王宮へ戻り一晩休んで翌日。
朝の訓練と食事を終えて、クルムはグレイと話をしていた。
「そもそもそのルミネというのはどんな奴なんじゃ?」
「……治癒魔法を得意とする方で、教会勢力に後押しをされています」
「儂は教会が嫌いじゃ。人助けだけしておれば良いものを、自分たちにとって都合がいいように王位継承争いにちょっかいを出してきおる。スペルティアを連れて帰ってきたときも、あれこれ難癖付けてきおって……、ボコボコにしてやったわい」
「あぁ、仲が悪いんでしたね」
「奴らエルフを人の祖であると教えながら、スペルティアが本当に王の血統かわからんとか言い出して裁判にかけおった。それが済んだかと思うと、今度は教会で守護すべきだとか言って、閉じ込めようとしおったんじゃぞ。大馬鹿の糞どもじゃ」
思い出し怒りも甚だしい。
グレイは元々この世界に生まれてから、神だのなんだのというものが好きになれなかった。当時もぶつかるべくしてぶつかった、というところだろうか。
本当に敵の多い男である。
「人助け? 自分たちが潤った分のほんの一部を還元しとるだけじゃろうが。無駄にキラキラした格好ばっかりしおって気色悪い」
「そうかもしれませんね」
言いたい放題のグレイに適当に相槌を打ってクルムは考える。
もしかして教会勢力は、グレイの存在に気付いているのではないか、というのがクルムの考えだ。そしてその脅威を知っている者がいるからこそ、強く警戒しているし、王位継承争いの参加の儀式も代理の者が執り行った。
まあ、それに関してはただ舐められているだけかもしれないが。
「調べたところによると、王族には時折、ルミネお姉様のような治癒魔法の才がある子が誕生するんです。教会勢力はそんな子供を聖女として奉り、その代に限り王位継承争いにしっかりと参加し、国内での権力を拡大してきました」
「結局それか」
「ただし今はスペルティア様がいらっしゃいます。古今東西で最も優れた治癒魔法の使い手であり、人の祖と言われるスペルティア様がいるのに、聖女を認定するわけにはいかないのでしょう。ルミネお姉様は、熱心な教会信徒ではありますが、聖女に認定されていません」
「…………危ういのう。なぜスペルティアはまだ殺されていない」
そこまでクルムが話をしたところで、グレイはようやくスペルティアの立場の危うさに気が付いた。
「失うことが、国の損失になるから。殺されてしまえば、現政権の力が疑われます。陛下もヘグニお兄様も牽制しているでしょうし、教会勢力もそれはよく分かっていることでしょう。今は動けない、それだけです。万が一ルミネお姉様が王位継承争いに勝利した場合には……、かなり危うい未来が待っているかと」
「……まぁ、お主がなればそれでよい。駄目なら仕方がない、お主と一緒にスペルティアも担いで、〈リガルド〉まで撤退してやろう」
「その時はお願いします」
そんな深刻な話をしていると、いつも通りの時間にファンファがやってきて、いつもよりやや真面目な顔で、四人掛けのテーブルのいつも座る席へ腰かけた。
まるでその席が自分専用と言わんばかりである。
「クルム、ひとつわかったことがあるの」
「はい、何でしょう」
「覚えていないのだけれど、どうやら私あの時期、二度ほどルミネお姉様のところを訪ねているらしいの。元々定期的に他のお兄様お姉様の顔色を見に行っていたのだけれど、続けて訪ねることはなかったの。誰かの勢力に特別肩入れをしていると思われたくなかったから」
「そうですか。ルミネお姉様……」
「私はその当時のことを覚えていないから、話は二人に聞いて?」
今日も一緒について来ている二人の冒険者は顔を見合わせて、ニクスの方が口を開く。
「時期はその頃で間違いありません。いつも通りに面会をして戻ってきて、いつもであれば『今日も面白くない話ばっかり』と愚痴をこぼすのですが、その日は随分と静かだったことを覚えています」
「余程嫌なことがあったのだろうと話していたのですが……、翌日も『約束だから』と言ってルミネ様の下へ向かったのには驚きました。いつもはのんびりと自分磨きに使うはずの日だったので」
二人はお互いに情報に間違いがないか確認し合いながら交互に話す。
「その帰りに、ふらっと騎士たちの訓練する方へと向かい、ジグ殿が『スカベラを警戒するように』と話しているのを聞いたのはその日でした。思えばジグ殿が大事なことを廊下で話していたことにも違和感がありますし、こちらに気付かなかったのもおかしな話です」
「ファンファ様はいいことを聞いた、と言って、クルム様への嫌がらせのためにスカベラを逃がす計画を立てました。とはいえ、その時もファンファ様は牢番の気を引くために話しかけただけで、逃がしたのは別の手の者です」
「誰ですか、それは」
クルムが鋭く問いかけると、二人は困ったようにまた顔を見合わせる。
「それが、俺たちも知らぬ者で……」
「私もさっぱり思い出せない、というわけ」
「普通に考えれば、ルミネとやらの手の者じゃろうな」
協力者は増えれば増えるほどぼろが出るものだ。
それ以上別の勢力に協力させたりはしないだろう。
「……そもそも、スカベラが閉じ込められていたのは、騎士団の管理下の牢獄だったのですか?」
「あ、いえ。既に裁かれる前の罪人が入る牢獄に変わっていたはず……」
ニクスが答えると、クルムは顎に手を当ててまた考えこむ。
「……となると、バミ大臣の管轄ですね。どうしてそこを騎士が守っていたのでしょう?」
「騎士団のスカベラが入っていたからじゃないかしら?」
「その時点で特別扱いだった、というわけですね。……ここで推測していても埒があきません。ハップスお兄様か、ホワイト殿に話を直接聞きましょう」
「そうねぇ……、今なら二人とも騎士団の訓練所かしら?」
クルムは席を立つと、ファンファの案内に従って、騎士団の訓練場へ向かうことにするのだった。