転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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バミとホワイト

 正確には、バミがグレイにとんでもない罰を下した結果、グレイが大暴れするのではないかと心配しているのだが、そもそも『心配している』を見透かされるのが良くない。

 

 どこかで不安を抱いていることを察せられるような動きをしてしまっているということなのだろう。

 クルムは反省しつつ、経過を窺う。

 バミ大臣といえば、もっと厳格で隙のないイメージがあったのだが、どうもグレイと話す時は乱暴な若者のような口調になる。

 元々はそんな人柄だと考えれば、当時のグレイとの相性は悪くなかったのだろう。

 

 どうやら先ほどの言葉を聞くに、敵対する意思もないようであるし、流れに身を任せても問題はなさそうだ。余計なことは言わずに、必要に応じて口を出していけば十分だろうと考え、クルムは大人しく話を聞くことにした。

 

「お前、街で散々暴れてるらしいな」

「暴れとらん。成敗しとるだけじゃ」

「一緒なんだよ! 分かりやすい私刑すんな!」

「死刑? あまり殺しておらんが」

「私刑だよ。お前が罪を裁く権利はねぇって言ってんだ。あと俺に対して『あまり殺してない』とか二度と言うな。マジで牢にぶち込むぞ」

「儂を閉じ込められる牢獄などない」

「分かってるから注意だけで済まそうとしてやってんだろうが。無駄に設備壊されてたまるか」

 

 遠慮のない物言いにクルムはハラハラするが、グレイは案外こういうずけずけと物を言ってくる相手に暴力を振るうことが少ないことも知っている。大体相手に理がある場合が多いのだが、単純に表裏のない人物が好きなのだろうと思う。

 

「騎士団長のホワイトいるだろ。あれはなんにでも噛みつく狂犬だぞ。ホワイトの生家のラバラン家は、代々騎士団長を輩出している家柄だ。身分も生家のラバラン伯爵と、騎士団長としての伯爵を持ってるから、他の貴族にも遠慮がない。ついでにお前が国を出る前に暴れた時、当時のラバラン伯爵だったホワイトの祖父をぼっこぼこにして引退させてることも覚えておけ」

「なんじゃ、負け犬か」

「お前、王女殿下の敵を増やしてぇのか? 外では口を慎めよ」

 

 バミは一貫して外でのグレイの行動を注意して、ここで何を言おうが気にしていない。つまり、信条的にはうまくやれ、というタイプで、とにかく罪は罪、罰は罰、というホワイトとは一線を画した考えを持っていることがわかる。

 

「面倒くさいのう」

「そもそもお前、ホワイトと知り合いじゃなかったのか? 元から険悪だったとかか?」

「知らん。なぜそう思う?」

「……お前、以前ここに来た時に、偽名でホワイトと名乗っていただろうが」

「そうじゃったか?」

 

 とぼけているグレイの顔を見て、バミは一つ言葉を飲み込む。

 そういえば、お前の兄の名前はブラックだったな、と。

 

「まぁ、どうでもいいけどよ。とにかく、ありゃ融通が利かない奴なんだ。実際貴族の糞みてぇな所業を暴いてくるから、俺もしっかり裁いてやるんだが……、そのお陰で俺には心を開いてるようでな」

「それなら儂に絡まぬように言い聞かせておけ。脳天かち割るぞ」

「てめぇが市中で悪さするからだろうが」

「自衛しただけじゃ」

「まぁ、そうなんだろうけどな。加減ってもんがあるだろ」

「ない。加減なんぞしても復讐されるだけじゃ。お主のようにな」 

 

 バミの体は傷だらけだ。

 それは、裁いた相手が生きているからこそ、復讐をされた結果だった。

 悪事をはたらく者や、命を狙ってくる者など、基本的には多少の罰を与えたところで改心するはずがないというのがグレイの持論であった。

 もし生かして帰すのならば、最低限、二度と逆らわないように格付けを済ませておく必要がある。

 

 バミのやり方は、基本的には法によって支配されている国に住まう以上、至極正しい。

 正しいが、穴だらけの法である以上、正しいものは報われない。

 王族貴族で殺し合い、足を引っ張り合っているのだから、根本から腐っているのだ。法の穴をかいくぐって殺し合いをしているのだ。

 罪だ罰だと気にしていたら、そんな奴らに命を奪われるだけである。

 

「だとしても、お前はもうちょっと大人しくしておけ。さっきも言ったが、こんな若い王女殿下に心配ばかりかけるんじゃねぇよ」

 

 クルムは、偏屈で、王侯貴族が大嫌いで、機会があれば漏れなく全員痛めつけようと思っているグレイが、文句を言いながらも支援している極めて珍しい存在だ。

 バミはグレイと話して以来、クルムの情報を集めてきたのだが、素性からしても行いからしても、将来に期待できそうな雰囲気がある。

 心根の部分はまだ見えてきていないが、そこはグレイが認めたという部分だけで、今の段階で肩を持つには十分な理由となりえた。

 

 バミは、グレイ同様、この国の現状を糞だと思っている。

 それを変えてくれるような王が誕生するのなら、そりゃあ手を貸そうと思うに決まっていた。

 長年一緒にやって来た部下や、才能を見出したホープとクリネアによりよい未来を見せてやりたい。

 

 何より、グレイが前にやって来た時に言った『クルムならもしかすると、エルフの森を取り戻すために動くかもしれん』という言葉が気にかかっていた。

 スペルティアを故郷に返してやることは、バミの悲願でもある。

 

「ま、しばらくは大人しくしておるとしよう。間抜けな騎士共が、ようやく本腰入れて調査に乗り出したようだし、儂が街をうろついて馬鹿共をしばきまわる必要もなくなったしのう」

「そうしておけ。どうせお前を無罪放免すればホワイトは乗り込んでくる。適当に相手して誤魔化しておいてやる」

「うむ、頼んだ」

 

 一先ずホワイトの件の話は片付いた。

 バミは続いて、グレイの横で大人しく座っているクルムの方へ目を向ける。

 

 折角わざわざ部屋まで訪ねてきてくれたのだ。

 これを逃せば、直接クルムの話を聞ける機会などなかなか来ないだろう。

 この機会にクルムという人物を見極めておきたい。

 

 どうやらクルムも同じ考えのようで、バミのことをじっと見つめ返している。

 なかなか聡い王女のようだと、バミは口の端を歪ませて笑った。  

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