転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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伝説の冒険者グロウバウゼン

「ふむ、微妙じゃな」

「そうだな、ぼちぼちだ」

「うん、まぁ、それなりだろうな」

 

 上からグレイ、ラウンド、メナスである。

 全員が全員、相当な上澄みであるから、彼らから一目でこれだけの評価を得られたのならば、それなりに強いのであろうことは間違いない。

 実際体は鍛えられているように見えるし、武器も装備も華美なものをつけていないけれど、それなりに使い込まれている。

 いっぱしの冒険者。

 それが評価として妥当なところである。

 

 ただ噂に聞いた魔物や大山賊を退治するような、超凄腕冒険者としては、明らかに腕は足りない。

 遠目から見れば何となく風格はある。

 体は鍛えられているし、傷だらけ。

 周囲を冒険者に囲まれていても、調子に乗っている様子はなく、淡々と言葉を交わしているだけだ。

 それっぽい。

 それっぽさはある。

 

「あれ、グレイさんに、メナスさん。それに……ご友人ですか?」

 

 遠くから首をかしげながら観察をしている三人の背中に、ウィクトが声をかける。

 まず背中からみて、グレイよりも巨大なラウンドに驚いたウィクトだったが、『まぁ、グレイの知り合いなら』と受け入れてのことだ。

 

「ああ、王都に住んでた頃のな」

「ラウンドだ。〈要塞軍〉の大将をしている」

 

 振り返って差し出された拳はごつごつしていて巨大で、ウィクトほどの実力者であれば、それを見るだけでラウンドの生き様やその強さをありありと感じることができた。

 

「ゼルト商国支部長兼、冒険者ギルド総長をしております、ウィクトと申します。……先日〈リガルド〉で募集をされていた、ラウンド様でしたか。王都にいらっしゃるのでしたら、今後お時間をいただいて」

「無理じゃ」

「いや、俺に言われてもな」

「はい?」

 

 ウィクトのまともな提案をグレイが即座に否定し、なぜか張本人までそれに便乗した。ウィクトの困惑の返答は正当なものだろう。

 

「俺は実行して責任を取る役。頭を使うのはリゾルデって奴の仕事だ」

「リゾルデ様はいらっしゃらないのですか?」

「留守番させている」

 

 ウィクトはラウンドの曇りのない瞳を見上げてから、しばし目をそらして考えてから頷いた。

 

「そうですか。なら予定通り、〈万年祭〉が落ち着いたころに、直接〈リガルド〉を訪問させていただきます」

 

 あんなでかい組織でそんなことがあり得るのだろうかと考えた結果、まぁ、グレイの知り合いならと納得。そして、ここで疑って話を止めても何も意味がないという、合理的な判断を下した。

 

「悪いな!」

「いえいえ」

 

 この圧倒的な適応力こそがウィクトの真骨頂なのだろう。

 ニコニコと笑顔のまま、ラウンドのよくわからない言動を乗り切ってみせた。

 

「それで、皆さんは何でこんなところで立ち止まっていたんです?」

「ああ、あちらに噂の伝説の冒険者が来ていてな」

「へぇ」

 

 それほど背の高くないウィクトは、背伸びをして冒険者たちの囲いを覗き込もうとしたが、噂の伝説の冒険者の顔がちらりと見えただけだった。

 

「うーん、私のお客さんですから声をかけてきます。皆さんも良かったら一緒に。すみません、ちょっと失礼」

 

 ウィクトが声をかけると、囲いの冒険者たちは面倒くさそうに振り返る。

 ただ、そこにいる人物に気付いた瞬間、慌てて道を空けた。

 数日ギルドに滞在していたおかげで、ここの冒険者たちはすっかりウィクトの存在を認知しているようだ。

 

 道が開きウィクトと対面した伝説の冒険者は、その噂に対しては意外なことに、きちんと立ち上がってウィクトと対面した。

 グレイより少しばかり背は低いが、どっしりとした下半身に重量感がある体つきは、男の安定感を示しているようでもあった。

 顎が広く、首は太く、地面にどんと鎮座したような形の頭部。

 その口は真一文字に結ばれ、眉間には深いしわが寄っていた。

 男を一言で述べるのならば、強そう、である。 

 

「やぁ、私はウィクト。君がグロウバウゼンさんかな?」

 

 男が重々しく、こくりと頷く。

 

「君の噂はかねがね聞いていたよ。連絡を貰って、会えるのを楽しみにしていたんだ。とりあえず奥で話をしよう。ああ、そうだ、実は同席してもらいたい人がいるのだけれどいいかな? あそこにいる三人なのだけれど」

 

 ウィクトがそう言ってグレイたちの方を示すと、グロウバウゼンは「いや、それは……」と呟きながらグレイたちを見る。

 そしてそのままかちりと固まって動かなくなった。

 

「ええと、一応身分ははっきりしている人だよ。二人は私と冒険者パーティを組んでいた、いわば師匠のような人たちであるし、もう一人はこの国の辺境伯であるラウンド様だ。まずければ、私の方からちゃんと話をしておくけれど」

 

 通常ならば断れる相手ではないが、ウィクトの話ならばグレイたちだって納得する。

 

「………………いや、構わない」

 

 男は今にもグレイに喧嘩を売るのではないかというほど、険しい表情をしていたが、長い沈黙の後に、何かを決断するように同席を許可した。

 二人が奥の部屋へと入っていくのを追いかけて、グレイたちも当たり前のように冒険者たちが開けた道を通って部屋へと向かう。

 

 部屋へと入りグレイが見たものは、床に額をこすりつけた姿勢のまま固まっているグロウバウゼンと、困惑するウィクトであった。

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