転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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次世代の二人

 パクスとの情報交換をしてから更に二週間。

 バッハ侯爵との戦いからは一カ月ほど経ったある日のことだった。

 珍しくクルムに与えられた区域に二人の客がやって来た。

 すぐに応接間に通して待たせてあるうちの片方は、見覚えのある青年。

 顔は非常に良いけれど下半身がだらしない残念な男、ユゥバ子爵家嫡男のフルートである。

 

 そしてもう一人は茶色に近い金色の髪の毛をキッチリと全て後ろに撫でつけた、背の高い青年である。グレイもクルムも、それがバッハ侯爵の身内の者であると一目でわかるくらいには、父親によく似た青年であった。

 どちらも緊張はしているようだが、フルートの方はもはや顔が青くなっている。

 グレイの姿を見た瞬間にそわそわして落ち着かなくなったところを見ると、先日の一件が余程のトラウマとなっているのだろう。

 

「早朝からお邪魔して申し訳ありません。バッハ侯爵家嫡男、モーリス=バッハと申します。父より事情は一通り聞かされております。本日は経過の報告に上がりました」

「お二人が揃っていらしたということは、もうご両家が私たちの方についていると知られても問題がない状態、ということですね?」

「お察しの通りです。すでに主要なものには声をかけ終わり、返答を待っている状態です。わざわざケルン王子殿下にはお知らせしておりませんが、ご希望であった二カ月以内に、味方するものは選定し終えます」

「順調ですね。報告ありがとうございます」

 

 モーリスは言葉こそ丁寧であるが、部屋にクルムとグレイが入ってきた瞬間から、二人を品定めするような視線を向けてきていた。話をしている最中にも、クルムがどのような対応をするのか、グレイが本当に聞いているような強者なのか、そんなことが気になって仕方がないようであった。

 年のころは二十代半ば。フルートよりはやや年上であるようだ。

 自分よりも格上の者と接する機会はほとんどなかったのだろう。侯爵家を継ぐものとしては、それでもほとんど問題は起こらないのだろうが、今この場にふさわしいかと言えば微妙なところだ。

 特に、グレイやクルムのやり方を身をもって味わっているフルートには、モーリスの行動が酷く危うく見えたらしい。途中、テーブルの下で、態度を改めるよう膝をぶつけてみたのだが、一切無視。

 それどころか、話の切れ目にものすごい形相で睨みつけられることとなった。

 

 クルムもグレイも怖いが、バッハ侯爵家嫡男であるモーリスも怖い。

 フルートはもうどうしたらよいかわからず、表情をひきつらせることしかできなかった。

 

「……ユゥバ子爵家も同様であると考えてよろしいですか?」

「は、はい! 順調とは言えませんが……! 宮中で真面目に仕事に取り組んでいる家のいくつかが、父上の考えに同意してくださっているようです……!」

「結構です、ありがとうございます」

 

 もともとユゥバ子爵家をはじめとする一派は、旧貴族派の中でも大きなものではない。自由に行動できるほどの権力を持っている家でもないだろうし、それだけ集まれば十分だ。

 むしろユゥバ子爵の真面目な仕事と交友関係に賞賛を送るべきだろう。

 息子はこんなだが。

 

「さて、モーリス殿は経緯をお父上から聞いているとのことでしたね」

「はい、その通りです」

「なるほど、フルート殿は一度退室して、お待ちいただけますか? ウェスカ、案内をお願いします」

「は、はい!」

「承知いたしました」

 

 クルムはモーリスの態度を受けて、このまま返すわけにはいかないと判断し、部屋からウェスカとフルートを追い出す。見る限り、モーリスは、父親から話を聞いているはずだというのに、クルムのことを舐めている。

 爵位や育ってきた環境から仕方のないことではあるのだが、仕方がないで置いておくわけには行かなかった。

 今は大事な時期だ。

 バッハ侯爵の後継者がこのような態度では、将来的には使えない。

 使えない者を少しの忠告で使えるようにできるのならば、クルムはその労を惜しむつもりはなかった。

 

「では、バッハ侯爵がどうして私たちの陣営に加わったか、聞いた通りに説明を願います」

 

 クルムは両肘をテーブルについて指を組み、その上に顎を乗せる。

 その状態でうっすらと微笑んで、モーリスの返答を待つ。

 本来王位継承者候補は、身分こそ王族であるから敬われるべき存在であるが、バッハ侯爵家のような力を持った貴族相手には、気を遣って見せるものだ。

 クルムの態度は、どうみても、バッハ侯爵家を下に見たものであった。

 正確には、バッハ侯爵家の嫡男であるモーリスを、なのであるが、その違いを貴族は自覚しない。

 

 内心に反骨心が湧き上がってきたモーリスであるが、一応は父が属している勢力の大将である。一瞬むっとしてはしまったが、軽く咳ばらいをして気持ちを改めた。

 それくらいの取り繕いはできるようだが、取り繕っているだけではクルムとしては困るのだ。

 

 旧貴族派はただでさえもともと敵であるのだから、そのまとめ役であるバッハ侯爵家、ユゥバ子爵家の人間には、特に気を引き締めてもらいたい。

 ほんのわずかなほころびも避けたいというのがクルムの考えであった。

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