵家の暗殺者たちを次々に返り討ちにしていく。アルムガルド家の当主は王宮を我が物顔で歩いては、敵味方勢力関わらず、バッハ侯爵家の行動すべてを邪魔し続けてきた。

 それだけならばまだしも、その息子二人ですら異様な強さをしており、それぞれが別勢力の王子と手を組んで、同様にバッハ侯爵家の行動を邪魔してきたのだ。

 

 随分と精鋭を減らされて、もう今回ばかりは大人しくしているしかないかと、バッハ侯爵家先代当主が手を引くことを考えていた時、事件は起こった。

 王宮で野蛮なアルムガルド家が、それぞれで争い、父親と兄が死亡、弟の方の国外追放が決まったのだ。生き残った弟の方も酷い手負いの状態のまま王都を出たと聞いて、恨み骨髄だった先代当主は、確実に殺すために残った手勢を招集して向かわせた。

 

 そして、誰も帰ってこなかった。

 バッハ侯爵家は力を失った。

 本当に全勢力を向かわせてしまったがために、残ったのはノウハウ程度で、部隊の再建のためには随分と時間がかかってしまった。

 その間に次の王位継承争いが発生。

 そこでも力が発揮できず、旧貴族派閥の中でも力を失いつつあったのがここ数十年でバッハ侯爵家の在りようであった。

 その間に先代と当代の王の後見勢力にも、バッハ侯爵家と同じような裏工作を得意とする部隊が発足。今では商売敵も随分と増えて、状況は全盛期よりも随分と厳しいものになっている。

 

 それでも数十年かけて再興した暗殺部隊は、当時と劣らぬ強力なものとなっている。今回の王位継承争いで、幾度かその腕を振るわせてみたが、十分な成果を発揮しているところだ。

 

 王位継承争いでは強い候補を推すことはできなかったが、旧貴族派閥に縁の深いケルンの後押しはできている。この争いの中で十分な力を発揮しているバッハ侯爵家は、旧貴族派閥の他家からは、改めて評価され、最近では畏怖の目を向けられるようにもなってきていた。

 

 ケルンは優秀ではないが、だからこそ操りがいはある。

 当代のバッハ侯爵は強い野心を抱き、いざとなれば第一子であるヘグニ王子も、ぎりぎりとなれば暗殺してしまうつもりでいた。どんなに怪しかろうと、応援したケルン王子が王位についてしまいさえすれば、全てうやむやにすることができるのだから、関係のない話なのだ。

 

 さて、そんなバッハ侯爵家では少し前に問題が発生していた。

 生意気にも王位継承権争いに参加してきたクルム王女を排してやると、旧貴族派閥の会合で言外に宣言したにもかかわらず、妙な爺に邪魔をされて失敗したとの報告が入っていたのだ。

 何の冗談かわからないが、どうやらクルム王女には凄腕の爺が護衛についているらしい。

 

 暗殺部隊というのはあくまで奇襲がメインであるから、そりゃあ真正面から戦えば勝てないことだってある。

 話によればクルム王女には、他にも、あの怪しげなパクス商会の護衛冒険者も付いていたという。冒険者というのは目ざといものだから、おそらくそのせいで正面からの戦いに持ち込まれたのだ。

 

 そうでなければおかしいくらいには、暗殺部隊の練度は高まっていた。

 実際に現地にいた者からは、恐ろしい相手だったと再三進言されたが、他部隊の隊長はそれを惰弱として切り捨てて処刑した。それに関してはバッハ侯爵も同じ見解である。

 

 ただ、しばらくその爺の正体を調べていくうちに、その名が『グレイ』であることが分かった。バッハ侯爵は、父から手を出すなと言われた者の名を思い出す。

 グレイ=フォン=アルムガルド。

 アルムガルド家唯一の生き残りだ。

 その父は、最後までアルムガルド家を敵に回したことを後悔していた。

 

 しかしバッハ侯爵はそこでとどまらなかった。

 現バッハ侯爵は、家をひどく没落させた先代を、内心蔑んでいたのだ。

 当時子供であったバッハ侯爵は、自信たっぷりだった父が、頭を掻きむしり、すっかり髪の毛を亡くしてしまったのを間近で見ていた。

 こうはなるまいと、自慢の暗殺部隊の刃を研ぎ続けてきた。

 

 もし仮にそのグレイが、手を出すなと言われた本人であったとしても、所詮もう爺だ。

 あの『剃刀』とまで言われて王宮で畏敬されていた大臣、バミ=レックスですら、今ではもうすっかり衰えて、引退間近とささやかれている。

 

 むしろ本物であればいい。

 そうすれば忌まわしきバッハ侯爵家の敵、アルムガルド家の息の根を止めることができる。

 

 そんな風に張り切っていたところに、ふともう一つ、妙な話が舞い込んできた。

 

 なにやら、旧貴族派閥に属するユゥバ子爵家から、秘密裏に話がしたいと連絡が来たのだ。

 普段は真面目腐って仕事ばかりしている男で、暗殺部隊の育成に精を出すバッハ侯爵をはじめとした、裏工作を得意とする者たちに冷たい目を向けることのあった男だ。

 

 おかしい、と思ったバッハ侯爵は、当然裏を取るべく、急ぎ近辺の情報を探り始めたのであった。

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