転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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スペルティアの付き合い

「十年。人が変わるのには十分な時間だ。だが、グレイの様に変わらぬ者もいる」

「なんじゃ、珍しい」

 

 褒められたのかと思ってグレイがすかしていると、スペルティアはグレイの方を見ながらさらに付け足した。

 

「グレイのように年をとっても大人げない者もいる」

「ぶち殺すぞ」

「これだ」

 

 本気で手を出してこないと分かっているのか、スペルティアは平気な顔でグレイの顔を指さした。確かにこの気質は若いころから変わっていないのだろう。

 ただ、王宮は魔窟だ。

 多くの者が変わらざるを得ない環境である。

 

 クルムもファンファも黙り込むことしかできなかった。

 それを見たスペルティアは、「ふむ」と言って立ち上がると、廊下へ出て薬草を育てている庭を眺める。

 

「あの娘が私様のところへ来なくなった理由は、私様を守る為だったのだろう。私様は未だここで生きている。だからあの娘は今もきっと変わっていないのだろうと考えている。それだけだ。あとはそれぞれで判断するといい」

「バミが懸命に守っているだけかもしれんがな」

 

 あの意地っ張りな友人のことをグレイは高く評価している。

 よくもまぁ、たった一人でここまでやって来たものだと。

 だから本人が居ぬ間に不意に出た言葉は、グレイの本音である。

 

「バミか。いつ引きずってくる?」

「この件が済んでからじゃな」

「早くする」

 

 スペルティアは幾度かバミに会いに行っているのだが、その都度すかされてここ数十年一度も顔を合わせられたことがない。

 グレイに話を振られた時は、嫌われていると拗ねていたくらいだ。

 本当は会いたいのだろう。

 これについてはバミの方の問題である。

 

「そういえば……、スペルティア様。もう一つ確認したいことがあります」

「なに」

「ファンファお姉様が、ルミネお姉様の下へ行ってから、おかしな行動をしたことがありました。普段は定期的にしか顔を出していないところを、二日続けて出かけて、帰ってきたところで普段ならやらないようなことをしています。しかも、二日目の記憶は曖昧で、一緒に行動していた冒険者の二人だけが覚えているような状況でした」

「薬と関係あるか?」

「はい、そうです」

 

 スペルティアはしばし考えてから、首を傾げたまま答える。

 

「あってもおかしくない。私は詳しくないが、エルフの森にはそのような呪法を得意とする者がいた。薬で意識をもうろうとさせ、相手を意のままに操る。主にエルフの森への侵入者の尋問のために使われていた。呪法を得意とする者がいればそのようなことも可能」

「あの……、それは今も継続して操れたりとか……」

 

 いつものように連れ歩いているファンファが、突然裏切って襲ってきたりすれば非常に危険だ。

 

「無理。意識が混濁している間に、呪を刷り込んで、その間に行動を起こさせる必要がある。継続して操るのなら、薬を常用させて、呪の法陣を体か身に付けている物に刻み、常に携帯させる必要がある」

 

 そうなってくると、現在進行形で操っている、という可能性は非常に低くなる。

 それほど心配をする必要はなさそうだ。

 

「そうですか……、ありがとうございます。お姉様、体に変な痕とか着ていった服に刺繍がされてたりとかしませんか?」

「か、体は分からないけれど……。服はそれぞれのお兄様お姉様方の好みそうな物を選んできていくから、ルミネお姉様と会った時も、お姉様専用のを着ていましたわ。逆にいえば、その時以外は着ていませんの」

「そうですか。では後で肌を見せてください」

 

 心配はあまりなさそうだが、それでも徹底的にチェックしておきたいのがクルムだ。しれっとファンファに裸を見せろと要求する。

 

「は、肌!?」

「はい、心配なので」

「心配……? そう? 何もないと思うのだけれど……」

「しかしお姉様に何かあったのではないかと思うと、いてもたってもいられません。部屋へ戻ったら必ず確認させてください。お願いします」

 

 目を潤ませての可愛い妹のお願いだ。

 あざといくらいの演技だが、これくらいがファンファにはよく効く。

 

「そ、そこまで言うのなら……、仕方ありませんわね」

「ありがとうございます」

 

 ファンファが自分に甘いことはもう十分に把握している。

 クルムはさらりとファンファのことを丸め込んで約束を取り付け、すまし顔でスペルティアの方へ向き直った。

 

 なんにせよ、引き上げ時だ。

 情報は手に入ったのだから、あまり長居して、他勢力に諸々の勘繰りをされてもいいことはない。

 

「スペルティア様、情報感謝いたします」

「よい。情報料」

 

 誰もが言うだろうなと思っていたことを、スペルティアは想像通り言ってのけた。

 

「手持ちはこれだけなのですが……」

 

 持っていた金を差し出すと、スペルティアは半分だけ受け取って、残りをクルムに返した。

 珍しいことだ。

 何があったのだろうと目を見開くと、スペルティアは真面目な顔をして言った。

 

「もし、あの娘の消息が知れたら、私様にも教えてほしい」

「……わかりました」

 

 お金を大事にするスペルティアが、差し出されたお金を半分返してでも情報を知りたがる。それだけ、スペルティアはルミネ王女のことを大切に思っていたということになる。

 

 またクルムの中で情報に齟齬が生まれてしまったが、約束は約束。

 クルムは大きく頷いて、スペルティアからの願いを承諾した。

 

 情報収集を終えたクルムは自室に戻ると、すぐさま男連中を部屋から追い出して、ファンファの全身を見て、どこにも呪いの方陣らしきものがないことを確認した。

 

 男たちが室内に呼び戻されると、ファンファは少しばかり頬を赤く染めている。

 

「きれいな肌でした」

「もう!」

 

 クルムの淡々とした感想に、ファンファがぺちんと肩を叩いて突っ込みを入れる。

 それを聞いた冒険者二人はなんだかにこにこと嬉しそうであった。

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