転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ばれた

 グレイはメナスが完全に治ったことを確認してから、通常の冒険者に戻った。

 メナスと共に旅をした時間が、荒んでいたグレイの心を多少癒したおかげで、以前ほど裏社会にのめり込んだり、酒浸りになることはなくなった。

 ただ、拠点を決めて落ち着いて活動を始めて数年が経つと、また少しずつ暗殺者が送り込まれるようになってきた。旅をしている間は居場所が分からなかったせいで襲われることはなかっただけだったのだ。

 

 そうなるとまたメナスが周囲をうろついているのが邪魔になってくる。

 グレイの思う邪魔というのは、そのままの意味ではなく、また以前のように自分を狙ってくる暗殺者に利用されそうになり、大けがをしたり死んだりしては面倒だという意味だ。

 

 グレイは似たようなことを口汚くメナスに伝え、メナスは正確にその言葉の真意を受け取り、言うことを聞かなかった。

 結果、グレイはメナスの前から勝手に姿を消した。

 

 メナスが再びグレイを見つけ出したのは、それからまた十年近くたったある日のことだった。

 偶然ではない。

 メナスは各地を巡るような依頼を受けて、しつこくグレイを探し続けていたのだ。

 相棒として活動していたつもりが実力を信用されず、勝手にいなくなったことが許せなかったからだ。

 どうせ派手な動きをしているから見つけるのは簡単だろうと思っていたのだが、グレイは冒険者としての活動スタイルを、これまでのように直接戦うものではなく、味方に魔法をかけつつ、時折魔法を使うものに変更していた。

 グレイの腕はそれでも一流であった。

 

 それだけならばまだ見つけられそうなものであるが、メナスは昔から有名な冒険者だ。エルフの冒険者の噂を聞くと、グレイはこっそりと姿を隠した。

 冒険者ギルドには、もしメナスに聞かれることがあったとしても、グレイという男が貧相な魔法使いだと伝えるように脅しておいた。

 だからメナスは数度グレイが拠点にしている街を素通りし、何度目かの往復の時に、ついにおかしいぞと気が付いたのである。

 

 魔法ばかり使っているグレイであったが、暗殺者に備えるため、そしてもはや習慣として、体を鍛えることは怠らなかった。時折拳が錆びぬように、一人で遠出して山籠もりをするようなこともあった。

 メナスがまたやってくるらしいと情報を聞いたグレイは、丁度いいと二カ月ほど街をあけて山籠もりをしたのだ。

 そして、帰ってきたその日に、街の入り口でメナスに見つかった。

 メナスは、それはもうめちゃくちゃに怒っていたし、グレイは自分に悪い部分があることは分かっていたから、憎まれ口をたたきながらもそれを受け入れた。

 その頃には暗殺者が来ることは滅多になくなっていたし、もういいかと、そこから二十年ほど腐れ縁で文句を言い合いながら一緒に活動していた、というのがグレイとメナスの大まかな関係性である。

 

 さて、そして今、グレイはおよそ二十年ぶりにメナスと再会して『まさかお前、グレイなのか……?』と言われているわけである。

 

「……儂は通りがかりの爺じゃ。エルフの婆の知り合いなどおらん」

「グレイだな。私のことを婆呼ばわりするのはグレイしかいない」

 

 もちろんグレイも、ばれているのを諦めた上での発言である。

 フードを外してため息を吐く。

 

「なぜお主がこんなところに居るのだ」

「それはこちらの台詞だ! ハルシ王国だけは死んでも行かない、行くくらいなら国王も貴族も皆殺しにすると言っていたのはグレイだろうが!! 方々捜したんだぞ!」

 

 いかにも言いそうなセリフに、隣でクルムはなるほどと頷き、確かにグレイの昔からの知り合いなのだろうとメナスを認めた。

 

「政変が起きていないからハルシ王国にだけは来ていないと思っていたのに……」

 

 グレイに対する認識もちゃんと正しい。

 長く共に過ごしていただけのことはある。

 

「別に儂が昔懐かしんでもいいじゃろが」

「年寄りみたいなことを言って」

「年寄りじゃが?」

「……言われてみれば……、随分と年を取ったな……」

 

 メナスは改めてグレイの顔を見て、しみじみと呟く。

 青年の時分から知っている顔にすっかり皺ができて、鬚まで白くなっているのを見ると感慨深いものがある。

 それからちらりとローブに隠れた体つきを見て首をかしげる。

 

「お前は出会った時から婆じゃったがな」

「うるさい。……グレイ、普通人は年を取ると体が縮むものではないのか?」

「そうじゃな。すっかり衰えた」

「…………衰えているように見えないのだが」

「いや、体力が落ちた。すっかり爺じゃ」

「そうか……、グレイがそう言うなら、そうなのか……?」

 

 メナスがじろじろとグレイを観察しながら更に首をかしげる。

 どう見ても昔と変わらぬ立派な体つきをしていた。

 

「…………スペルティア様、まさか昔エルフの森に助けに来たというのは……」

「グレイとバミと他二人」

「グレイ! 私はその話をしたことがあっただろう。なぜその時に……」

「あー、うるさいうるさい、やかましい。大きな声を出すでない」

 

 メナスがグレイの顔に指を突き付けてくどくどと文句を言うが、グレイは耳を塞いで首を振るばかりだ。

 二人のそんなやり取りを、バミとスペルティアは懐かしく、クルムは珍しいものを見るように眺めるのであった。

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