転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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資料集め

 ラウンドがやってきて数日。

 予定よりも早く解体が終わり、工事への着手もはじまった。

 〈要塞軍〉がやってきて以降妨害はなく、数人の指名手配犯はラウンドが引き取り、騎士団の訓練場で鍛え上げている。

 他にも、普通の仕事にはなじめないような乱暴者を貧民街から引き取り、気付けばブルトンともそれなりに仲良くなっているのだから驚く。

 最初にぶつかってからも幾度か間を置かずに殴り合いを決行していたようで、ついにブルトンがラウンドの実力を認めて折れた形だ。まだ正式には決まっていないが、場合によってはラウンドが引き上げるのと一緒に、ブルトンも〈要塞軍〉へ入る可能性も出てきた。

 

 そうなるとクルムとしては後任を探さなければいけない分、ちょっと面倒なのだが、今更ラウンドにやっぱりやめてほしいというわけにもいかない。

 せめて出ていくときまでには、後任をしっかりと見つけてほしいものである。

 

 ラウンドがやってきたことによる変化は他にもあった。

 ケルンが数人の私兵を連れて〈要塞軍〉の訓練に顔を出すようになったのだ。

 相変わらずクルムに対しては、そっけなく、ろくに会話もしようとしないのだが、どうやらハップスとはたまに言葉を交わすこともあるらしい。

 連れている私兵も、貴族から引き抜いてきた自前の護衛であるらしく、毎日のようにともに汗を流している。

 

 そんなケルンからハップスを通して、ジグラが本格的にクルムの情報を探り始めている、という忠告が入った。いちいち面倒なので、クルムとしては直接話をしたいのだが、なかなかままならぬものである。

 ファンファには言い返すこともあるくせに、クルムに対してだけは徹底的に返事をしないのには、彼なりの理由があるのだが、それをクルムが知ることはこれから先もないだろう。

 なにせケルンの初恋の相手がクルムの母であるという情報は、本人以外だれも知らないのだから。

 

 それからまた数日が過ぎて、そろそろまた王族が集まって話し合いをする日が近づいてきた。

 貧民街周りのことに関しての理論武装をするために、クルムは久々にグレイを引き連れて王宮の資料庫へ向かう。あまり利用される場所ではないが、長いこと先生がいなかったクルムは、随分と昔からここに入り浸っており、入口を守る兵士とはすっかり顔見知りだ。

 自分の庭のような資料庫へと入って、クルムは違和感を覚えた。

 前にやってきてからそれなりに時間が空いたせいかもしれないが、資料の並びや物の配置が随分と変わってしまっている。

 クルムが入ってすぐに足を止めると、退屈そうについてきていたグレイも同様に足を止めて小声で忠告をする。

 

「部屋の中に何かおるな。まぁ、常人の脚運びではあるが」

 

 足音を消すでも隠れるでもない。

 普通に資料庫を利用している者がいるということなのだろう。

 念のため声をかけたが、グレイも警告するほどの相手ではないと考えている。

 

「早めに用事を済ませて退室します」

 

 出直しても良かったが、時間がもったいない。

 クルムはつかつかと早足で歩いて、必要な資料を取り出して、その場で開き、中身に目を通していく。

 王族の話し合いの中で、具体的な数字を突っ込まれることなどこれまであり得ぬことだったが、こちらの調査をしているというのならばまた話は別だ。万が一突っ込まれた時にいらぬ隙を見せぬためには、確認をしておいた方がいい。

 

 しばらくそうして確認をしていると、やがて足音が近づいてきて、クルムは資料を棚に戻した。何を調べていたかを知られたくもないので、そのまま少しばかり横にずれて、別の資料の背に指をかける。

 

「誰かいるなと思ったけど……、クルムか」

 

 眼鏡をかけた、ひょろりと背の高い、長髪の男が気安くクルムに声をかける。

 グレイがじろりと睨みつけると、「おっと……」とたじろいで逃げ腰になるあたり、胆力はあまりないようだ。

 

「スコラお兄様、ですか」

「誰じゃ」

「ケルンお兄様と、ハップスお兄様の間の兄です」

「パッとしない顔をしておるな」

 

 見た目は自体は整っているはずなのだが、グレイにはパッとしないように見えるらしい。

 

「既にジグラお兄様に継承者のナイフを預けていると聞きます」

「ならば敵じゃな」

「ええ、まぁ、そうなのですが……」

 

 二人して小声で言いたい放題だ。

 ただ、クルムとしてはこの兄には少しばかり思い入れがある。

 一時期、先生がいないクルムに資料庫の使い方を教えてくれたのが、このスコラという兄であったのだ。

 大物ではないが、悪人ではない、というのがクルムの印象である。

 

「折角だから向こうのテーブルに座って、少し……話をしないかな?」

「話、ですか?」

 

 ジグラとの一件があったと噂になってから、スコラはさっぱりこの資料庫に姿を現さなくなった。それどころか王宮で歩く姿すら見なくなっていたのが、今更どうしてここに現れたのか。

 クルムとしてはどうしたって警戒せざるを得ない。

 

「そう。最後に会ってから何年経つかな。積もる話もあるんじゃないかと思っているんだけど」

 

 どういうつもりなのか意図が読めない。

 ただ昔話がしたいのか、それともジグラに言われて何かを仕掛けに来たのか。

 

「わかりました。あまり時間はありませんが」

 

 どちらにせよ聞いてから判断する。

 クルムはグレイから教わっている『危ないと思った時ほど一歩踏み込め』という、よく分からない戦いの本質を語った言葉を思い出しながら、スコラの申し出を受け入れるのであった。

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