転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

277 / 359
それぞれの具体的な動き方

「私たちは私たちで何かした方がいいってことよね? そうねぇ……、クルムは貧民街の人たちを例えば、何に使うつもりなのかしら?」

「王都の維持に役立つような力になってもらえればと」

「んー……、さっき言ってた農地を拡大して、みたいな話とか?」

「いいですね。私が王になればそんな政策を取ってもいいでしょう」

 

 今の王都の仕組みでは、農地の拡大は許可制になっている。

 基本的に王族で土地の管理をするため、また、魔物からの襲撃より農地を守るために、むやみに農地の拡大は行っていない。

 それでも自立を目指す者は、村を作る許可を取って各地へ自立していくのであるが、一応そうすると税を納める必要が出て来る。

 準備資金も十分に必要であるし、そもそも村を作るための仕組みを理解していないと、違法に領土内にコミュニティを作っている賊として討伐されかねない。

 王都内での村の設立というのは、実のところ非常に難易度の高い選択なのだ。

 

 今の王都が飢えずに過ごしていられるのは、各地の貴族領からの輸入に頼っているからに他ならない。王族は本来ならば自立のため、王都のみで自給自足できるようになりたいところなのだが、なかなかそうもいかない現実はこんなところにもあった。

 

 きっとこれも、代々貴族たちが力を持ってきた弊害の一つでもあるのだろう。

 

「開墾した土地を、収穫が落ち着くまでの数年、税を払わなくてよいようにするの。ランゴートおじさまのようなお金がたくさんある人に、最初の資金を捻出してもらって、その数年の間にお金を返す。そして出資した人はその農地からちゃんとお金が回収できるように、一定範囲の巡回を冒険者に頼むような制度を作るの。そうすると王都にはあまり仕事のない冒険者にも仕事ができて、こっちの雇用機会も生まれるわ」

「なるほど……、それはいいですね。実際に可能かどうか、ランゴート様と話し合ってみてください。私の方でもパクス様に相談をしてみます。現実的であれば、将来的に進められるように動いてみましょう。ここでお金をかけていただけば、私のことを推さざるを得なくなりますし……、良い考えです。お願いします」

 

 この考えを前提にあらかじめ人を集めておいてもらえれば、言うことを聞かせられる貧民街の住人も増えるであろう。

 そうなると、動いてくれた商人たちからしても、金をかけたのだからクルムに勝ってもらわねば困る、という形になる。

 後援を取り付けるには、こうした相互利益の構築が不可欠なのだ。

 

 グレイはそれを聞きながら、『班田収授法』やら『墾田永年私財法』なんて言葉が思い浮かんだが、まあいいかと口を閉ざしていた。

 グレイの知っている歴史によれば、一時的に王家の力が増すかもしれないが、いずれは農地を持つ者が力を持ち、色々と問題を持っていくようなやり方である。

 ただまぁ、それはそれ、これはこれで、貧民街の住人に仕事を与えるという点を考えれば、間違ったやり方にも思えなかった。

 グレイはなんとなくの歴史を知っているが、そこから学んで正しい政策を導き出すほどには専門的な知識を持っているわけではない。

 きっとその時代その時代で、人々が考えて方向性を定めていくのだろうから、ここで先々のことを懸念してあれこれ言ったところで仕方がないと考えるのだ。

 というか、ごちゃごちゃした話はさして面白くないので専門外である。

 

「私は……、新たなことはできませんが、教会への不信感を払うために、今まで同様に人々の慰撫に努めてまいりたいと思います。その信心が、いずれクルム王女の未来を照らすと信じましょう」

 

 続いてルミネが自分の方針を告げる。

 教会が荒れると、治安も乱れ、貧民街の住民は増えるものだ。

 基本的には善を説く集団であるのだから、しっかりと立て直してもらった方が、全体的にはいいに決まっている。

 

「はい、お願いします。貧民街の住人の中にも、教会の言うことならば従うという人も居ましょう。いずれ先ほどの話が本格的に動き出す時に、教会が口利きをしてくれれば信頼度も増します。手を上げて自主的に一旗揚げようという人も増えることでしょう。色々と落ち着かない時期ですから、護衛は……」

 

 ルミネはにっこりと笑って少しばかり首をかしげながら答えた。

 

「私にはジグ殿がいますから、ね?」

「はっ」

 

 許可をもらったおかげで堂々とした自分のもの宣言である。

 ジグもそればかりは疑問も抱かずに返事をする。

 ルミネの護衛は自分の仕事。

 ジグにとってそれが最優先であることは確かであった。

 

「となると、俺の仕事はジグ殿の穴を埋める形でホワイト殿を支えることだな」

 

 ジグがルミネの護衛に就くことが増えるという話は、先ほどの説明で聞いている。 

 王都内の治安を守ることを考えても、クルムが騎士団の動きを把握したいという事情のためにも、ハップスが騎士団と共に活動するのは理にかなっている。

 もちろんホワイトは、ハップスがクルムの派閥であることは分かっていても、それを拒絶することはできないだろう。

 そうしておくことによって、一時的にハップスやジグの口利きによって、騎士団の方針をある程度操作することも難しくない。

 

「助かります、お兄様」

「俺にはこれくらいしかできん。グレイ殿に任せておけば心配ないだろうが……、クルムも襲撃などには十分気をつけろ」

「ありがとうございます」

 

 これで大体の方針は決定した。

 椅子の前足を浮かせて行儀悪くぎこぎことしていたグレイも、方針会議というつまらない話し合いからようやく解放されそうである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。