転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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行方不明のはずのホワイト団長

 翌日、ようやく街に出てパクスと情報共有をしたクルム。

 バッハ侯爵関係の話はすでに耳にしていて、十分に警戒していたようだ。

 完全に貴族周りの話になるので、パクスの方では警戒しつつも、何か手を貸すということもなくこのまま様子を見るつもりでいるとのことだった。

 

「こちらも少しずつ商会の取り込みをしています。王女殿下のような速度では難しいですが、〈リガルド〉との取引が大規模化してくれば、いずれはうまくいくでしょう。まぁ、お金が要り用でしたらいつでも仰ってください。納得のできる内容でしたらいつでも融通いたしますので」

 

 クルムの報告が終わったところで、パクスの方からも近況の報告をしておく。

 〈リガルド〉で縁を作ってからひと月と少したって、パクスの方も色々と動いているようだ。

 商人はどこまで行っても商人なので、本格的にクルムの動きと同道はしないし、あくまで利益が優先ではあるが、その後のことを考えれば協力は惜しまない。

 

 馬車の中で散々問答をした結果、パクスはクルムに対する解像度を上げている。

 パクスは王宮の他の候補者がどれほどのものかはあまりわからない。

 ただ、一般的にクルムの能力は非常に高く、それをグレイが補佐するとなれば王となる可能性は十分にあり得ると踏んでいる。 

 今は商売に大きな支障が出ない範囲で、しっかり協力することを決めている。

 駄目なら駄目で、しばらくはあげてもない足をとられぬよう警戒しながら商売をしていけばいいだけだ。

 

「ありがとうございます。もし〈リガルド〉に向かうことがありましたら、今の状況をラウンド様……、いえ、リゾルデ様にお伝えいただくことはできますか?」

「やっておきましょう」

「お願いします」

 

 話が終わると、パクスはすぐに立ち上がり部屋の外へ向けて歩き出す。

 

「先生と話をしたいところですが、今は忙しいでしょう。私の方でも色々と手回ししなければならないこともあります。こちらのことは気にせず、王女殿下はご自身の方の問題解決に注力されるとよろしいかと」

「……わかりました」

 

 クルムは『いちいち報告もいらないから、さっさと問題を解決して来い』という副音声を正確に受け取って頭を下げる。

 そそくさと店から立ち去っていくクルムを見送って、パクスはぽつりとつぶやく。

 

「せいぜい死なないように頑張ってもらいたいものだ。……ヒューレのためにも」

 

 流石に長いこと二人の様子を見ていれば、息子のヒューレがクルムのことを気に入っていることくらいには気が付く。同世代ではまともに話ができる相手もいないほどに優秀なヒューレにとって、自分と同じくらいの目線で語れるクルムの姿は、さぞやまぶしく映ったことだろう。

 分不相応に馬鹿なことを、と思いつつも、応援してやらないでもない、ひねくれた面倒くさい父親の気持ちがそこにはあるのだった。

 

 

 さて、久々に街の商店に顔を出せば、クルムが来たと皆喜んで迎えてくれる。

 そして、元気にしていてよかったと、物騒だから気を付けるようにとどこへ行っても忠告をされた。

 どうやら騎士たちが捜索に出ていることを街の人も知っているらしく、詳細はともかく、妙な事件が起きているらしいと気が付いているのだ。街に暮らす人は、自分の身を自分で守らなければならないので、噂話には敏感である。

 

 その都度クルムは「ご心配をおかけしてすみません」と謝り、あちらはいやいやそんなと慌てて首を振る。そうして相手の心配をして、次の顔なじみの下へ。

 これだけのやり取りと他に少し雑談をする程度でも、数をこなせば時間は使う。

 

 クルムはこの地道なやり取りも無駄ではないと信じている。

 それは王位継承争いに勝利するためだけではなく、その後の人生においてもだ。

 

 結局自室に戻ったのは夕方も遅く、その日は夕食を食べて、いくつかの仕事をこなしてすぐに休むことになった。

 クルムが休む頃には、グレイもすっかりベッドの中だ。

 普段とあまり変わらぬ格好で、ローブだけを脱いで眠っているグレイは、妙な気配を感じてぱちりと目を開けた。気のせいだと思って目を閉じることもできたが、グレイはすぐに体を起こすと、ローブに腕を通して部屋の扉を開けた。

 すぐにクルムの部屋へ向かい、ノックをすると勝手に扉を開けてその無事を確認する。

 

 急なノックの音にクルムも飛び起きたが、グレイの姿を確認したことで、寝ぼけ眼をぱちりと開いて、慌ててベッドから飛び出した。

 グレイが意味もなく部屋に入ってくるなんて、ほんの僅かも思っていない。

 すぐに服を着替えながら「何がありました?」と声をかける。

 

「分からんが、なんかありそうじゃな」

「何ですかそれは……」

 

 グレイの曖昧な発言に眉をひそめながらも、クルムは着替えの手を止めることはない。

 やがて動きやすい服に着替え終わった時に、廊下から足音がしてきた。

 

「少々お待ちください、あ、少々お待ちください、お願いします!」

 

 声を潜めながらもそう繰り返しているのは、今日の夜の番をしている若者だ。

 最近ビアットの父であるハサドが真面目に仕事をしているおかげか、こちらも少しずつ態度が改善されてきている。

 何事かとグレイがクルムの部屋の扉を開けると、兵士が引き留めるのを引きずりながら、完全武装のホワイトが廊下を歩いて向かってきていた。

 

「貴人の区域に完全武装でやってくるとか、馬鹿かお主」

 

 呆れた顔で自分のことを棚に上げて言い放つグレイ。

 

「ホワイト殿、何事ですか」

 

 『先生に言われたくないと思います』という言葉を飲み込んで、クルムは冷静にホワイトの奇行の理由を尋ねるのであった。




フラグが歩いてきた
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