転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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玉座を目指すわけ

「そんなわけで、一応ファンファお姉様は冒険者たちに注意するように伝えてください」

 

 新しく仲間に加わった四人の冒険者は、あの調子だと元のように国へ戻って活動することは難しいだろう。王宮勤めになったことをよしとするか、それとも国へ帰って活動できないことを嘆くかは、これからのファンファの対応次第である。

 

「面倒なことですわね。クルムが玉座に着くまでは、あまり外へ出さずに、お部屋を守ってもらっているのが無難かしら?」

「お任せいたします」

 

 冒険者の扱いに関しては、ファンファの方が専門だ。

 クルムが口出しすべきところではないだろう。

 あれこれと迂闊に動くファンファであるが、意外と部下たちのことは大事にするタイプである。命がかかっているとあらかじめ知っていれば、慎重な判断をするはずだ。

 こうして、自分で判断できる頭がたくさんあると、方針だけ伝えて任せることができる。

 実際、兄姉が仲間に加わったことで、クルムの思考への負担は随分と軽くなった。

 その分大局を見るようになったり、思考がちょっとした横道にそれたりするのも、よくあることである。

 

 話し合いの場にいるのは、クルムとグレイに加えて、ルミネとジグ、ファンファと二人の冒険者、そしてハップスだ。

 この話し合いにはウェスカが加わっても一向にかまわないのだが、本人が恐れ多いと言って遠慮して、書類仕事を黙々とこなしている。

 実際クルム陣営には未だ、ウェスカとビアット以外に内内の仕事を頼める者がいないので助かっている。だが、最初からずっと見守ってくれているウェスカとの時間が少なくなっているのは、クルムとしても少し寂しいところであった。

 

「あまり集中できていないようだけれど、心配事?」

 

 きちんと話し合いに参加していたはずなのに、不意にルミネがクルムにそう尋ねた。

 ルミネ王女はどうにも察しが良いのだ。

 彼女が言うには、長らく人に心の中を覗かれていた経験や、夢うつつながらも【人形遣い】の心の中を逆に覗くような経験もあったことから、以前よりも随分と人の気持ちの変化に敏感になったのだとか。

 その上でルミネは、クルムが最初に感じた通り強かであり、教会の立て直しを図って次々と策を打ち出している。

 教皇が不祥事を起こしたことはどこへやら。

 最近では他国にいるはずの枢機卿まで呼び寄せて、本格的に権力固めを始めているらしい。

 何とジグはその流れで、聖騎士に認定される云々、みたいな話まで出ていた。

 とにかく動きと人心掌握の速度が尋常ではない。 

 『長く寝ているばかりだったから』と本人はのほほんと言っているけれど、そんな冗談みたいな話でこの立て直しの速度に説明がつくはずがない。

 今は彼女自身が、クルムへの恩を自覚していることと、ジグと結婚をするという目的のために動いているため、敵対する理由がないのが救いだ。

 もし初めから自由な状態で敵にまわっていたら、かなり厄介な敵になっていただろう。クルムは心の底からルミネがジグに恋をする乙女で良かったと思っている。

 

「すみません。先ほどジグラお兄様と話し合ったことで、思うことがありまして。……ジグラお兄様は、なぜ玉座を目指しているのかな、と」

 

 ウェスカのことを考えていた、というよりは無難な回答だ。

 実際口にしてみれば気になってくる。

 

「どうせ偉くなって好き勝手やりたいだけじゃろ」

 

 グレイが何も考えずに吐き捨てる。

 一応玉座を目指していた王族三人は苦笑いだ。

 もちろん誰も怒って噛みついたりはできない。

 

「私はお世話になっていた教会の方々から推されて……。それに……」

 

 王様になればジグを自由に王配にできるから、とは流石に言わないが、ちらりと向いた視線は、そう言っているようなものである。

 今となってはクルムが王になっても、それは可能だと分かって、何の憂いもなく教会勢力の掌握にいそしんでいる。

 

「ハップスはどうだったの?」

 

 しょっちゅう話をするうちに打ち解けたルミネは、半分血のつながった弟や妹に王子や王女とつけて呼ぶことをやめた。何かを企んでいない時のルミネの語り口調は柔らかく穏やかで、正に聖女という言葉が良く似合う。

 

「俺は……、レニスたちの敵討ちと、クルムを守るためだった」

「そう……、ファンファは?」

「私は自由に生きるため。たくさんの人に愛されるために、誰につくか様子を見ていただけですの。玉座を目指したことはありませんわ」

「ふふ、ファンファらしいわね」

「そうかしら……?」

 

 柔らかく笑っているからそうは見えないが、人によっては嫌味にも聞こえるような反応だ。

 

「クルムは、聞いた通り。ヘグニお兄様はそれが当然のものだと考えているとして……」

「確かにジグラお兄様の動機はわかりませんわね。素直にヘグニお兄様に従っていたほうが良いようなものですけれど」

「確かジグラ兄上は、お母上も健在だ。あり得るとすれば、その辺りが唆しているのだろうな」

「話してみた限り、簡単に唆されるような性格には思えませんでしたが……」

 

 王族四人の意見は一致だ。

 かなり若いころから策謀を巡らせて、他の王子たちをひっそりと陥れてきたジグラが、そんな簡単に人の言うことを聞くとは思えない。

 

「……どうじゃろうな」

 

 しかしグレイは先ほどとは違って、真面目な表情でぽつりとつぶやく。

 

「人というのは生まれ持った性格もあるが、存外親や育った環境の影響は大きい」

「……先生は、ジグラお兄様にも何かしらの事情があると?」

「そりゃああるじゃろ。あったところで関係ないが。戦場で殺す相手の事情などいちいち考えていられぬわ」

「それはもちろんそうですが……、そう言われるとやはり気になりますね」

 

 場合によってはそこがジグラの弱点である可能性もある。

 それとなく、情報を集めてみようかなと思うクルムであった。

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