転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

252 / 359
この小説は私が書きあげると同時にアップロードされるようになっております。
なぜなら私が我慢できないから。


分析と爺のお節介

 ジグから事情聴取をした結果、【人形遣い】について、いくつかの情報を整理することができた。

 まずここ十年の間【人形遣い】が口を借りるレベルまで本気で操っていたのは、ルミネだけだったということ。一人にしかできないと考えてもいいが、これに関しては、やらなかっただけという考え方もできる。

 ただ、もし簡単にできるようであれば、ジグや教皇に対して使った方が安全だったと考えれば、易々と使えるような術ではないのだろう。

 

 二つ目に意志の大部分を取り除いた人、あるいは死体であれば、どうやら簡易な命令で、かなりの数を操れるようだということ。

 これに関してはグレイも度々目にしてきている。

 単調な動きが多いが、普通なら動かなくなるような怪我をさせても襲ってくる点と、捨て身の攻撃と通常状態を上回る怪力が厄介だ。

 達人ならばともかく、通常の兵士などが相手にするとなると、かなりの犠牲を強いられることになる。

 

 三つ目に、直接操ること以外にも、長く近くにいると考えの方向性を誘導されている感覚があるとのことだ。教皇などはそれが顕著で、長く見ていくにつれてどんどん悪い方向へ思考が切り替わっていったように見えたらしい。

 はじめのうちは、もう少し教皇らしく悩む素振りが見えたり、【人形遣い】の提案に反対するようなこともあったのだが、時が経つにつれて、傲慢で自信にあふれ、他人の犠牲をいとわぬように変化していったのだとか。

 ことがうまく運んでいることによる性格の変化ともとれるが、何かしらの影響を受けて変わったと考えて警戒した方が無難だろう。

 

 最後に、瞬間的に人の意識から外れるすべを持っているということ。

 おそらくこれも三つ目の技法やら魔法やらの応用なのだろうけれど、とにかく姿をくらますのがうまい。

 本気を出されればグレイですら察知できず、目の前にいても、目を離した瞬間にかき消えるのだから面倒だ。

 グレイに言わせれば「まだどこか近くに潜んでいることが分かるのに、どこにいるかわからんくて気持ち悪い」状態らしい。

 

 本気で周囲を破壊する魔法をぶちまければ殺せる可能性は高いが、近くにいる者をすべて巻き込むような形になるのでやらなかっただけ、とグレイは【人形遣い】を逃がしたことに関して弁明した。

 

 実際あの場でその規模の魔法をぶちまけた場合、館が崩壊して、ホワイトはともかく、クルムやルミネ、ジグなどは被害を受けていたことだろう。

 グレイがそれを言ってじろりとホワイトを見ると、ホワイトは「そうか」とだけ答えた。

 グレイからするとやや不満だが、別にホワイトとて、元からグレイを馬鹿にしようと思っていたわけではない。ただ単純に、そんな危険な奴を逃がしてしまったのだな、と事実を口にしただけである。

 

 話があらかた済んだところで、ホワイトは立ち上がって外を見る。

 まだ外は真っ暗だが、ホワイトは騎士団長として、明るくなる前に大聖堂の裏手の始末をはじめなければならない。

 

「……クルム王女殿下、私は後始末に行かねばならない。ジグの見張りをお願いしたい」

「それは、派閥の仲間としてですか?」

「仲間にならねば引き受けてもらえぬだろうか」

 

 難しい問いかけであったが、クルムは小さくため息をついて首を横に振った。

 

「……引き受けましょう。できることならば、今後の付き合いは前向きに考えてください」

「恩に着る」

 

 ホワイトはジグを一瞥すると、そのまま部屋から出て行ってしまった。

 外で待っている子供たちを連れ、騎士たちを叩き起こして、現場へと戻るのだろう。

 こういった後始末は、本来ジグの仕事であったが、今回ばかりは頼むわけにはいかない。

 

 ホワイトがいなくなった部屋はしんと静まり返る。

 クルムが何をどう切り出すか考えていると、グレイが顎鬚を撫でながら口を開く。

 

「して、どうするんじゃ?」

 

 それはジグに問いかけたようにも聞こえたし、クルムに問いかけたようにも聞こえた。

 ジグが黙り込んでいると、グレイとの問答に慣れているクルムの方が先に答える。

 

「ジグ殿の処遇についてですか?」

「まぁ、そのあたりじゃな」

「……長い年月をかけて、たくさんの犠牲者を出したことは事実です。罪を償ってもらう、というのが、普通の考えでしょう」

「普通の考えなど聞いておらん」

 

 通り一遍の回答にグレイは首を横に振る。

 クルムだってそれが求められていないことは分かっていたが、まだ考えがまとまっていなかったのだ。ましてクルムは、ジグの目の前でこの問答をやるつもりはなかった。

 

「クルム王女殿下の仰る通りです。私は罪を犯したのだから……」

「黙っとれ」

 

 クルムに加勢したジグを、グレイがじろりと睨みつける。

 そうして黙り込んだところで一言付け加える。

 

「自分で自分の価値を下げるな、馬鹿者が。クルム、お主の、こ奴に対する評価を聞いておる」

 

 グレイは、聞かせろと言っているのだ。

 あえて目の前で、ジグに対して、ルミネと同じ王女であるクルムから、その価値を伝えろと言っている。

 そんな勝手なことをしていいものかとクルムは数秒黙り込んだが、ついには倫理観を無視して開き直った。

 

「…………はっきり言って、ジグ殿に今罰を受けられては困ります」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。