転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張

「本当に申し訳なく思っているか?」

「……」

 

 申し訳なく思っている、というよりは、自分が言ったことが間違っていたと感じる部分はあった、が正しい。

 それをどう伝えるべきか考える余裕があったのは、今の状況から殺されることはないであろうことが、なんとなくわかったからだ。

 頭頂部の痛みも、殴られた瞬間は火花が散るようであったが、意外なことに少しずつ収まってきている。これはもちろん、ラウンドが上手に加減をしたからであるのだが、それがまたケルンに余計な余裕を持たせた。

 

「ん? 反省しておらぬようだな……」

「いや、貴殿らが立派な戦士であることはっ」

 

 慌てて反論しようとした時には、ケルンは胸倉を掴まれ引きずられ始めていた。

 

「お前らもこい、鍛え直してやる」

 

 守るべき対象が連れていかれてしまった兵士たちは、仕方なくラウンドの言う通り後に続く。

 ラウンドはそのまま騎士団の訓練用武器が並ぶ場所までやってくると、ケルンを解放して言った。

 

「得意なものを選べ」

「ま、まさか、私にまで手合わせをさせるつもりか……!?」

 

 ラウンドは一瞬きょとんとしてから、ワハハと声を出してひとしきり笑い、それからずいっとケルンに顔を寄せた。

 

「誰がお前のようなへなちょこと手合わせなどするか。基礎訓練だ、馬鹿者。お前たちも得意な武器を取れ」

 

 ここまで来てもはや誰も逆らうこともできず、皆がそれぞれ武器を取ったところで全員が横に列を組まされることになる。

 そしてケルンの横には当然のようにラウンドが仁王立ちしていた。

 

「よし、それぞれ素振りを始めろ。自分が一番いいと思う形で素振りをしろ、それ、いち!!」

 

 ラウンドが掛け声をかけると、いつの間にか完全に復活していた〈要塞軍〉の面々が、一斉に素振りを始める。その雰囲気に流されて、貴族の私兵たちも、そしてケルンも素振りを始めたところで、ラウンドがにっかりと笑いながらスクワットを一回した。

 

「にぃ!」

 

 掛け声をかけるごとに同様の動作をする。

 少しずつテンポが速くなっていくペース。

 手を抜いた動きをすれば横で監視しているラウンドから怒声が飛んでくる。

 それはケルンに対しても、貴族の私兵に対しても同じであった。

 〈要塞軍〉の兵士たちに怒声が飛ばないのは、単純に彼らが一切気を抜かずに本気で素振りをしているからに他ならない。

 それが百を超えるあたりでケルンの呼吸は乱れ始めた。

 

 ケルンとて普段から馬鹿にされない程度には、剣を振るう訓練をしている。

 たかが素振り百回で息が乱れることなどありえないことであったが、少しでも手を抜くとラウンドから叱り飛ばされる環境では話が違った。

 そのせいで、これまでの素振りでは、途中でどれだけ気を抜いていたかがはっきりとわかってしまう。

 

 いつまでやるのだろうか。

 ケルンにそんな疑問が湧いてきたのは二百をこえた頃だった。

 腕は限界、プルプルと震え始めて、もはや手を抜く意思はなくとも最初のような素振りはできていない。

 それでもラウンドは一定のペースで掛け声を発し続けるし、誰一人として未だ途中脱落していない。

 

 三百を数えた頃には、ケルンはもはや、声に合わせて木剣を振り上げて下ろすのが精いっぱいで、とても素振りの体を為していなかった。

 それなのに未だ横並びの誰一人として脱落をしていない。

 もちろん、貴族の私兵たちもだ。

 滝のような汗を流しているが、貴族の私兵たちはまだしっかりと素振りの形を保っている。

 すなわちそれは、彼らもまた普段からそれだけの努力をしているということだ。

 ケルンは、自分もできることをできるだけ頑張って来たと考えている。

 しかし、当たり前のようにこき使っていた私兵たちが、普段からそれ以上の努力をしているであろうことを、今この瞬間に目の当たりにしていた。

 戦うことが専門の仕事とはいえ、これまで侮った気持ちがあったことを思い知らされる。

 

 四百をこえた頃には、もはやケルンが剣を振る速度は、カウントについていくのに必死であった。間に合わないとなると真横から「遅い!」とか「気合いを入れろ!」とか、「根性なしが!」とか怒声が飛んでくる。

 その都度プライドを刺激されてケルンは必死に食らいつく。

 もはやラウンドがケルン一人のためにカウントを遅くしていることにも気が付いていない。

 

 五百を数えたところで、ラウンドはようやく全体に聞こえるように声をかけた。

 

「ようし、休め!」

 

 ケルンはその場に尻もちをつくように倒れ込み、そのまま地面に仰向けに寝転がる。王族としてはあり得ない行動であったが、もう限界で、プライドも何もあったものではなかった。

 隣では私兵たちが地面に座り込んで休んでいる。

 首を更に傾けてみると、〈要塞軍〉の兵士たちは、額を拭ったりしているだけで、まだまだ余裕がありそうだった。

 

「……俺も参加してもいいだろうか」

「よし、入れ!」

 

 わざわざ自分から地獄に参加してくるのはどんな奴だろうかと思って、ケルンが声の主を見ると、そこに立っていたのはハップスであった。

 こいつは頭がおかしいんだ、と思っているうちに、騎士たちまで訓練への参加を表明し始める。彼らのうち半分は、ハップスが参加したから参加せざるを得なくなっただけであったけれど。

 

 そうして人が増えたところで、ラウンドはまた大きな声を出した。

 

「ようし、構え! 次は限界が来るまでやれ! 騎士団に負けた奴らは特別訓練だ!!」

 

 〈要塞軍〉の兵士たちの顔色も、騎士団の表情も変わる。

 ラウンドはそれを見てやはりにっかりと笑い、数を数えはじめた。

 貴族の私兵たちもそれに食らいつく中、ケルンは立ち上がることすらままならなかった。

 

 そんなケルンに対して、ラウンドはカウントとスクワットの合間に話しかける。

 

「休んでいろ。思ったよりは根性がある。だが、頑張ってんのはお前だけじゃない。見ろ、勘違いをするな。お前のこれまでの頑張りは、まだまだだ。毎日やれば強くなるぞ! しかし今日はよくやった。あとで一緒に肉を食うぞ。いいな!」

 

 ケルンは唇を噛んで、声を出さずに頷いた。

 できて当たり前の課題。できて当たり前の結果。

 失敗をさせてもらえずに育ってきたケルンが、挫折を味わい、そして生まれて初めて、自分の努力を褒められた瞬間だった。

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