転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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役割分担姉妹

 スペルティアが濡れた服を着替えてまた外へ出てきた。

 そうして喜んでいる冒険者たちに近付いて、何事かを告げるのをクルムは静かに見守っていた。

 冒険者たちが喜ぶのをやめて、ピタリと動きを止め、顔をひきつらせて問い返す。

 するとスペルティアは先ほどと寸分違わず同じ口の動きをしてみせた。

 冒険者たちの顔色がサーッと青くなる。

 クルムは知っている。

 あれは死にかけの人間を無事に治したことによる、治癒魔法料金の請求である。

 冒険者たちは二度、三度、と聞き直していたが、最後には諦めて、先ほどとはまた違う形で肩を叩き合って頑張ろうと誓っているようだった。

 暴利に怒り出したりしない素直な冒険者たちで何よりである。

 

 どうやら何も問題がなさそうなことを確認したところで、バミも扉を開け放したまま自室へ引っ込んでいく。きっと仕事に忙しい中、騒がしいからと外に様子を見に来ただけなのだろう。

 

「それで、なにがあったのかしら?」

 

 ようやく息を整え終わったファンファが、仲間が復活したことに喜んでいるはずの冒険者たちに問いかける。

 

「……あ、ああ……、それが……。あ、いや、何があったのかは俺たちも分からないんだが……、急に襲われて……」

 

 気が抜けていたからか、何かを素直に白状しようとしてから、冒険者は慌てて言葉を濁す。

 怪しい行動をしていたのだから、その全てを語るわけにはいかないのだろう。

 とはいえ、彼らが王都へやってきてから何をしていたのかについて、クルムはおおかた想像がついている。

 いいタイミングで問いかけたにもかかわらず情報を聞き出せなかったファンファは、その時点で自分の役割がいったん終わりであることを悟り、クルムに目配せをした。

 ここのところ毎日のように話をしている……、正確には、クルムがファンファの話を聞いているおかげで、言葉がなくとも何が言いたいかなんとなくわかってしまう。

 一方通行ではあるけれど、たまには役に立つ場面も来るようだ。

 

「襲われた相手に関する心当たりはありますか?」

「……あんたは……?」

「私の妹ですわ」

「こ、こっちも王女殿下か……。……ん、いや、心当たりはないんだ」

 

 見た目がファンファよりも幼いので安心したのか、冒険者は冷静さを取り戻して落ち着いた受け答えを始める。

 

「置いてきてしまいましたが、一緒にいた方々は?」

「……あれは……、俺たちを雇ってた商人だ。一応行き帰りの護衛の依頼を受けてたんだが……」

「では、依頼は失敗ですね」

「いや、街中では自由だったはずだ。巻き込まれたが俺たちに護衛の義務はそもそもない。でもギルドには報告しておかないとなぁ……」

 

 急な大金の出費が控えているというのに、帰りの仕事のあてがなくなってしまった形だ。

 

「まずいな……。この街のギルドじゃ引き出せる金が足りなくて、支払いができないんじゃないのか?」

「……そもそも、王都の支払いは全部商人持ちだっただろう。宿代とかどうなる」

 

 依頼の話を出した途端、冒険者たちは現実に戻ったようだった。

 財布事情が心配で話し合いが始まってしまう。

 

「すみません、お金の話はともかく……、相手方にあてがないとなると、一緒にいて生き残ったあなた方が、商人殺しの犯人だと疑われることもあるのでは?」

「い、いやいや、そんなことして俺たちに何の得があるんだよ」

「こいつが死にかけてるんだ、まさかそんな……、なぁ?」

 

 クルムにさらに現実的な話をされて、冒険者たちは乾いた笑いを漏らしながら互いにそうならない理由を述べて安心しようとする。

 ただ、クルムはそこで話をやめるつもりはなかった。

 ファンファは、この冒険者たちが欲しいのだ。

 そして、クルム自身はこの冒険者たちからの情報が欲しい。

 

「本当に心当たりがないのなら結構ですが……。……例えば、この国の権力者が、何らかの理由で、あなた方を消そうとして差し向けられた暗殺者であったとするならば、どうでしょうか?」

 

 彼らから見れば幼くも見えるクルムの口から、ヒヤリとするような言葉が飛び出して、冒険者たちは表情をこわばらせた。

 ここに来て三人は、ようやくじっと自分たちを冷静に見つめて来るクルムの瞳に鋭い知性を見て、ただの子供ではないことに気が付く。

 

「大丈夫ですか、ここから立ち去っても。今回は緊急でしたから、こうして助けることもしましたが、次も危ない現場に居合わせられるとは限りませんが」

 

 曲解せずに十三歳の少女からの言葉としてとらえるのならば、『また襲われないか心配です』となるところだが、冒険者たちには少しばかり裏の事情がある。

 これをクルムが知っているものとしてこの言葉を考え直すのならば、意味はだいぶ違ってくる。

 現状、この冒険者たちをこのまま返した結果起こる、クルムが想定している最悪のルートは、彼らが何らかのやり方で殺された上、商人の殺人を擦り付けられる、というものだ。

 クルムは今、この冒険者たちが自分の言葉からそれを察することができるか、試しているところである。

 

「…………王女殿下は……、その……、何かこの襲撃について、心当たりとかがあるのですか……?」

 

 冒険者の中でも一番賢そうな者が、しばし悩んだ後に、探り探り、先ほどとは違った丁寧な口調でクルムに問いを投げかける。

 なるほど、どうやら頭の回る者もいるらしいと判断したクルムは、そのまま話を続けることにするのだった。

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