転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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騎士団の組織力

 大聖堂へ戻ると、ジグは次々と騎士たちに話しかけられ、忙しくそれに答えていた。ホワイトに聞いてもちゃんとした返事がないような細かな要件があったのだろう。

 それを見ながらホワイトは難しい顔をしている。

 

 ジグが捕まっているうちに、クルムはホワイトの方へ歩み寄り、話しかける。

 

「……スペルティア様やルミネお姉様が、【人形遣い】に襲われないかが心配です」

「そうだな」

「落ち着くまで私の方で預からせていただこうかな、と」

 

 本来王都に異変があった際に、貴人の警護をするのは騎士団の役割でもある。

 しかし、騎士団は今回の事件の処理でしばらく忙しくなるはずだ。

 多少の人員を護衛に回すことはできるかもしれないが、事情を詳しく知らない騎士をつけたところで、【人形遣い】からの襲撃を防ぐことができるとは思えない。

 そうなるとホワイトかジグが必ず護衛にまわらなければいけなくなるのだが、ジグは目の届くところに置いておかなければならないし、自分がかかりきりになると話が進まない。

 頭を二つにして上手く回してきたせいで、後進の育成がうまくいっていないのだろう、とクルムは推測する。

 

 これまでの話をまとめて考える限り、騎士団はホワイトが団長になる前に、一度玉石混交のめちゃくちゃな組織になっている。能力のない者がコネで上の方にいたり、能力のある者が追い出されたりしていたものだから、中間層がスカスカになっているのだ。

 

 例えば次代を担う存在として、大変わり者ではあるけれど〈要塞軍〉に行ってしまった【頭蓋割】ロブスも、元々は騎士団に所属していた。

 

 ホワイトは基本的に、自分が何とかすればいい、タイプの男ではあるけれど、それでも騎士団長であるから、組織の状態くらいはある程度把握しているはずだ。

 ジグを数に入れられないだけでこれだけ不便であるかと、痛感するに違いない。

 それを狙っての声掛けである。

 

「騎士団の方ではお忙しくて難しいでしょう?」

 

 ホワイトが怖い顔をして黙り込んでいるので、ここぞとばかりに更に追撃する。

 怖い顔などに怯むクルムではない。

 もしジグを処分したならば、本来騎士団が担うべきことを、騎士団内で回せなくなるくらい組織が弱体化しますよ、と現実を押し付けていく。

 

「……頼む」

「わかりました、頼まれます」

 

 クルムはにっこりと笑って答えるが、一方のホワイトは渋い顔のままだ。

 借りを作ることになるのだから当たり前だった。

 期間が長くなればなるほど、借りは大きくなっていくのだから困りものだろう。

 

 今の状況を見れば、ジグを仕事から外せば、それだけ事件の収拾は遅くなることだろう。ただし、ホワイトがそうするべきだと思っているように、ジグを処分するのであれば、騎士団内は混乱し、更に解決の日は遠のく。

 

 騎士団内でジグの存在があまりに大きすぎるのだ。

 本人は騎士団長の器ではないと言っていたが、もし本人が強く望んで行動に移していれば、ホワイトとジグの立場が逆であったことすら考えられる。

 むしろその方が自然な流れであったはずだ。

 それをジグが陰ながら内部意見の調整をして、うまく教皇や【人形遣い】を誤魔化しつつ、ホワイトを団長に仕立て上げたのだろうと、今のクルムは考えている。

 

「時間が作れるときに、ジグ殿を連れて一度訪ねてきていただけませんか? もう一度今回のことや、今後の動きについてお話をさせていただきたいです」

「……いいだろう」

「お願いします。この場にいてもお邪魔になるでしょうし、私は王宮へ戻って少し休みます」

 

 再度話し合いの約束まで取り付けたところで、クルムは素早く撤退を決める。

 この時点で、次の話し合いまでジグが普通に働くことは決まったようなものだ。

 ジグがここから普通に仕事をしていればしているほど、処罰するとなれば動揺は大きくなる。

 その影響力を最大に引き上げておくことが、クルムが今できることの一つであった。

 

 一応ジグにも共有をと思い、寄っていくと、騎士たちがジグを解放して話をさせてくれる。

 

「今回の件について詳細をお聞きしたいので、ホワイト殿にお願いして時間を取っていただくことになりました。後ほど私の方に訪ねていただく手筈となっておりますので、その際はよろしくお願いいたします」

「承知いたしました」

 

 これだけ話しておけば、ジグならば今の状況は把握したことだろう。

 脳筋でない相手と話すのは、ある意味気楽である。

 

 大聖堂から外へ出て、そろそろにぎわい出した街の大通りを抜け、時折街の人に挨拶をしながら王宮へと向かう。

 人通りのある所に出てからのルミネは、いつも王宮で見ていたような澄ました表情を維持しており、とてもジグにデレデレしている時とは同一人物には見えなかった。

 やっぱりなんだかんだで、しっかりしていそうな姉である。

 

 自身の区域についたクルムは、しばしルミネとスペルティアを自室に招き、その間にウェスカたちに頼んで部屋を用意してもらう。まさかこれだけ部屋が埋まる程、自分の区域が盛況になる日が来るとは思ってもみなかったクルムである。

 

 何とか部屋が整ったところで、二人を部屋へ案内し、クルムはようやく自室のベッドに座り大きくため息をついて気を抜いた。

 ここ数日であまりにもいろいろなことが起こりすぎている。

 特に今晩は酷かった。

 今すぐにも寝転がって仮眠を取りたいところである。

 

 そんなクルムとは裏腹に、二人を部屋に案内する間、クルムの部屋に残っていたグレイは、拳を床について腕立て伏せをしている。

 どうしてそんなに元気なのか、クルムにはさっぱりわからない。

 もしかしたら同じ人間ではないんじゃないかと、久々に疑いを持つところである。

 

「…………先生」

「なんじゃ」

「相談してもいいですか」

 

 グレイはぴたりと動きを止めると、「ふむ……」と言いながら立ち上がって歩き出し、椅子に腰を掛ける。

 

「しおれた顔をしおって……、まったく情けない」

 

 グレイはそう嘆きながらも、真面目な顔をしてクルムに向き合った。

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