転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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薬の情報

 二人がバッハ侯爵邸を訪問してから、半月ほどの時間が流れた。

 クルムはその間、いつも通り仕事をこなしながら毎日を過ごしていた。

 すなわち、朝にはグレイと稽古をして、ファンファの相手をしながら仕事をこなすか、グレイを護衛に付けて街に用事をこなしに行くかである。

 

 そして今日は、久々にパクス商会を尋ねる日である。

 ファンファには他のお願い事をして同行をご遠慮いただき、クルムとグレイだけでのお出かけであった。

 パクスはファンファが来るとやや機嫌が悪くなるので、仕方のない対処である。

 

 さて、そのパクス商会だが、いつのまにやら仮の加工屋が増設されており、そこでヴァモスとラーヴァが元気に働いていた。どうやらパクスからもたらされた薬によって、ヴァモスの症状は随分と改善しているようで、ラーヴァをしかりつけるような大きな声も聞くことができた。

 薬だけではなく、息子が実は生きており元気にやっていた、という事実も、ヴァモスの体調を回復させた要因であろうが、なんにせよ良い傾向である。

 この調子ならば、当分の間は元気に仕事をこなしてくれることだろう。

 

 軽く挨拶をして、そのままパクスとの面会となったが、加工屋の話になるとパクスも珍しく機嫌が良く色々と説明してくれた。

 

 加工屋というのは、伝統的なやり方で決まったものを作り出すことに誇りを持っているものが多く、ヴァモスの息子であるカリヴのように、新たなものを作り出そうと考えるものはまれだ。

 グレイが世話になっていたヴァモスの父親からして、他の加工屋とは違った探究心のようなものを持っており、未知の素材を上手く加工することに情熱を燃やすタイプだった。

 その因子はしっかりと一族に受け継がれているようで、新たな商品の開発依頼がしやすいのだという。

 

 パクスは元々スラムの出身であるがゆえに、常識にとらわれない発想は得意とするところだ。グレイから教わったことや、グレイが何気なく話していた、この世界には存在しない便利なものの記憶は、パクスの脳内にしっかりと収まっている。

 いくつもの構想を練るだけで留まっていたものを、加工屋を手に入れたことで、実現できる可能性が出てきた。

 金と素材は惜しまないから、手が空いた時は取り組むようにと、パクスはいくつもの商品アイディアを二人の加工屋に渡しているのだった。

 

 加工屋の二人も、最初は使う素材が高価であることに尻込みしていた。

 だが、今となっては若いラーヴァよりも、ヴァモスの方がこれまでの鬱憤を晴らすかのように、新商品の開発に取り組んでいるそうだ。

 

 とにかく、加工屋の二人とパクスは、非常に良い関係を築けているようである。

 一応クルムに仕えていて、貸し出されているということで、その開発による収入の一部は、クルムの方に流れる仕組みになっている。

 今は金食い虫状態だが、いずれ売れ筋の商品がいくつかできてくれば、莫大な金が流れ込んでくることは間違いないだろう。

 

 なんだかそんな良い話ばかりを聞かされて、現状を把握できたところで、クルムは情報収集に乗り出す。

 

「お二人には引き続き元気に頑張っていただきたいところです。……さて、実はパクス様に相談したいことがあります。先日、先生が外へ出た際に、妙な輩に襲われました。痛みを感じず、力が強く、首を落とさないと動き続けるとか。スペルティア様と先生の見解によれば、薬と魔法の併用によるものではないか、と。何か心当たりはありませんか?」

 

 パクスは細い目を更に細く細く、線のようにして眉間にしわを寄せた。

 

「薬ですか……。確かに痛みが軽減し、力が湧いてくる薬、というのは随分と前から流行っています。馬鹿しか使いませんよ、そんな怪しい薬は。逆にいえば馬鹿は平気で使います。先生、その襲撃者は強力でしたか?」

「うむ。ある程度の達人でなければ捌くことは難しかろうな。ある程度訓練した騎士でも正面から相手をすれば負けるじゃろう」

「強いですね」

 

 騎士の中にはしょうもない者もいるが、基本的には王都の守りの要だ。

 グレイがある程度訓練した、というからには、それなりに腕の立つものであると考えて良い。パクスは薬の存在は当然認知していたが、グレイが評価するほどに強くなれるようなものであるというのは想定外だ。

 

「しかし、そこまで強力な薬ではないはずです」

「薬と魔法によって恐怖心が無くなっているのがでかい」

「……なるほど、確かに死を恐れず痛みに怯まぬ相手というのは、扱いが難しいものです」

 

 パクスとて、ある程度腕に覚えはある。

 貧民街育ちだから、散々喧嘩したり盗んで酷い目にあわされたりして育ってきたから、ためらいのない相手がどんなに面倒であるかはよく分かる。

 パクスは険しい表情をしたまま続ける。

 

「私は貧民街から人を雇っています。だが、それをしているのは私だけではない。王都には暴力組織がいくつもあります。表では商人のような顔をしている者もいれば、堂々と悪人の看板を掲げているものも。薬は私のところとは別組織に、広く浅く浸透しています。その妙な襲撃者の話を聞くと意識はもうないようですが、街に出回っているものはそこまで強力ではありません。失敗作を実験的に使わせてみてる、ってとこですかね」

「……どこかの勢力が関わっているのかもしれません」

「念のため再度、各組織がどの勢力と繋がっているのか調べてみますよ。そちらでも探りを入れてみてください」

「ありがとうございます、そうしてみます」

 

 問題ごとの共有を終えたところで、クルムは最近の収穫についての情報も共有する。それはもちろん、バッハ侯爵、ユゥバ子爵をはじめとする旧貴族派閥の話だ。

 まだまだ様子見の段階であるが、立派な成果ではある。

 

 しっかり話題の順番を組み立てての話し合いに、パクスは小賢しいと思いつつ、やはりファンファなんかよりはずっとましか、とクルムを評価するのであった。

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