転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ファンファの気持ち

「クルムは優しいわね」

「そうですか? かなり厳しい方だと自覚していますが」

「あなたが厳しかったら、今頃私はこんなに自由に暮らせていないと思うのだけれど?」

「そうでしょうか?」

 

 元々は十分な脅しと、ナイフの確保によりしばらくは大丈夫だろうとの判断であったが、今となってはそういった都合はあまり関係がない。

 ファンファの性格も分かったし、今は亡き兄のレニスを慕っていたことも本当のことだと知っている。どうして王位継承争いに参加していたかもわかっている。

 

 鬱陶しいこともあるが、自分のことを気に入ってくれていることも、毎日のお喋りで十分に分かった。

 身内が皆いなくなってしまったと考えていたクルムにとって、半分でも血のつながっているファンファが味方でいてくれることは、いつの間にか心の支えの一つになっていた。

 

「自分で言うのもどうかと思うけれど、私、かなり怪しいと思うわ。ルミネお姉様と会ってからの記憶が曖昧なんて……、嘘っぽくないかしら?」

 

 クルムはファンファの言葉を受けて、何が言いたいのかを考える。

 そして、もしや今のやり取りから、自分が甘くなったとみて、不安に思っているのではないかという結論にたどり着いた。

 

「お姉様」

「何かしら」

「先生にも言いましたが、私はルミネお姉様にもちゃんと勝ちます。万が一敵でなかった場合、味方にした方が互いにとって利が大きいと考えているだけです。お姉様は安心して私に協力してください」

 

 ファンファが目を丸くして、何度か瞬きをする。

 クルムがこれは読みを外したかなと思ったところで、ファンファがにやぁっと笑った。

 

「そんなに心配しなくても私はちゃんとクルムのそばにいますわよ?」

「……そうですか」

「離れていくのではないかと心配だったのかしら? 私はただ、お爺様とクルムが分かり合っている感じがして羨ましかったから、『お姉様のことも信頼してます』って言って欲しかっただけなの。それなのに随分とかっこいいこと言ってくれましたわねぇ」

「……そもそも信頼していなければ、毎日のようにここへ入れませんし、状況も共有しません」

「そうよねぇ。クルムにとってそれは当たり前のことだったのね」

 

 外したけれど何かファンファが機嫌が良さそうに見えるので、クルムはそれに付き合ってやることにした。むきになって反論しても、ファンファをにやにやさせるだけだ。

 

「……ケルンお兄様もこれくらい啖呵を切る度胸があれば、もう少し見直しますのに」

「お姉様はケルンお兄様ともそれなりに付き合いがあるのですか?」

「そうねぇ。遊びに行くとよく自慢話を聞かされていましたわ。でもこれからどうしようって話がほとんど出てきませんの。もちろん、私が別派閥であるから隠していただけかもしれませんけれど……。卑怯な手は使わなさそうなところだけは、いいところかもしれませんわね」

「ああ……、それは確かに……」

 

 顔を合わせて嫌味を言ってくることはあるが、何かしら妨害じみた工作をしてくることはなかった。何か動き出すとしても、わざわざ目の前に現れて余計な嫌味を言ってから始まるので、ある意味正直者で分かりやすい。

 裏工作を得意としていたバッハ侯爵亡き今は、余計に気にすべきような相手ではないだろう。

 

「とにかく、無事に王位について、私を楽させてくださいませ。今日のところは帰りますわ」

 

 ファンファは最後までご機嫌なまま立ち上がり、鼻歌を歌いながらクルムの部屋から立ち去っていった。

 実はファンファも、操られていたらしい件については随分と気にしていたのだ。

 今日一日でその疑いはしっかりと晴れたし、クルムからもしっかりと信頼されていることを再確認したのでご機嫌、というわけだ。

 

「それにしても……」

 

 クルムは椅子に背中を預けると、少しばかりずり落ちて深くため息を吐く。

 他の人の前では一切見せない仕草が、グレイの前では今更だ。

 

「随分と目まぐるしい」

「ここ数日は特にそうじゃな」

「未だバッハ侯爵が亡くなられたことを実感できていません」

「儂と出逢った時点で落としていてもおかしくなかった命じゃ。もう本人もおらんことだし、よく働いたと褒めてやるとするかのう」

「きっと、本人もそのつもりだったのでしょう。ユゥバ子爵は……、私を恨んでいるかもしれませんね」

「そうかもしれんな」

 

 グレイはフォローもせずにクルムの言葉に同意する。

 天井を見上げて黙り込んでしまったクルムに、続けて何かを言おうとも思わなかった。

 人の死を背負って生きて行けぬのならば、王など目指すべきではない。

 そしてクルムにそれができないとは思っていなかった。

 

「……さて、仕事をしましょう」

 

 およそ一分。

 それがクルムがそのことについて飲み込むまでの時間だった。

 十三の少女にしては上出来である。

 

 立ち上がってウェスカのところに顔を出したクルムは、自分のなすべきことを淡々と処理し始めた。

 そこに先ほどまでの憂いの表情は見当たらない。

 

 見ていてもつまらないグレイは、自室へ戻ると長椅子にゆったりと腰かけて改めて呟く。

 

「糞じゃのう、王位継承争い」

 

 好きではないが珍しく骨がありそうだと考えていたバッハ侯爵の死に対しての、グレイなりの追悼の言葉であった。

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