転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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未だわからないこと

「しかしな、私は実のところ、その試練の塔の中でのやり取りをよく知らんのだ。グレイは老錬金術師を一人連れて戻ってきたかと思うと、そのままどこかへ行ってしまった。その老錬金術師はウィクトの具合を確かめると、私たちを連れて塔の中へ戻った。しばらくしてグレイが戻ってくると、ウィクトへの投薬が始まった。口から飲み込むようなものではなく、何か体に針を刺して、そこから液体を体に流し込む、見たことのない治療だった」

 

 錬金術師というのは、とにかく倫理観はぶっ飛んでいるし、研究のためなら他のことはどうでもいいというような人間の集まりであると、クルムは認知している。

 魔法ではない。

 しかし魔法のような結果をもたらす方法を探しているような連中なのだ。

 

「ウィクトの具合は日に日に良くなっていった。ウィクトの意識が戻ってしばらくしたころ、グレイは姿を消した。足りないものを取ってくる、と言ってふらりと出ていって、それ以来戻ってこなかった」

「……え?」

 

 話が急に途切れてしまい、クルムは思わず声を上げた。

 あまりに唐突過ぎる尻切れだ。

 これではグレイがなぜ姿をくらましたのかさっぱりわからない。

 だからこそメナスも困っていたわけだが、せめてもう少し何かヒントになるものが欲しかった。

 

「なにか……、そこで変わったことはありませんでしたか?」

「そうだな……」

 

 メナスは昔のことを思い返すために目を細めた。

 詳細に語っているけれど、今の話が起こったのはもう二十年以上前。

 何度も思い出してヒントを探ろうとし、どれもぴんとこなかった話ばかりなのだ。

 

「……後から、グレイが大金と薬のために必要な様々な素材を提供したことを知った。それから……、治療にあたっていた老錬金術師は、ウィクトが完全に治る頃、老衰で命を落とした」

 

 まだパズルを完成させるためのピースが足りない気がして、クルムは口元に指をあてて悩む。

 その様子を見たメナスも、何かヒントになるものはないか、と考えて更なる情報を絞り出す。

 

「……塔の上には私たちの他にももう一人、同じ治療を受けている子供がいた。おそらくあの子のために、私たちは皇竜の血を取りに行くことになったのだろうと思う。ウィクトの治療が終わった後、試練の塔の工事が行われていた。……ギルドへ戻ってから……、ギルド長にグレイはどうしたかと聞かれたな。何やら少し前から、グレイにギルド長を譲ろうと考えていたらしい。結局もう数年粘ってもらって、ウィクトが若くしてギルド長となったわけだが……」

「……その辺りでしょうか」

「というと?」

「ギルド長になるつもりはなかった」

「それは私も考えた。しかし、それだけで姿をくらますとは思えない」

「私も、そう思います。何か、情報が足りていないような気がします」

 

 二人はそろってしばらく頭を悩ませていたが、結局答えは出なかった。

 どこまで行っても推論でしかないし、結局本人の口から聞かないと分からない情報がいくつかある。

 

「しばらく、先生から情報を集めてみないと分かりませんね」

「それとなくな。直接聞くと余計に意固地になって答えないぞ」

「はい、よくよく承知しています」

 

 クルムとメナスは目を合わせると、どちらからともなく手を差し出してガシリと握った。

 あの頑固なグレイが、何を考え、どうして姿をくらませて王都へ潜り込んでいたのか。それを探るための同盟であり、新旧グレイの相棒として互いを認めたような形である。

 二人ともグレイ同様頑固な部分はあるのだが、この関係においてはその部分が一切発揮されなかったようだ。

 

「もうすっかり遅くなってしまいました」

「随分と長居してしまった。クルム王女は聞き上手だな」

 

 こんな楽しい話ならばいくらでも聞いていたいくらいだ。

 ファンファのお喋りと比べると、圧倒的に中身の濃い楽しい時間であった。

 今の正確な時刻はわからないが、少なくとも夕食の時間はとうに過ぎている。

 なぜなら途中でウェスカに声をかけられて、食事を部屋に運んでもらって、メナスと一緒に食べているからだ。

 

「お部屋を用意しましょう」

「何から何まで世話をかける。さて、それならばもう少しだけ時間を貰えるだろうか?」

「はい、何でしょう?」

「今度は、クルム王女の知っているグレイの話を聞かせてほしい。グレイに何があってこの国を離れたのか。そしてクルム王女と知り合って何をしたのか。私はグレイがハルシ王国の出身で、国へ帰ることをひどく嫌がっていることや、王侯貴族を毛嫌いしていること。そして日々暗殺者が送られてきていたことしか知らない。グレイは……、確かに人によっては嫌われるような性格をしているが、筋の通らないことをする男ではない。この国で何があったのか、グレイは何も教えてくれなかった。これからもきっと教えてくれないだろう。だから、知っていることだけでいい。教えてもらえないだろうか?」

 

 クルムが知っていることは少ない。

 付き合いだってメナスと比べれば随分と短いだろう。

 それでも、王国という、グレイが若き日を過ごした場所で、ほぼ常に一緒に時間を過ごしてきた。

 だからこそ、メナスの知らないことだって知っている。

 

「わかりました。私も全てを知っているわけではありませんが……」

 

 語り手が変わる。

 まだまだ夜は長い。

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