転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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旧貴族派が知る当時の事情

 クルムは貴族たちに対する伝手はなくとも、ある程度今の勢力図のようなものを頭に思い描くことができている。誰も読まないような資料を読み込み、ファンファから聞いた話などと照らし合わせた結果、それは推測を超え、ほぼ正しい現状把握となっていた。

 

「もし順当に、第一子であるヘグニ王子が王位継承争いに勝利した場合、三代続けてオブラ侯爵派閥が権力を手にすることになりますね」

 

 結果クルムは、旧貴族派の立場がかなり危ういという答えを導き出している。

 それは今に始まったことではなく、先代からじわじわと広がっている危機感であったはずだ。

 旧貴族派閥として力を持っていた貴族たちは、当代に変わった辺りから何かと難癖をつけられて落ちぶれてきている。それは二代続いて権力を持ったオブラ侯爵家が、ライバルとなり得る存在を消しているからに他ならない。

 

 王位継承争いは、二代続けて同じ家が教育者を輩出することは、今までなかったのだ。こうなることが想像できていたからか、それだけは全力で阻まれてきた。

 旧貴族派であれば、旧貴族派の中でうまく力を回し、田舎者が天下を取れば、調子に乗らぬように圧力をかけてきた。

 王国の勢力バランスをとるための番人。

 それこそが、旧貴族派の役割だったわけである。

 今バッハ侯爵家が自由に泳がされているのは、既に力を失っており、何もできないとオブラ侯爵家から判断されていたからに過ぎない。暗殺の力を失ったバッハ侯爵家など、目の上のたんこぶとすらならなかったのだ。

 

 数ある名門が狙い撃ちで落ちぶれていく中、そんな扱いをされたバッハ侯爵の心中は複雑だった。助かったと思う一方で、それ以上の『今に見ていろ』という鬱憤を溜め続けてきた人生だったのだ。

 

「……アルムガルドを味方にしながら、その話をされるのか」

 

 追い詰められているバッハ侯爵の口から、思わず本音が零れ落ちる。

 先代国王の王位継承争いの時代。すなわち、アルムガルド家が大暴れした王位継承争いは、これまでとは違う戦いが繰り広げられていた。

 

 当主であるアルムガルド辺境伯は、誰と手を組んでいたのかもわからず、見える範囲に怪しい動きを見つけると、全て邪魔をしてみせた。ただ未然に防ぐだけならばともかく、殺しの証拠を見つけるや否や、どこまでもそれを追求して追い詰めに来るから質が悪い。

 話によればアルムガルド辺境伯の争いへの参入は、あまりに裏工作の多い王位継承争いを正常化しようという、当時の王、つまり先々代の王による思い付きによるものであったらしい。

 

 結果、争いに参加した家は大いに手勢をすり減らし、多くの貴族が失脚し、命を落とした。

 

 それだけならばまだしも、アルムガルドはもう二人いた。

 後継者である嫡男は、アルムガルド辺境伯や、弟のグレイとは違って話の分かる男だった。

 それでいて、父である辺境伯ほどではないにしても、とても強かった。

 そして、年の半分以上は自領に戻っているアルムガルド辺境伯とは違って、常に王都で暮らしていた。

 貴族のやり方にも、裏工作にも、理解の深い男であった。

 あの男だけであれば、いや、最悪アルムガルド辺境伯がいたとしても、弟のグレイさえいなければ、こんな事態には陥っていなかったかもしれない。

 

 旧貴族派のバッハ侯爵が聞いた話、つまり、グレイの事情を知らないものからの見解を述べれば、グレイという存在は本当にただの理解及ばぬ化け物だったらしい。

 優秀なナックス王子の親友にして、共に若くしてエルフの森の変事を解決した立役者。それでいて、王位継承争いには興味がなく、ナックス王子の後援もしない。

 振りかかる火の粉だけは払っていたようだが、気にくわない同世代の貴族子息を叩きのめすくらいで、積極的に王位継承争いの敵を排除するような動きは見せていなかった。

 

 その結果、有力な候補であるナックス王子が殺され、突然暴れ出した。

 そう、周りからすれば当然の帰結であるそれが、グレイには予測できなかったらしい。その背景には、旧貴族派閥に伝わらない、アルムガルド家嫡男による暗躍などがあったのだが、そんなことは今や誰も知らない。

 

 ほぼすべての候補者がいる王宮の会合の場で、アルムガルド家嫡男と、それが支援していた王子を殺そうとし、止めに入ったアルムガルド辺境伯と殺し合いを演じた。勝利した末に、キッチリと目的を果たしたグレイは、傷だらけになっていた。

 内輪争い、では済ませられない暴挙。

 捕らえろと命令が下り、各家、各候補者の切り札のようなものが一斉にグレイに襲い掛かり、全員が殺された。傷など、怪我など関係がなかった。

 アルムガルド辺境伯が、いかに化け物じみていたかが、そしてグレイがいかにそれを越えた化け物であったかが分かっただけであった。

 

 もはや止まらぬかと思われたグレイを止めたのは、ナックスとグレイの友人である、背の小さな顔立ちの整った青年だった。その場には本来入ることすら許されぬ男が、警備の者を振り切って飛び込んできて、血を吸いこんだ絨毯をものともせずにグレイに駆け寄り、その頬を殴りつけたのだ。

 そして胸ぐらをつかまれ体を持ち上げられながら、しばしグレイと言い争いをした。

 それが、バミ=レックスである。

 

 結果グレイは三十年の国外追放処分。

 王位継承争いは一時うやむやになり、どんな理由かその場に参加していなかったオブラ侯爵家だけが、戦力を保持。第五候補くらいであったオブラ侯爵家が支持する王子が、一挙に第一候補へと浮かび上がったのだ。

 

 流石にその場では事態を収拾するために、グレイは三十年の追放となっていたが、それで許されるはずはない。グレイを殺し首を持ち帰れば、その陣営の王子が次代の王になる、という噂がまことしやかに広がった。

 

 そして、更にたくさんの犠牲者が出て、貴族たちは落ちぶれた。

 そんな中、グレイに戦力を割かず、せっせと国内工作を続けていたのがオブラ侯爵だった。気づけばオブラ侯爵は、誰も止められないほどの力を得ていたのだ。

 

 アルムガルド家の、グレイの暴れぶりに脳が焼かれていた貴族たちは、そこにいたってようやく、何をどうするべきだったかに気づいたのだが、もはや手遅れだったというわけである。

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