転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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手間のかかるエルフ

 メナスはゆっくりと立ち上がろうとして、ふらりとよろけ、小屋の壁に手を突いた。

 ボロボロの外壁はそれだけでみしりと音を立てて家が少しばかり傾く。

 この様子だと強風でも吹いた日には、この家は土台だけ残してなくなってしまうことだろう。

 痺れはなくなったが、全身に力が入らない。

 相手に弱みを見せることが良いことでないと分かっているメナスは、すぐに何でもないような顔をしたが、立っているだけで全身の血液がサーッと引いていくようで気分が悪かった。

 

「……まだ毒が抜けねぇのか」

 

 グレイが眉をひそめて呟く。

 何でもないふりをしたのにばれてしまっていたらしい。

 その言葉から多少の罪悪感のようなものを感じ取ったメナスは、肩を軽く竦めてから、ゆっくりと床に腰を下ろしてため息を吐いた。

 一度座ってしまえばもう立ち上がる気力がまたなくなっていたが、それでも我慢して、平気な顔でお喋りを続けることくらいはできる。

 

「これでは商売あがったりだな」

「俺に近付いてくるのが悪い」

「……君は命を狙われているのかい?」

「そうらしいな」

 

 まるで他人事のように答えて、グレイは立ち上がる。

 

「ここは好きに使え。二度と俺に付きまとうな」

「待て待て、どこへ行く」

 

 そのままどこかへ消えていきそうだ。

 逃がしてなるものかとメナスは声をかける。

 

「お前に関係ねぇだろうが」

「大いにある。私が完全復活する前に、また襲撃されたらどうするのだ」

 

 グレイは振り返ってぎろりとメナスを睨みつける。

 

「知るか、自業自得だろうが」

「確かに、自業自得だ。その通りだ」

「馬鹿かお前」

 

 メナスが大きく頷いて同意すると、グレイは頭の中に浮かんできた言葉をそのまま口にする。だったらやはり、グレイがここにとどまる理由など一つもない。

 呼び止めておいてあっさりと頷くメナスの反応は、馬鹿を通り越して気持ちが悪いくらいだった。

 

「私が死ぬのは、私の責任だ。だが、私が死んだと知れば、君はきっと嫌な思いをするだろうな。だからもう少しだけでいいから世話をしてもらいたい」

「知ったような口をきくな」

「知ったような、ではない。知っているんだ。そうならない奴は、私のような美女が体が動かなくなって路地裏で倒れているのを見た時、何かしらに利用することしか考えないはずだ」

「自分のことを美女とか言い出す頭のおかしい奴と関わりたくなかっただけだ」

「嘘だね。それなら見ないふりをして立ち去ればよかった。君は、私を自分の事情に巻き込んでしまったと勝手に責任を感じて、あの場にとどまっていた。もし君が今、私のことを見捨ててどこかへ行ったとしよう。そして万が一私が君を追いかける者に利用されたり、襲撃されて死ぬようなことがあったとしよう。きっと君は、この先どんなに楽しいことがあっても、ふとした時にそれを思い出して……」

 

 グレイは勝手に自分の気持ちを想像して勝手に話を進めるメナスの言葉に腹が立って、扉を勢いよく開けて乱暴に閉めた。

 相手にしていられない。

 このまま別の街へ旅立つつもりである。

 おそらく不意打ちで毒を食らったというのに、それなりの腕を持つ暗殺者を返り討ちにできるだけの腕前があるのだ。放っといても滅多なことでは死なないことは分かっている。

 

 グレイが数歩進んだところで、小屋がみしみしと音を立てた。

 一応加減をしたつもりだったが、先ほどの扉を閉めた勢いで腐った柱がかしいだ可能性があった。

 足を止め振り返るが、メナスが中から出てくる気配はなかった。

 グレイは舌打ちをして足を止めた。

 助けに行くのは先ほどの話を肯定しているようで気分が悪い。

 それなりに腕のある冒険者であるなら、こんなぼろ小屋の下敷きになったくらいでは死なぬはずだ。致命傷を避けることくらいは容易いだろう。

 

 歪みに耐えられなくなった壁がまた音を立てて、ついに家がひしゃげて崩れた。

 崩れると言っても一気に崩壊するというよりは、ゆっくりとひしゃげて潰れていくような動きであった。

 完全に家がつぶれてしまったが、中からメナスが出てくる気配はない。

 

 腕を組んで様子を見ていたグレイであったが、三十秒、一分と経ったところで、また舌打ちをしてついに動き出して、崩壊した家のメナスがいたあたりを掘り返し始めた。

 大きな木材をどけて、数秒でメナスの顔が見えるようになる。

 

「馬鹿なことしてんじゃねぇよ、逃げられただろ」

「いやぁ、それがね、君が思っているより体が動かないんだ。申し訳ないけれど引っ張り出してもらえないか」

 

 声には先ほどよりも随分と力がない。

 そこでグレイはようやく気が付く。

 

「……お前、さっき立ち上がった時、本当はめちゃくちゃ調子が悪いの隠したか?」

「あまり心配をかけても悪いと思ってね。なに、あと数日くらいすれば普通に動けるようになると思うんだ。だからもう少しだけでいいから世話をしてほしいと恥を忍んで頼んだのだけれど、怒らせてしまったようだ。すまなかった」

 

 メナスはただ気を引くために言っていたわけではなく、合理的な判断の下グレイにもう少し世話をしろと頼んでいたわけである。

 

「糞が、めんどくせぇ……。もう少しわかりやすく話せ、賢ぶりやがって」

 

 グレイはぶつぶつと文句を言うと、崩れた家の下からメナスを引っ張り出し、昨晩同様傍らに抱え込んで、また別の拠点へと移動していくのであった。

 

 




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グレイの昔話書いてると楽しくてずっと書いちゃいそうなので、早めに現代に戻さねば
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