転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ファンファのお誘い

「まずは私がお話をしますから、お爺様は静かに見ていてくださらないかしら?」

 

 宿の前についたファンファがグレイを見上げてお願い事をする。

 これまでグレイの蛮行をさんざん見てきたというのに、普通にお願い事をして聞いてもらえると思っている辺り、神経の太いことである。

 

「なぜじゃ。儂が会いに来たんじゃぞ」

 

 むすっとしたままのグレイが答えると、ファンファは正面にまわって小首をかしげて見せる。可愛らしさを見せて誤魔化すつもりなのだろうけれど、グレイには効かないことをそろそろ学んだほうがいい。

 

「私がうまくやって、味方に付けられたらクルムだって喜ぶんじゃないかしら?」

「知らん」

「そんなこと仰らずに」

「嫌じゃ」

 

 そっぽを向いたグレイに、ファンファは頬をふくらませた。

 そうして拳を握って、グレイの分厚い胸を両手でトンと叩く。

 

「お願いします、私だって手柄が欲しいんですの!」

 

 光景を見守っていたドーンズとニクスは言葉も出ずに真っ青になった。

 じろりとグレイがファンファを見て、ファンファもその目をじっと見返す。

 

「……仕方ないのう」

 

 相変わらず妙なところで勇気のある小娘だと思いながら、珍しくグレイが一歩譲る。

 そもそも最初に断ったのも、素直に同意すると、最初からファンファの護衛のためについてきたような気分になって不愉快だから、というだけだ。

 これだけ丁寧にお願いされれば聞いてやらないこともない。

 毎日のようにやってきてペラペラと喋り続けるファンファには、グレイもだんだんと慣れ始めてしまって、裁定が甘くなっている節があるようだった。

 

「ありがとうございますっ」

 

 にっこりと笑ったファンファに、ドーンズとニクスも一安心。

 王都の中でも比較的質のいい宿へたどり着くと、ファンファは堂々と扉を開け放った。事前連絡はしていないが、身分を明かせば嫌がられることはまずない。

 ファンファは権力の上手な使い方も心得ている。

 さっと宿に入ってすぐのところにあるカフェエリアに目をやってから、つかつかと受付の方へと歩いていく。

 

「ここに凄腕の冒険者が泊まっている、と聞いて会いに来たのだけれど?」

 

 受付カウンターに肘と胸を乗せ、体を乗り出しながらファンファはニコーっと笑って大きな声で話しかける。男性店員にはばっちりと効いていそうだ。

 しかし彼は鼻の下を伸ばしながらも、困ったような顔をして首を振る。

 

「申し訳ございません、お客様の情報をお答えするわけにはいかず……」

 

 デレデレしてるくせに、しっかりと仕事はこなすらしい。

 流石に良い宿で働いているだけある。

 

「そんな意地悪言ってぇ……、私」

「なぁおい、どこでそれを聞いたんだ?」

 

 ファンファが唇を尖らせながら自身の身分を伝えようとしたところで、いかにも冒険者らしい格好をした男から横やりが入る。

 つい先ほど朝食を食べていた席から立ち上がり、近寄ってきた男だ。

 大きな声で問いかけるファンファに気が付いたのだろう。

 

 これはこれで計画通りだったのか、ファンファは受付から離れてその男を見上げる。背が低いので、高身長の男性を見る時はどうしてもそんな姿勢になってしまうのだ。

 ちなみにファンファが離れてしまったことに、受付の男性は少しばかり残念そうな表情をしていた。

 

「ギルドで噂になってましたのよ。私、強い冒険者に目がありませんの」

 

 男は素早く後ろに立っている三人を確認する。

 ドーンズとニクスを見て、それからあまり視線を向けないようにしていたグレイをちらりと見てから、すぐに目を逸らした。

 明らかに老人であるのに、自分よりもガタイが良い怪しい男だ。

 あまり目を合わせて余計な諍いを起こしたくない。

 老兵で経験豊富な癖に、身体的な衰えがないなんて、一流の冒険者ならばまず避けて通る相手だ。

 その場に存在するだけで牽制になる爺、それがグレイである。

 

「噂ねぇ、のんびりもできないのか」

 

 ともあれ、ファンファの言葉はその男の自尊心をくすぐったようだった。

 王都に現れただけで、冒険者たちがざわつくほど有名になった、と考えればそんなに気分も悪くないのだろう。

 厳しい表情をして、悦に入っているのを隠しているようにも見える。

 一流の冒険者ともなれば金はそれなりに持っているので、他に欲しいものと言えば地位と名誉である。少しばかりそれが満たされたのだろう。

 

「お話、聞かせていただけないかしら?」

「……その前に、名前くらい聞かせてもらえねぇかな?」

「あら、失礼しましたわ」

 

 ファンファはにこりと笑って首をかしげる。

 得意のやつだった。

 

「私、ファンファ=ハルシと申しますの」

 

 男は驚いた顔をして問い返す。

 

「と言うと……、王族の方ですか?」

「ええ、ハルシ王が第九子ですわ」

「……そうとは知らないで……、いや、知らずに、大変失礼をいたしました……。いや、俺の話なんか聞いても、別に、その……」

 

 急に勢いを失った男は、しどろもどろに言い訳を始める。

 

「おい、いつまでも何してんだよ」

 

 そこへ丁度、一緒に食事をしていた仲間たちがやってきて男に声をかけた。

 

「いや、それがよ……」

 

 男が事情を説明すると、やって来た三人も困ったような顔をして、どうしたものかとひそひそ話を始めてしまった。

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