転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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メナスのお話し~グレイの失踪第一弾まで

「毒が完全に抜けて暫くして……、グレイが唐突に姿をくらました。時折何か考えているのには気づいていたのだが、置いて行かれたと分かった時には酷く落ち込んだのを覚えている」

「……一緒に活動していたのに、何も言わずに姿をくらますのは酷いのではないでしょうか」

 

 メナスの視点からの、厳しくも楽しい冒険譚を聞かされてきたせいで、クルムはグレイが突然姿をくらましたことに対して強い不義理を感じていた。

 思わずグレイを責めるような文句も口をついて出てしまうというものだ。

 

 それに対してメナスは、ハッと何かに気づいたように苦笑する。

 

「いや、確かに私もその時はグレイを責めた。すぐに行方を追いかけたが見つけられず、目撃情報もなく、そこまで徹底的に私から離れたかったのかと腹も立った」

 

 そりゃあそうだろうとクルムが頷くと、メナスは首を横に振った。

 

「だが違うのだ。一年半、私という足手まといを連れて旅をしたグレイの技が磨かれ続けたのに対して、まともに体を使っていなかった私の腕は、完全に鈍りきっていた。つまるところ私は……、怪我を治してもらった上に、当たり前のような顔をしてグレイの足を引っ張り続けていたのだ」

 

 クルムはメナスのその言葉に少しばかり疑問を覚える。

 グレイは確かに他人に対して冷たいけれど、懐に入れた相手に対しては、毒を吐きながらも情が深いタイプと理解していたからだ。

 足を引っ張るから邪魔になって捨てる。

 グレイがそんな人間であるのならば、クルムなどとっくに見捨てられているはずだ。

 

「先生は……、若い時は今より薄情だったのでしょうか?」

「あ、いや、また勘違いをさせてしまったな。安心するといい。クルム王女が、グレイをそれほど薄情な人間でない、と認識しているのならばそれは間違っていないし、かつても変わらずそうであった」

 

 語るうちにメナスの言葉遣いは、冒険者らしく緩くなっており、クルムのことも『王女殿下』ではなく『クルム王女』とだけ言うようになっていた。

 クルムもメナスも、お互いにそれを気にしないくらいには話に夢中だ。

 

「先ほどの考えはあくまで、しばらくグレイを探しても、見つけることのできなかった私の勝手な反省だ。おそらくグレイは、私が弱かったから邪魔になって置いていったのではない。いや、弱かったから置いて行かれたことには違いないのだが……、うーむ……」

 

 メナスはしばし言葉を選ぶように勝手に悩んでから、ポンと手を叩いた。

 

「そう、私の毒が抜けて、ある街に定住するようになったのだ。しばらくそうしていると、またグレイを狙った暗殺者がちらほらとやってくるようになった。もちろんグレイの相手にはならなかったが、グレイはその度、何かを考えているようだった。私はその時てっきり、グレイが国を思って思い悩んでいると勘違いしていたのだ。だがあれは、そうではなかったのだ」

 

 普段なら相手の言葉を先読みして、悠然とした姿勢を崩さないクルムが、今は体を前のめりにしてメナスの次の言葉を待っている。

 

「あれはな……、私が弱いから、また巻き込まれやしないかと危惧していたのだ。襲ってくる暗殺者と、私のその時の実力を比べていたのだと思う。だからグレイは、私の体が十分に動くことを確認した時点で、姿をくらました」

「ああ……、あり得そうな話です」

「だろう?」

 

 互いにグレイを近くで見てきた者同士、理解し合えるものがあった。

 もし本人が近くにいれば、そんな理由ではないとごちゃごちゃうるさいことを言ってきて、こんなにまともに話を聞くことはできなかったであろう。

 こんな話は本人のいない間にしかできない。

 

「だから私は技を鍛え直しながらグレイを探して旅をした。グレイが本気で私を疎ましく思っているわけでないのなら、私は奴を探さなければならなかった。私がそうしなければ、グレイは誰とも付き合いを持たず、生涯孤独に生きていくのだろうと思った。幾度も幾度も命を助けられた恩人に、そんな寂しい人生を送らせるわけにはいかないだろう」

 

 メナスはその感情を一言で説明できる本当の名前を知っていたが、口にしなかった。

 クルムはその感情にもっと何か、他にいい言葉があるんじゃないかとなんとなく思ったけれど、確信が持てず口にしなかった。

 

「ただ、すぐに見つけたところでグレイはきっと逃げ出すと思った。だからグレイが逃げなくともいいように、戦いの勘を取り戻しながら、技を磨きながらグレイを探した。随分と長い時間がかかった。グレイはきっと、私を置いてどこかへ消えたことに、どこか罪悪感を抱いているだろうと思っていた。だから私は、再会できた時には、目いっぱい罵ってやろうと思っていた。グレイの優しさなんかには気づかなかったことにして、図々しく、偉そうに、よくも置いて行ってくれたなと」

 

 クルムは、そこまで執着できる相手を生涯見つけられる自信がなかった。

 ただ、メナスの気持ちがなんだかすごく綺麗なものに思えて、少しだけ羨ましくなった。

 

「少しばかり時間はかかってしまったが、私はグレイを見つけることができた。練習したほどグレイのことをうまく罵ることはできなかったが、少なくともそれから二十年と少し、グレイは一人ではなかったはずだ。…………だからこそ、また何も言わず姿をくらましたことに関しては、かなり腹に据えかねているのだが」

 

 思い出して腹が立ったのか、メナスは整った眉の間に皺を寄せ、テーブルに頬杖をつくのであった。

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