転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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スコラは様子を窺っているようだ

 スコラ王子とクルムが知り合ったのは、数年前のことだ。

 クルムの上の兄レニスが亡くなり、下の兄であるステラが必死になってあちこちを駆け回っている間に、クルムが少しでもそのサポートをするために知識を身につけようと、この資料庫に通い始めたのがそのきっかけだった。

 当然資料庫の使い方について詳しく知らずに右往左往していたところに、声をかけてきたのがスコラであった。

 

 兄と母を失ったばかりのクルムは、王宮にいるすべての人間を警戒していたけれど、今ほどは処世術もうまくなかったし、スコラと出会った時はあからさまに動揺したものだ。

 しかしスコラはそんなことは気にもせず、資料の探し方を教えてくれた。

 互いにあまり干渉することはなかったが、クルムは時折スコラに問われた質問に対して答えることがあった。

 例えば、顔色が悪い時はちゃんと食事をとっているか、とか、ちゃんと寝ているかとか。それに対してクルムが黙ってうなずいたとしても、食事をとらないことや休まないことのデメリットを延々と語るといった具合だ。

 これは多分、クルムの答えをちゃんと聞いていなかったわけではなく、単純にクルムが嘘をついていることを察して、それを警告するついでに、自分の知識を披露していた形だ。

 いわば、親切心であったのだろう。

 

 そんな関係はスコラが資料庫に顔を出さなくなるまでの数年続いたが、クルムはその間にスコラに懐くこともなかったし、スコラも必要以上に距離を詰めてくることもなかった。

 当時のスコラは、資料を探したり、クルムが学びに集中している時に声をかけてくることはほとんどなかった。

 思えば話しかけてくるときはいつも、集中力が切れてぼんやりとし始めた頃ばかりであったと、クルムは思い出す。

 

 察しの良い男であるのだ。

 そして、だからこそこのタイミングでわざわざ現れて、クルムが忙しくしている時間にもかかわらず声をかけてきたのには、理由があるとしか思えなかった。

 

「そうだな……、久しぶりだね。元気そうだ」

「そうですね、二年半は……経つでしょうか。スコラお兄様は……、ますます不健康そうな見た目になりました。ちゃんと運動していますか?」

 

 以前と比べても青白く細くなっている姿を見て、クルムは素直にそう答えた。

 

「随分とはっきり言うね。もしかして昔も不健康そうだと思っていた?」

「はい」

「あ、そう……」

 

 一応猫を被っていたので相手が気にしそうなことは言わなかったクルムであるが、今となっては遠慮する理由もない。

 そして、わざわざ言ったのには、どんな生活を送っているのだという探りを入れる意味もあった。当然スコラは答えたりしなかったけれど。

 

「聞いたよ、王位継承争いに参加したとか」

「はい」

 

 短くはっきりと答えるクルムをじっと見て、スコラは黙り込んだ。

 会話の途中としては明らかにおかしなタイミングであったが、ここまでのわずかな会話で、スコラは当時のクルムからの大きな変化に気が付いて、どう話を進めていくべきか戸惑ってしまったのだ。

 

「スコラお兄様は、ジグラお兄様の陣営についていると聞いています」

「知っていたのか」

「はい」

「僕が何を言いに来たのかもわかっている?」

「いいえ。分かっていたら話に付き合っていません」

「なるほどね……」

 

 時間がないと言っていた通り、一言一言が刃物で切り捨てるようにはっきりとしている。

 当時はもう少し警戒されていなかったと記憶していたスコラだが、今は明らかに敵対勢力に対する厳格な対応であった。

 

「ジグラ兄上と手を組まない?」

「それは、スコラお兄様からの提案ですか。それともジグラお兄様からの提案ですか?」

「どちらからとでもとってくれていい」

「ジグラお兄様からですね」

「手厳しいなぁ」

 

 ジグラは勢力下にいる者に、勝手なことをさせるほど甘くないはずだ。

 そう考えると、スコラの意志はあまり関係ない。

 

「それで、どうかな」

「条件によります」

「強気だなぁ……。クルム、今のままでヘグニ兄上に勝てると思ってる?」

 

 スコラはクルムの答えを無視して話題を変える。

 一応、クルムはその問答には付き合ってやることにした。

 

「どうでしょう。準備は整えています」

「どう考えたって、最大の敵はヘグニ兄上だ。だったら、ジグラ兄上と一時的に手を組むのは得策だと思うけど」

「どうしても私と手を組みたいようですね。答えは変わりません。条件によります」

 

 スコラは問答を続けたそうにしていたけれど、サービスは一往復まで。

 クルムはそれ以上のやり取りを続けるつもりも、情報をさらすつもりもなかった。

 

「わかった、わかったよ。……そちらの、護衛の方には席を外してもらえないかな」

 

 スコラが両手を挙げて降参のポーズを取りつつ、ちらりとクルムの隣に腰かけるガタイの良い老人、グレイを見る。

 グレイは頬杖を突きながら二人のやり取りを聞き流していたが、その言葉を聞くと腕を組んでじろりとスコラのことを値踏みした。

 物分かりが良さそうで、王族にしては話が通じそうだ。

 しかし覇気がないというか、小賢しさが鼻につくところもある。

 

 結論から言えば、グレイの感想は『なんでこんな奴に言われて儂が移動しなければならんのだ』である。

 続く言葉によっては、テーブルを蹴り飛ばしてひっくり返してやってもいいと思いつつ、グレイはつま先で床をトンと叩くのであった。

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