転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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作戦決行

 はたして夜がやってきて、クルムはウェスカに出かけることを伝え、迎えの二人と共にバミの待つ部屋へと向かうことになった。

 敵対している勢力は残りわずかで、王宮内での襲撃の可能性は限りなく低い。

 あり得るとすれば切羽詰まったケルン王子によるものか、外国勢力とつながりのあるジグラ王子によるものだろう。

 とはいえ、王宮内で理由もなく身内を殺したとはっきりわかれば、その時点で王位継承の可能性は限りなく低くなる。殺すにしても、それなりの言い訳が必要なのだ。

 昨日今日の状況の変化に加え、さっき決めたばかりのグレイなしでの外出に合わせて、そんな準備ができるはずもない。

 

 見張りの兵士くらいしか立っていない夜の廊下を歩きながら、クルムは二人に話しかける。

 

「バミ大臣には何と?」

「グレイ殿はスペルティア様とルミネ王女殿下の護衛をしているので、一人で、とお伝えしております」

「騎士団へ恩を売るための措置として、クルム様がそう判断した、とも。問題ございませんか?」

「結構です」

 

 クリネアが話してホープが補足する。

 元々昼間の時点で、ある程度言い訳は柔軟にしていいと伝えてあるのでこの程度ならば何も問題はない。

 

「バミ大臣の反応はどうでしたか」

「特に疑っている様子は見られませんでしたが、ばれているかいないか、五分五分でしょうか。現状普通に会うと仰っていたので、可能性の一つとして想像はしていらっしゃる程度かと」

「とはいえ、バミ様の考えることは分かりません。私たちはバミ様の近くにいるからこそ、その思考の冴えを思い知っています。すべて見通されていることもありえます」

「実際に行動に移してみるまで分からないと」

「「はい」」

 

 二人が同時に返事をしたところで、クルムは再び黙り込む。

 クルムがスペルティアとバミを再会させようと決めたのは、何も二人のためだけではない。

 今回の件の後処理と今後の対応で、スペルティア、バミ、ルミネ、ジグ、そしてホワイトの五人が滞りなく意思の疎通がとれる状態でないと、連携が悪くなると考えているからだ。

 バミがこれまで頑なにスペルティアに顔を合わせなかったことを考えれば、この試みは、バミへの不意打ちのようなものである。はっきり言ってうまくいかなければ印象は酷く悪いことだろう。

 

 しかし、それを押しても、クルムは状況がプラスに転ぶ方に賭けた。

 何が正解かわからないのだから、自分が正しいと思ったことをする。

 

 スペルティアとバミとグレイの話を聞いた限り、クルムはバミとスペルティアが再会すべきであると思った。そして自分がやらなくても、いつかはグレイが主導でそれは無理やり行われることになるだろう。

 それならば、今が良い。

 そんな判断である。

 

 長い外廊下を抜けて、大きな建物に入り、更に入り組んだ道を抜けて、ようやく王宮の端の方にあるバミの執務室にたどり着く。

 先導してきたクリネアが扉をノックすると、中からバミの声がして、ホープが扉を押し開ける。

 

 部屋の中には、バミが杖を突きながら立ち上がって待っていた。

 クルムが来ると予告していたので、きちんと準備をして待っていたのだろう。

 

「夜分に御足労頂き申し訳ありません」

 

 バミは丁寧にクルムに頭を下げる。

 クルムに対して、他意なくこれほど丁寧に接してくれる大臣は他にいない。

 

「いえ、私が無理を言って時間を取っていただいたのですから、お訪ねするのは当然のことです」

 

 そもそもバミは、グレイと違ってちゃんとした弱った老人である。

 杖をつき、足を引きずって歩いているバミを真夜中に呼び出すなど、いくら王族でも傲慢が過ぎる。

 

「そう仰っていただけると助かります。どうぞおかけください」

「ありがとうございます。バミ大臣も無理をなさらずおかけください」

 

 互いに椅子をすすめて腰かける。

 クルムはその間にもバミの表情や所作を観察していたが、それで分かるようなぼろは出てこない。

 バミはゆっくりと椅子に腰かけると、少しばかり前かがみになっていた上半身をピンと伸ばし、クルムと正面から見つめ合う。

 そうして何でもないようにさらりと話を切り出した。

 

「さて、グレイはいつ頃やって来るのでしょうか?」

 

 先ほどの二人の話によれば、グレイがここにやってくることはバミに伝わっていないはずだ。まさか二人が伝え間違えていたとも、バミが勘違いをしていたともクルムは思わない。

 バミのこれまでのクルムに対する態度を考えれば、かまをかけてくるような人物でないことも分かる。

 すなわち、二人の想定していた通り、バミはクルムたちの考えをある程度見抜いたうえで、この場に臨んでいるということになる。

 

 この王宮という魔窟を長く生き抜いてきた猛者である。

 クルムは即座に白旗を上げて降参した。

 

「騙すような真似をして申し訳ございません。しかし、大事な相談があることは本当なのです」

「……正直、あの馬鹿が戻ってきた時点で、スペルティア様と向き合う覚悟はしていました。無理やり連れていかれて勝ち誇られるくらいならば、この老いぼれのために気を回してくれた、王女殿下や部下の厚意を受け入れる方が良かった。それだけです。あまりお心を痛めませんように」

 

 クルムは滔々と述べるバミの気遣いの言葉を聞きながら、ただ膝の上に乗せた両手を重ね、体を小さくするのであった。

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