転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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お兄様

「二人がそんな正直に教えてくれるのかしら? そもそもハップスお兄様は、私が手引きをしたことも知っているのでしょう?」

「はい。ファンファお姉様が何かしら関わっていることは分かっていたようでした。気をつけろと忠告されたこともあります」

「……そうよね。私、他勢力の方々に警戒をされないように細心の注意を払って生きてきたの。言っては悪いけど、比較的鈍感な方のハップスお兄様に気付かれるようなことをしていた時点で、どうかしているわ」

 

 確かに他と比べるとハップスはまっすぐ一点だけを見ていて、些末なことを気にしない方だ。たまたまクルムを守る、という一線を越えたからこそ気が付いたという見方もできるが、どちらかと言えば、ファンファの不用意な行動の方に気付かれた原因はありそうだ。

 

「はぁ……、私、一緒に行かない方がいいかしら?」

「大丈夫だと思います。ハップスお兄様は昨日の時点で味方に取り込んだので」

「え? なにそれ、聞いてないわよ」

「そうでした、すみません。同じ陣営同士ですので心配しないでください」

「そう、それじゃあこれでナイフが三本と、騎士団まで味方につけたってことね」

 

 ナイフは預けっぱなしだけれど、ファンファと違ってハップスは信用できる、というわけにはいかない。

 

「いえ、ホワイト殿にはホワイト殿の思惑があるようです。味方にしたのはお兄様のみ。ホワイト殿にも協力の要請はしましたが、未だ色よい返事は頂いていません」

「そう……、それだとあまりハップスお兄様を取り込んだ意味は……。……そういえばあなた、ハップスお兄様のことレニスお兄様の仇だと思ってなかったかしら?」

「誤解でした。ハップスお兄様はレニスお兄様が亡くなって以来ずっと後悔し、不器用に私たちを守ろうとしてくれていたようです」

「それを信じたの?」

「信じます。…………元々、信じたかったのです。お兄様がもっと早くそう言ってくれていれば、私はずっと前に信じていました」

 

 ファンファは目を細くして穏やかに微笑む。

 

「ふふ、良かったわね」

「はい」

「ということは、ハップスお兄様は私のお兄様でもあるということね!」

「もとからそうでしょう」

「気持ちの問題よ。私、ちゃんと甘えられるお兄様が欲しかったの。一番の候補はレニスお兄様だったけれど、二番候補はハップスお兄様だったのよ? たくさんお話を聞いてもらえるかしら」

 

 おそらくハップスはファンファのお喋りをうるさいとしか思わないだろう。

 レニスのようにうまく躱してファンファを喜ばせてあげることはできないはずだ。

 あと、ハップスはクルムのことを陥れようとしたファンファのことをあまり好いていないと思う。

 

「……どうでしょう?」

 

 様々思うことはあったが、クルムはその全てを胸のうちにしまって、一言だけで済ませる。

 ついでに、そもそもハップスを味方につけたことはまだ公にしたくないので、あまり引っ付いたりしないように、とも注意をしておくクルムであった。

 

 

 騎士団の訓練場へ向かうと、数人の騎士とハップスが訓練をしていた。

 その中に、ホワイトの姿はない。

 初めからどちらかを捕まえられれば良かった話だ。

 クルムたちは訓練が終わるのを待っているつもりだったが、どうやらハップスは妹たちがやって来たことに気が付いたようで、訓練を中断して近寄ってきた。

 騎士たちは訓練場に残したままだ。

 

 そうしてじろりと警戒するようにファンファを睨みつける。

 

「お兄様、ファンファお姉様は私の味方です」

「…………そうか」

 

 流石に目の前で批判はしないようだが、長い沈黙が内心を語っているようだった。

 

「そういうことですの。今後ハップスお兄様は私のこともよく見守ってくださいませ」

「自前の護衛がいるだろう」

「お兄様に守っていただきたいんですの」

 

 ファンファはちょっと拒絶されたくらいでは怯まない。

 にっこにこでぐいぐい前に出ていくと、ハップスは深いため息を吐いたのちに「そうだな」と呟いた。

 それを引き出した時点でファンファの勝ちである。

 

「まだ関係を知られたくないのだろう。急にどうした」

「一つ確認があります。スカベラが逃げ出した時、騎士がそれを見張っていましたよね? 通常ではありえない指示だと思うのですが、これは誰が決めたのですか?」

「ジグ殿だ。間違っても脱走しないように、お前んところに復讐しないようにと、手配をしてくれたはずだったが……。手引きした者がいたようで結局逃げられたのだと……思っていた。だからこそ、大丈夫なのか?」

「ファンファお姉様は何者かに操られていた節があります。これからスペルティア様のところへ行って改めて確認をするつもりですが、あの時点のお姉様の行動は、話を聞いたところによると、確かに違和感があったように思います」

 

 ハップスとしてはその辺りの情報がないものだから、今の時点ではまだまだファンファのことを信用できず、一緒に行動をしているクルムが心配になるばかりである。

 

「グレイ殿、クルムを頼む」

「何じゃ今更」

「お兄様、私のこともお爺様に頼んでくださいませ。お爺様ったら、私が遊びに行くと逃げるんです。酷いと思いませんこと?」

「やかましいからのう」

「私もお爺様と仲良くしたいだけですのに」

「……そうか。グレイ殿が放っておくほどか」

「そんなに騒がしくしていませんわ!」

「いや、その話ではないが。そうか」

 

 ファンファが来た時に、自分も認める圧倒的な強者であるグレイが席を外している。それだけでハップスは、ファンファがクルムにとってそれほど害のある存在ではないと理解して、納得したようであった。

 

「ではお兄様、長く話していると疑われますので。また、この件が落ち着いたらゆっくり話しましょう」

「そうだな。くれぐれも気をつけろ」

「はい、ありがとうございます」

 

 仲違いしている時と大して変わらないやり取りのようであるが、二人の表情は、その時よりも随分と柔らかいものになっていた。




あ、良いお年を
また明日会いましょう
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