転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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冒険者たちの怪しい動き

 グレイがしっかりと食事を終えた頃、ファンファの座っているテーブルはいつの間にか盛り上がっていた。

 随分と楽しそうに話していたが、それからさらに三十分ほどしてグレイがデザートを食べている時だった。

 冒険者の内の一人が、急にはっとした顔をして立ち上がる。

 

「すみません、ちょっと今日待ち合わせの用事があって……!」

「あら……、王都にお知り合いがいるのかしら?」

「あっ、いや……、こっちに来てから知り合ったやつがいるんですよ」

「私の知っている方かしら? 良かったら紹介してくださらない?」

 

 ファンファが邪気のないように見える笑みを浮かべながら尋ねるも、冒険者たちは瞬時に目配せをして「向こうにも聞いてみます」と無難な返答をしてきた。

 どうやら触れられたくない部分の話のようだ。

 慌ただしく立ち去ろうとする冒険者たちに向けて、ファンファは最後に一言尋ねる。

 

「もっといろんなお話をしてみたいわ。また遊びに来てもいいかしら?」

 

 冒険者たちは嬉しそうにしながら、それぞれが肯定的な返事を残して去って行った。どうやらあちらも、王族の知り合いという伝手を維持したいと考えているらしい。

 

 冒険者たちが宿から出ていったところで、グレイがぬっと立ち上がり、無言でその後を追いかける。

 ファンファも、飲み食いの支払いを終えると、ドーンズとニクスと共に、すぐにその後に続いた。

 

「お爺様、食べ過ぎですわ。お身体に悪くてよ?」

「いいや、飯なんか食えば食っただけ力になるもんじゃ」

 

 ファンファはグレイを頭のてっぺんからつま先まで眺めて、反論するのをやめた。

 支払いは大層な金額になっていたが、別にそれを咎めるつもりはなく、本当に食べ過ぎだと思ったので忠告しただけなのだ。

 しかしこれだけ頑健な老人にはっきりと言い返されると、自分の方が間違っていたのではないかと思えて来る。

 

「先ほどの方々を追いかけているんですの?」

「当たり前じゃろ。何か情報は抜けたのか?」

「そうですわね……、冒険者であるのは間違いないとして……、実はこの街には観光ではなく、商人の護衛でやって来たそうですわよ。〈万年祭〉を機会に、王都に出店を計画している隣国の商人が下調べをしているそうです」

 

 それでは彼らの行動はなんの不審もなくなってしまう。

 王国まで出店を計画するような商人であるから、大商人であることには違いない。

 実力のある冒険者を護衛に雇うぐらい十分にあり得るだろう。

 

「他には?」

「……大聖堂でも、王宮でも、冒険者ギルドでも、大商会でもなく、貧民街の話をちらりとしていましたわ。行く理由などないと思うのだけど、わざわざ話題に出すということは、何か関わりがあるのではないかしら?」

「ほう」

 

 そうなってくるとやはり怪しい。

 貧民街は王都では王宮と同じくらいのブラックボックス状態だ。

 何かを伏せておくにはちょうどいい場所である。

 

 かなり距離を取ったまま大通りをつけていくと、冒険者たちはやがて段々とさびれた地域へと向かっていく。

 

「……お主らがいるとばれるから帰れ」

 

 そこでグレイは、ファンファたちを追い返すことにした。

 街中ならまだしも、人が少ない場所で人の後をつけようとなると、ファンファのようなキラキラピカピカして騒がしいのがいると邪魔なだけだ。

 

「えぇ! 私が情報を集めましたのに!?」

「邪魔じゃ、帰ってクルムに報告でもしておくんじゃな」

「ファンファ様、ここは一つ……」

「流石に……」

 

 ドーンズとニクスにたしなめられて、ファンファは渋々引き上げていく。

 意外と物分かりが良いのは、グレイが言うことの聞かない相手には、最終的に老若男女平等パンチを繰り出すことを知っているからだろう。

 時間を掛けられる場面ではないし、なんだかんだと引き際をわきまえているのが、ファンファの強いところである。

 

 ファンファが立ち去ったところで、グレイは追跡を再開する。

 段々と北地区のロンヌスが頭を張っている貧民街へ近づいていき、そのさびれた一角にある、古くて大きなレンガ造りの建物に、冒険者たちは姿を消した。

 一見すると倉庫のようにしか見えない建物だ。

 

 グレイは隠密が得意なわけではないから、流石に建物内までばれずに潜入することは難しい。

 さてどうしたものか、というところだ。

 選択肢は二つ。

 まだしばらく様子を見る、と、今すぐ乗り込んでボコボコにして何を企んでいるか吐かせる、だ。

 しかしグレイの正義に照らし合わせてみると、男たちは今のところまだ悪さをしていない。

 つまり、ボコボコにする口実がないのだ。

 

 仕方なくグレイは、男たちが出てくるまで、建物の屋上に飛びあがって静かに待つことにした。一応耳を澄ませてみるが、倉庫として使われていたこともあってか、意外とこの建物の気密性は高いようで、何を喋っているかまではわからない。

 冒険者たちはしばらくの間そこで静かにしていたが、やがて夕暮れになる前に、外へ出て周囲を警戒しはじめた。

 近くに誰もいないかを確認しているような動きはいかにも怪しい。

 

 それでも、まさか屋上に待機している曲者がいるとは思わず、結局建物の中に何か声をかけに戻っていった。

 また少しすると、何やら木箱を積んだ荷車を、人が引いて出て来る。

 冒険者たちは周囲を警戒しながら、その荷車と共に貧民街の方へと向かっていった。

 

「……怪しいのう」

 

 グレイは屋上で鬚を撫でながらしばらく様子を見ていたが、やがて屋根を伝いながらその怪しい一行を追いかけることにするのだった。

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