転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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三人の老人

 貧民街付近の悪漢共が話にならないとなると、次に向かうのは荒くれ者が多い冒険者たちがたむろすエリアだ。

 先日ちょろっと顔を出してしまったので、もしかすると色々と知られているかもしれないけれど、それまではグレイも姿を見せることはなかった。

 いきのいい馬鹿がいるかもしれないと、グレイはラウンドを連れたまま、ちょっと楽しみにしながら街をぶらつく。

 

 そろそろ冒険者が増えて来るあたりに辿り着いたところだった。

 

「お、グレイ。今日は一人……、いや、何やら強そうなのを連れているな」

 

 グレイはその声を無視して歩いて行こうとする。

 何せこの人物を連れて歩いたら、悪人が絡んでこなくなる可能性が高いからだ。

 しかしそれもむなしく、声の主はすぐにグレイを追いかけてきて肩をポンと叩いた。

 

「耳が遠くなったのか?」

「……お主は全く、はぁ、これだから」

「声をかけて早々なんだ、その失礼な態度は」

 

 メナスである。

 グレイに何を言われようとへこたれないし、一切引くことがないと決まっているエルフの美女であり、冒険者である。

 

「それで、こちらの丈夫そうなのは誰なんだ?」

「ああ、こいつはラウンド……。……そういえばメナス。〈リガルド〉の冒険者ギルドの話は聞いているんだったな」

「ああ、冒険者を募集してるやつだな。あれは良いな。次代の強い冒険者を育てるのに適している。王都の話が片付いたら一緒に〈リガルド〉で冒険者をやり直さないか?」

 

 キラキラとした目でそんな提案をしてくるメナス。

 冗談ではなく本気で提案しているのだろう。

 

「お主、儂がいくつだと思っておるんじゃ」

「なんだ、グレイは年を言い訳に逃げるのか」

「ぶち殺すぞ」

「逃げをうつグレイなんか怖くない」

「お主と違って儂は忙しいんじゃ。暇になったら相手してやるからそれで我慢せい」

「……言ったな? それなら早く暇になってもらわねばな」

 

 当たり前のように横並びで歩き出すメナス。

 なんと三人の平均年齢が百を超えた瞬間である。

 

「話を戻すぞ。こいつがその〈リガルド〉の領主だ」

「ラウンドだ。〈要塞軍〉の大将をしている」

 

 世間からすれば辺境伯であるラウンドであるが、本人の自認はあくまで〈要塞軍〉の大将である。きっとこの男は死ぬまで現場に立ち続けるのだろう。

 

「ほう……。私は冒険者のメナスだ」

「メナスか。聞いたことがあるぞ……、腕のいい冒険者の名前をリゾルデが何人か挙げた中にいたような……」

「リゾルデ?」

「ああ、俺の頭脳だ。細かいことは全部任せてる」

「ははっ、いかにも体全てが筋肉でできていそうだものな! グレイよりも大きい老人を見るのは初めてだ」

「ふはは、そうだろそうだろ!」

 

 メナスは腕を伸ばしてラウンドの背中をバシバシと叩いて称賛した。

 普通の貴族に言ったら舐めてるのかと思われるような言葉であるが、ラウンドからすれば称賛である。

 間にグレイを挟んで、快活かつやや知能が低そうな会話が繰り広げられ、グレイはうんざりしつつ、どこか懐かしいと思いながら道の真ん中を歩いていた。

 冒険者たちの会話なんてみんなこんなものだ。

 特にメナスは、するりと人の懐に入り込むことが上手い。

 一緒に活動すると、大概他の冒険者たちはグレイのことなど気にしなくなって、メナスの気を引くことばかり考えるようになるのだ。

 ある意味、冒険者時代のグレイが目立ち過ぎなかったのはそんなメナスの気質のおかげであったのかもしれないし、メナスがグレイと活動する時には、特にそれを意識してやっていたことを、グレイはなんとなく気付いていた。

 

 メナスが一緒にいるお陰で冒険者たちがうろつく辺りでも、すっかり、まったくもって人が寄り付かず、皆道を空けて通らせてくれる。

 せっかくの休みなのに平和過ぎると思いつつ、三人で馬鹿な話をしながら歩いていると、冒険者ギルドにいつもよりたくさん人が集まっているのが見えてきた。

 まだ酒を飲むような時間ではない。

 

「なんだろうな?」

 

 特にギルドと縁の深いはずのメナスが呟く。

 どうやらメナスが認知しているイベントごとがあるわけではないらしい。

 

「寄ってみるか」

「そうじゃな」

 

 三人そろってふらふらと吸い寄せられるようにギルドに近付いていくと、名も知らぬ冒険者が「あ、メナスさん!」と声をかけて来る。鼻の下をでれっと伸ばしていることから、メナスの美貌にやられた若者なのだろう。

 おそらく百歳以上の年の差があるはずだ。

 ついでにグレイは、メナスが若い冒険者を恋愛的な意味で相手しているのを見たことがない。

 グレイは『哀れな』と思いつつ、黙ってやり取りを見守る。

 

 しかしメナスの横に二人の巨漢爺を発見した若者は、「あ……」と蚊の鳴くような声を漏らして目を泳がせ始めてしまった。

 脅かしたわけじゃないのだが、見た目の時点で怖いので仕方がないだろう。

 

「何かあったのか?」

 

 内緒話をするように顔を近寄せるメナスに、若者は再度元気を取り戻した。

 ある意味長生きしそうな現金な男である。

 もちろんメナスの方では特に何を意識したわけではない。

 他人との距離が自然と近いタイプなのだ。

 

「じ、実はですね、ここ二十年ほどでめちゃくちゃ名前を挙げている、あの謎多き伝説の冒険者が来ているんですよ。ギルドに来て早々、ウィクトさんがいないか確認して、来るまで待つって言ってカウンターでずっと座っているんです」

「ほう……、来るとは聞いていたが今日だったのか」

「そうなんですよ! それで他の奴らが、これまでの功績を色々聞いているんですが、自慢するわけでもなく、『そんなこともあったな』『そうかもしれん』みたいに、渋く躱してて、かっけーんです。顔なんかも傷だらけで、渋い男って感じで……!」

 

 話している間に若い冒険者も大興奮だ。

 しかしそこまで盛り上げられると、グレイもラウンドもちょっと興味が湧いてくる。もちろん、元から話を聞いていたメナスもだ。

 

「よし、ちょっと面を拝んでやろう」

「うむ、そうじゃな」

「では私も。情報感謝する」

 

 ずんずんとラウンドが歩き出したところで、グレイとメナスも後に続く。

 妙な老人三人衆が、伝説の冒険者と間もなく接触しようとしていた。

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