転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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不確定な情報

 バッハ侯爵らの死が確定したのは、昨日の深夜のことだ。

 今朝ここに来てすぐにグレイを呼び出したバミの下に情報が来ていないのは、ありえないことではない。

 ただこの事件を知らなかったことは、バミの持っている独自の情報網が、あまり優秀でないことを露呈させた。

 

 元々大きな貴族家ではないバミだ。

 個人的な部隊を持っていないのは仕方のないことだ。

 役職柄、素早く情報を収集する必要性もあまりないので、公に情報収集する組織がないのもまた仕方がないことだろう。

 しかし、伯爵という地位を持っており、かつバミという頭の回る人間が、それらを持っていないのはどうにも不自然だ。

 

「お主、子飼いの情報収集する奴らみたいなのはおらんのか?」

「いねぇよ。そんなもん俺が持ってたら、あっという間に目をつけられて潰されてらぁ。俺みたいな腕っぷしも基盤もねぇのは、色々立ち回りにも苦労するんだよ。……お前が王都にいりゃ話は別だったんだけどな」

「過ぎたことをぐちぐちと……」

 

 グレイがへそを曲げたのを見て、クルムが代わりに話を引き継ぎ、昨晩起こったことをバミに伝えていく。話をしながらクルムが気になったのはバミの反応だった。

 これまでの反応や噂、それにグレイとの友好関係を見る限り、バミは相当に頭の切れる人物であることが分かる。もしかすると腹芸もできる人物なのかもしれないが、それにしたってクルムの説明にいちいち色々と考えを巡らせている様子があった。

 

 特に、敵の中に脱走をしたスカベラや、投獄されているはずの人物が混ざっていたことを聞いた時は盛大に眉を顰める。

 

「……ホワイト殿から、脱獄者がいる話は聞いていないのですか?」

「聞いていません」

「ホワイト殿は、バミ大臣に情報を隠すような方ですか?」

「そんな腹芸ができる性質ではない、と認識しております」

 

 もしバミの見解が間違いないのだとしたらそれは実に薄気味の悪い話だった。

 少なくともグレイは、副団長であるジグにはそのことを話している。

 だとしたら、ジグがホワイトに対して、意図的にスカベラの脱獄情報を隠している可能性もあった。

 騎士団の上層部に、不正をもみ消そうとしている者がいる

 二人ともがそんな嫌な想像を膨らませて黙り込んだ。

 

「ジグ殿……、ジグ副団長はバミ大臣から見てどんな方ですか」

「真面目だと聞きますが、目立った功績はありません。ホワイト殿と違って私の下を訪れたことは数度程度しかございません」

「では、ホワイト殿は?」

「勝手ですが実力と行動力はあります。グレイにどこか似た部分のある、自分なりの正義を持った男かと」

「似とらん」

 

 グレイの反論を無視して、二人ともまたも数秒沈黙。

 そしてそれをすぐに破ったのはクルムだった。 

 

「……バミ大臣、急用ができました」

「承知しました。話はまたいずれ」

「先生、急ぎましょう」

「儂はまだバミに用事があるんじゃが」

「急ぎです、お願いします」

 

 あわよくばこのままバミを引きずってスペルティアの下へ向かおうとしていたグレイだったが、クルムの真面目なお願いを前にして、予定を変更する。

 

「まったく、慌ただしい」

「失礼します」

 

 クルムが扉へ向かうと、ホープとクリネアが扉を開ける。

 状況の全ては飲み込めていなくとも、遊んでいる場合ではない空気は読める。

 

「……ファンファお姉様のところへ行きます。確認しなければいけないことができました」

「何をそんなに慌てておる」

「おそらくホワイト殿かジグ殿が、ハップスお兄様の支援をする振りをして、他派閥についています」

「ホワイトか。怪しいと思っておった」

「まだどちらか分かりません」

 

 グレイは首をかしげる。

 昨晩ジグは、襲撃を受けて仲間を失って、自身も大けがをしている。

 敵と内通している割には容赦なくやられたものだ。

 

「なぜそう思う」

「バミ大臣に脱獄の件が伝わっていないことがあります。このことから考えられることは二つ。ホワイト殿が意図的にバミ大臣に情報を伝えていないか、そもそもホワイト殿の下に脱獄者が出ている件が伝わっていない、です。どちらも可能性があります」

「ほう、なるほどのう」

「ただ……、バミ大臣はホワイト殿のことを信用している節がありました」

「儂は嫌いじゃが」

「同族嫌悪では?」

「一緒にするな」

 

 グレイはどうしてもホワイトのことを悪者にしたいらしい。

 確かにホワイトのグレイに対する態度は褒められたものではないが、それはグレイの普段の行動がホワイトの正義に反しているからなのではないかと、クルムは考えている。

 もしジグがホワイトを裏切っており、ホワイトを煩わしく思っているのならば、グレイとホワイトをぶつけるべく、あることないことを吹き込んでいる可能性だってあった。

 

「それで、なぜあのやかましい小娘のところへ向かっておるんじゃ?」

「……ファンファお姉様は、以前私と敵対している時に、スカベラを利用しています。過ぎたことだからと深く聞きはしませんでしたが、その際にお姉様だけではなく、誰か協力者がいた可能性もあります。それに、王宮の力関係については私よりも詳しいはず。いつもお姉様個人の話を聞いているのですから、たまには重要な話も聞かせていただこうということです」

「なるほどのう……、それで、なぜ急いでおる?」

「……もしホワイト殿が他派閥に協力している場合、今回の件で先生が処罰されることを望んでいるでしょう。それがされない場合は、もっと本格的に私たちの戦力を削ってくる可能性があります」

「ふむ」

「逆にジグ殿が裏切っている場合、こちらも先生が自由に動いていては困ります。先生の罪を考えれば、無罪放免されるはずがない。それがされるということは、バミ大臣と先生の間に、何らかの関係がある、とジグ殿は推測することでしょう。そうなれば、意図的に脱獄の情報を隠していたことがホワイト殿にばれるのは時間の問題。こちらも早急に何らかの行動を起こす可能性があります」

 

 とにかく時間がない。

 特に今はモーリスとフルートを騎士団に護衛させているのだ。

 相手方に情報が伝わる前に動きだし、敵味方を判断する必要がある。

 

「両方裏切っている可能性は?」

「……その場合は……、王都での活動は厳しくなるかもしれません……!」

 

 クルムはぐっと拳を握りながら答える。

 その場合、ハップスもまた、やはり自分の敵なのか。

 それとも、裏切られ、はめられているのか。

 余計なことまで考えてしまったクルムは、すぐにそれを振り払うように首を振って、ファンファの下へと足を急がせるのであった。

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