転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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騎士団内の事情

「……では、今後は協力してくださるということですね」

「そうだな。無茶はしないでほしいが」

「一応、自身の安全は確保しているつもりですが」

「大抵のものはそう思っている」

 

 口下手な割に、真実をまっすぐに告げてくるから、意外と口論は強い。

 クルムは、むっと口を閉じて黙り込んだ。

 

「ナイフは……お兄様に預けたままにしておきます。ファンファお姉様は何をするかわからないので回収してありますが」

「ファンファはスカベラの脱獄に手を貸した張本人だ。最近親しくしているようだが大丈夫なのか?」

「大丈夫です。あれでお姉様も色々と思うところがあるようですから。……そんなことよりも、それです。スカベラの脱獄の件、ホワイト殿は最近までご存じなかったのですか?」

 

 ハップスが難しい顔をして腕を組む。

 元々はあまり外部の人間に話したくない情報であったからだ。

 これまでの癖で口を閉ざそうとしたが、今はもうクルムの陣営に入ると決めたのだから、隠すべきでないと判断し話し始める。

 

「……ホワイト殿に伝わったのは最近のことだ。街の調査をしているうちにホワイト殿が自分で気付き、そこから内部で情報が止まっていたことが発覚した。ジグ殿の直属の配下である騎士が、連絡を怠っていたとして、処分を検討されていたところだ。もっとも……、当該人物は昨日の件で命を落としているが」

「ジグとやらが真っ黒じゃな。まぁ、儂は初めからそうじゃと思っておったが」

 

 グレイが腕を組んで難しい顔をしながら言い放った。

 凄まじい手のひら返しである。

 何の冗談だと思ってクルムはグレイの横顔をじっと見るが、事情を知らないハップスは「そうか……」と納得したように呟く。

 

「グレイ殿にはお見通しであったか……。良い教育係を選んだようだな……」

 

 クルムには山ほど言いたいことがあったが、何とか我慢してその全てを飲み込んだ。グレイの適当ぶりをわざわざハップスに伝えて心配をかける必要もない。

 

「……ジグ殿が、よそに通じていると考えるべきでしょうか」

「それらしい態度を見たことがないので何とも言えないが……」

「何かそれらしい理由はありませんか?」

「…………これは想像でしかないが、ジグ殿とホワイト殿の関係だろうか。剣士としての腕が良く、身分が高いのはホワイト殿だが、騎士としての経歴はジグ殿の方が長い。ホワイト殿が居なければ、ジグ殿は騎士団長になっていただろう」

「権力争いか。王宮の毒に染まったのかのう」

 

 長く騎士団にいるということは、長く王宮の権力争いに触れてきたということでもある。

 どんな理由があるにせよ、自分と身内に害を及ぼす者は敵である、という考え方のグレイは、自分の中でジグの裏切りを確定させてため息を吐く。

 

「しかし、ジグ殿も正義感にあふれ、騎士団を大事にする人物ではある。俺にはジグ殿が裏切っているとは思えん」

 

 一方で数年間付き合いのあるハップスは、クルムやグレイの考えが理解できない。

 同じ王子に裏切られ、身内を殺されてなお、自分が付き合ってきた人であれば疑うことができないのだ。

 つくづく王には向いていない性格をしている。

 

「お兄様が判断をする必要はありません。……そもそもお兄様はどうやって騎士団を味方につけたのです? いつも騎士団の訓練に参加されていたことは知っていますが、何か決定的なきっかけがあったはずでしょう」

「……ホワイト殿と問答した時だ。騎士団長になったばかりのホワイト殿は、どこの陣営につくつもりもなかった。だが、ホワイト殿はホワイト殿で、国のあり方を憂いていたのだ。あれは、俺のことを応援しているわけではない。俺を使ってこの国の気にくわないものを何とかしようとしているのだ。俺も、それに納得して手を取った」

「……その時ジグ殿は?」

「二人の関係についてはよく知らない。しかし俺が騎士団に深く関わるようになった頃には、ジグ殿はすでに、ホワイト殿の無茶を制御する役割を担っていたように思う」

 

 クルムは口元に手を当ててしばし黙り込む。

 何をどうするのが最適なのか、じっくりと作戦を立てていた。

 

 急ぎ動くべきだろうと思ってやって来たが、どうやらジグが敵だと想定して動く場合、ジグを取り除く材料がない。スカベラの件で、と思っていたがその証拠はすでに騎士に擦り付けられ、消された後なのだろう。

 しかし、そうなってくるとノイズになるのが、昨晩のジグの腕の怪我である。

 あれがブラフなのか、それとも襲ってきた者たちとジグが加担している陣営が別なのか。

 

 まだまだ見えない部分が大きすぎる。

 

「…………ホワイト殿と、内密に話すことはできないでしょうか? ジグ殿にはばれないように」

「おそらくジグ殿は今日外へ出ているはずだ。今ならホワイト殿をここへ呼ぶことはできる。ただ、クルムはここに来るとき人に見られたのではないのか? 人づてに伝わる可能性はある」

「そうですね……確かに。…………お兄様は、騎士団の訓練に頻繁に参加されていますよね?」

「そうだな」

「騎士団の訓練場の奥に、〈要塞軍〉の倉庫があることはご存じですか?」

 

 騎士団の敷地を一部占有するように立っている倉庫。

 あそこは〈要塞軍〉の敷地であり、王宮の中でも数少ない、クルムがある程度自由にできる場所でもある。

 

「……それらしいものがあることは」

「では、私たちはできるだけ人と会わぬように、そこへ行って待機します。お兄様はそこへホワイト殿を連れてきてくださいませんか?」

「……クルムが待っていることは話していいのか?」

「他の誰にも聞かれなければ」

「……わかった、やってみよう」

「お願いします」

 

 おそらくジグはまだ動かない。

 そう判断したうえで、クルムは状況をもっとクリアにするために、更なる情報を得る方向へと動くことにしたのであった。

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