転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ヴェールの中の昔話

「私はスペルティア様と昔からの知り合いでな……、とある約束をしていた」

 

 バミは渋々重い口を開いた。

 余計なことは言わず必要なことを伝える。

 この場、この瞬間にホワイトに知られるべきではない情報もある。

 

「もう、五十年も前のことだ。自分の頭脳と仲間たちの力さえあれば何でもできると思っていた。成功を繰り返していると、あるいは失敗をせずにいると、物事を軽く見るようになる。想定が甘くなる。その時の私もそうだった。仲間たちのそれぞれがそれぞれの道を歩み、私に手を貸すことができなくなった」

 

 バミは当時のことを思い出す。

 優しいナックスが死んだ。

 ブラックがよそよそしくなり、グレイが犯人を捜し暴れまわり始めた。

 バミは静かに真実を突き止め、何度も何度も間違いがないか確認した。

 

 グレイは途中で幾度かバミに犯人が分かったかと尋ねてきた。

 そのたびバミは誤魔化してしまった。

 残酷な真実をグレイに伝えるか迷ってしまった。

 まだ確実ではない。

 間違っていたらどうする。

 

 ブラックがナックスの死を仕組んでいたというのが、万が一自分の勘違いであれば大変なことになる。

 ただ、その不都合な真実は最後まで覆ることはなかったし、そうしている間に、グレイも乱暴な手段で真実にまでたどり着いてしまった。

 

 手段を選ばないのであれば、バミの頭脳など初めからグレイには必要がなかったのだ。

 スペルティアを救出することも、その故郷を取り戻すことだって、効率的にやるためにバミが必要なだけであった。

 本当に重要なピースは、それを行うための指揮を執るナックスと、全てを力でねじ伏せることのできるグレイであった。

 自分はおまけでしかなかったのだと悟った瞬間だった。

 

 バミは深くため息をついて、それらの苦い記憶を飲み込んで話を続ける。

 

「それだけで、私は約束を守れなくなった。代わりを見つけることは難しく、意気揚々と語った未来はただの絵空事に成り代わった。とても顔を合わせることはできぬ。諦めるつもりはなかった。いつか代わりの策を探り出すつもりでいた。スペルティア様の安全を確保しつつ、様々な可能性を探りながら生きてきた。……そして気付けば五十年が過ぎていた」

 

 苦悩に満ちた五十年間であった。

 最後に絞り出すように付け足されたたった一言がただただ重たかった。

 

「グレイは、昔の私とスペルティア様の関係を知っている。だから今の私たちの関係を見た時、何をしているのかと言ってきた。そのうち首根っこを掴んででも、スペルティア様のところへ連れていくと脅してきた。こ奴がやると言ったらやる男であることはホワイト殿も分かるだろう?」

「……そうですね」

 

 これに関してはホワイトも頷くほかない。

 

「危うく私は、首根っこを掴まれ、情けない姿でスペルティア様の下へ連れていかれるところだったのだ。それを哀れに思ってくれたのが、私の信頼する部下であるところのホープとクリネア、そしてクルム王女殿下だ。一計を案じてスペルティア様をここへ連れて来てくださった。私もこれはもう、逃げ回ることもできまいと観念して、素直に顔を合わせることにした次第だ」

「勝手に恥ずかしがって勝手に会わなくなって迷惑だった」

「申し訳ございません……」

 

 スペルティアが口を挟むとバミが静かに謝罪をする。

 事実であるからして、バミは一切反論することができなかった。

 

「……クルム王女殿下にはもしかすると、今回の件で私に忖度をしてもらいたいという気持ちもあったのやもしれない。だからこそ、ホワイト殿がいない間に、状況を説明し終えた。しかしホワイト殿がやって来た。だから私は、改めてホワイト殿の口から、何があったのかを聞かせてほしいと言っているのだ。ここまでで何か気にかかることはあるだろうか?」

「ありません」

「では話を聞かせていただきたい」

「わかりました」

 

 バミは多くの事情を隠したままホワイトへの説明を終えた。

 ホワイトもまだまだいくらでも突っ込む余地はあったはずだがそれをしなかった。

 ここ数年、ジグとは別方面のもう一人の相棒のように、事件をともに解決してきたバミに、これ以上恥をかかすまいと思ったのだ。

 

「では、ジグの事情の辺りから……」

 

 バミは、ホワイトが隙だらけの自分の語りに突っ込みを入れなかったことを、付け込む隙だと冷静に見ていた。

 交渉をするならばもっとあくどくて良いのだ。

 図々しくて良いのだ。

 ホワイトは目的を共にした者に対して甘くなる傾向にある。

 うすうすその自覚もあり、今回の件に関しても、バッサリと切り捨ててしまえばいいところを、説得してほしそうに交渉の場に乗り出している。

 本心は、ジグを許したい。

 不器用な男であった。

 

 そしてバミは不器用な男が嫌いではなかった。

 

 ホワイトが話を終えた。

 ホワイトの真剣な瞳は、誤魔化しを許さないと燃える反面、バミに何かを期待しているようでもあった。

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