転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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どちらでもない方法

 ジグは声をかけられても、ぼんやりとクルムたちの方を見ているだけだった。

 

「……操られているのか」

「ファンファお姉様も操られていたことがあるようです。あちらについたのか、あるいは祈りに行ったときに取り込まれたのか分かりませんが、その可能性はあるかと」

「敵になったのならば戦うしかあるまい」

 

 さらりと言ってのけたのはグレイで、眉間に皺を寄せたのはホワイトである。

 ホワイトはクルムに何を言われても、ジグを騎士団の仲間だと考えているし、部下と言うよりも、口うるさい同僚だと認めていた。

 

「こんな夜更けに襲撃とは……。ここ数日随分と暴れていたようですね、ホワイト団長。ジグ殿が何か良からぬことをしているのではないかと、随分と心配されていましたよ」

 

 やっていることは外道であるくせに、良く響く朗々とした声色は、聖職者らしく、妙に説得力があった。

 

「お主のところの副団長、わざわざ敵にお主の行動を報告していたらしいぞ。だから言うたじゃろうに」

「うるさい」

 

 いちいち緊張感のないグレイが突っ込みを入れると、ホワイトは短く返事をする。

 しかしそれは、大人の対応と言うより、子供の反論である。

 クルムも、どうしてこの老爺は誰彼構わず挑発するのだろうと、やや呆れていた。

 反面教師にはちょうどいい。

 

「実際困るのですよ。我々には、ルミネ王女殿下を擁立して、教会の教えを広く世に伝えるという崇高なる義務がある。人々は救われ、国には平和が訪れるでしょう。国を守るべき騎士団長殿が、それを阻止する理由がどこにありますか」

「黙れ。人を救う者は、人を無理やりに操ったりしない」

「神のために死ぬことは救いです」

「外道が」

 

 最後の言葉は呟くように発せられた。

 ホワイトの怒りは外に強く発せられることなく、心のうちに燃える火にくべられて、その勢いを強くする。

 

 一方でグレイは会話にも参加せず、ずっと周囲の様子を窺っているようであった。

 暴力と口喧嘩が大好き(とクルムが思っている)グレイが黙り込んでいると不気味であり、クルムの方も黙ってグレイの様子を窺う。

 何かこの状況を改善するための手段を探っているのだと信じているが、最悪の場合、ただ問答がくだらなさ過ぎて参加する気にもなっていない可能性は、まだ残されている。

 

「そうだ、そこの哀れな神の信徒たちを返していただけませんか? 痛々しくて見ていられません」

 

 グレイはロープからパッと手を離す。

 一応話は聞いているらしい。

 捕まっていた協会の関係者は、恐る恐る数歩歩き、それから悲鳴を上げながら教皇の方へと逃げて行った。

 

 しばらくして、教皇がさっと右手を上げる。

 その瞬間、薬物兵たちが動き出して、ロープで縛られた関係者たちへと群がった。

 薬物兵たちは武器を持たず、ただ人体を破壊すべく動く。

 ありえない力で噛みつき、引きちぎり、人体を破壊する。

 

 関係者たちの疑問の声、それから助けを求める声、言葉にならない悲鳴。

 それが完全に収まったところで、教皇は腕を下ろした。

 

「神を裏切った彼らは、この死をもって許されたことでしょう」

 

 くだらない茶番だった。

 ただ単に、教皇が裏切り者を許せずに、なぶって殺しただけの様にしか見えない。

 ホワイトもグレイも、そしてクルムも何も言わなかった。

 

 それを恐れたと勘違いしたのか、教皇は嬉しそうに話を続ける。

 

「あなた方は非常に優秀だ。もしあなた方が私に協力するというのならば、この場を見逃してあげても構いません。きっと神もお喜びになることでしょう。その場合は少しばかりお茶を飲んで、互いのために話し合いをする必要があるでしょうけれど」

 

 つまり、薬物にまみれた手先になるか、死ぬのか選べということだろう。

 リスクは高いが、子供は死ななくて済むし、その間に打開策が見つかる可能性もある。

 ただ、うまくいかなかった場合は、お終いだろう。

 

「クルムよ、どうしたい」

「……受け入れましょう。その間に先生ならばなんとかできると信じます。ここで戦って子供たちを見捨てるわけにはいきません。あの子たちは、薬物兵たちとは違って、ふらふらとしていません。まだ戻れる可能性があります」

「ふむ、信じるというがのう。儂がどうにもできなければ、お主死ぬぞ。目的も達成できず、屑の手先となって死ぬだけじゃぞ。儂ならば、この場からでも教皇を魔法で殺すことができる。子供は数人犠牲になるが」

「先生が子供を犠牲にしたがる人とは思っていません。それは、私も同じです。それにさっきも言いました。先生ならば、何とかできると、私は信じています。魔法に詠唱も動作も必要としないのですから、この距離で戦うよりも、より良い機会が絶対に訪れるはずです」

「今ならば確実にお主は助かるぞ。お主が王になりたいという気持ちはその程度か?」

 

 グレイがしつこく尋ねたところで、クルムは横目でじろりとグレイを睨んだ。

 クルムは気づいてしまったのだ。

 

「……先生、私を試してますね? 何を言っても気持ちは変わりません」

「ふむ、察しが良くなって困りものじゃ。しかしまぁ……、王としては間違っていても、儂好みの回答ではある。少しばかり危険はあるが、それならばこうじゃ!」

 

 グレイは回れ右して全力疾走。

 クルムを置いてこの場を逃げ出したのかと錯覚するような、鮮やかな走りだしであった。

 しかしグレイの向かう先は、ここから出るための道ではなく、九十度に曲がった建物の角である。

 

「ホワイト! クルムに傷一つでもつけば後で殺す!」

「うるさい、そんなことはありえん」

 

 グレイは左右の壁を二度ほど蹴って五階建ての屋根まで飛びあがった。

 捻られた体。

 右手には魔法で生み出した小石。

 引き延ばされた筋肉がうねりを上げ、屋根の上に控えていた二人の人影に向けて、手の平から小石が散弾の様に放たれた。

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