転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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用事は大体終わり

「いらんというとるじゃろうが! 捨てたものをごちゃごちゃ後から寄越せなんて恥知らずなこと言うわけなかろう!」

「俺のものでも、ないです!」

 

 二人のきりがないやり取りに、ウィクトが間に入って両者の手のひらを見せた。

 

「えー、とりあえずギルドでお預かりしておくので、どちらも必要になったら引き出すということで。そのように手続しておきますので」

「ふん」

 

 グレイが腕を組んで鼻を鳴らし、グロウバウゼンがこくりと頷いた。

 どうせどっちも引かないのだから、冒険者ギルドの方で一時的に預かってしまうのが正解だ。

 どちらも別に、相手のことが嫌いだから争っているわけではない。

 

「えー、事情は分かりました。それで、私に会おうと思ってくれた理由は?」

「この街のギルドの人も、騎士も、俺の話を聞いてくれない。偉い奴に言おうと思った」

 

 おそらく生活のためにギルドに依頼を受けに来た時にでも、冒険者ギルドに偉い人がやってくると聞いたのだろう。

 それで、あらかじめギルドに伝言を頼んでやってくることに決めたに違いない。

 普通ならば一冒険者がウィクトにつないでもらうことなんてできないだろうが、何せ勘違いのおかげでグロウバウゼンは大冒険者の一人である。

 グロウバウゼンからすれば、ただ目的を告げただけだったのが、ギルド側からすれば、珍しくグロウバウゼンからギルドに頼みごとをされたという形だ。断るはずもなく、ウィクトまで繋いだというわけである。

 

「なるほど……。でも当時からここの支部長も、騎士の人たちも、代替わりしてるんじゃないかなぁ」

「知らない」

 

 グロウバウゼンの状況が形成されたのは、二十年から十数年前の話だ。

 騎士のことはともかく、ギルドの支部長はもう代わっている。

 ウィクトは嫌いではなかったが、当時は頑固な爺さんが王都の支部長をしていた。

 だが、今はウィクトと同年代の支部長が、青白い顔をしながら仕事に忙殺されているはずだ。

 しかしまぁ、グロウバウゼンの性格と生活を考えれば、知らないのも当然だろう。

 

「知らないかぁ。そうだよね、外で暮らしてたら知らないか」

 

 グロウバウゼンの端的な回答は分かりやすく、納得のいくものだった。

 本当にそれしか用事はなかったに違いない。

 

「じゃあ、他に話したい事とかは?」

「ない」

「そうだよね」

 

 つまり、お金を預かってもらえて、事情を説明できて、そしてついでにグレイ本人まで発見できたのだから、グロウバウゼンの人生における問題の大半は解決した形になる。

 

「事情は分かった。今の支部長にもそれは伝えておくよ。でも、グロウバウゼンさんには、今までと同じように過ごしてほしい。わざわざ手柄が君のものでなかったと発表すると、口さがのない者が、君の生活を脅かすようになるだろうから」

「しかし師匠がやったことだ」

「うん、でもグレイさんは、それが公表されたところで喜ばないよ。むしろ君がやったことにしておいてくれた方が都合がいい」

 

 勝手に話を進められたことに、グレイは眉を片方だけ上げて不快感を示したが、しかしウィクトの言っていることは、見事にグレイの内心を見抜いているので文句のつけようがない。

 

「そう……なのか」

「そうだよ。だから君はこれからも変わらぬ生活をすればいい」

「……困る」

 

 話がまとまりそうだと思ったところで、グロウバウゼンはおにぎりのような形の顔に盛大に皺を寄せて怖い顔になった。怒った顔ではない、困った顔である。

 

「ええと、何が困るのかな?」

「師匠に、戦い方を教わりたい」

「あー……、なるほど。だそうです、グレイさん」

 

 ここまで行くと流石のウィクトでも、綺麗に取りまとめることは難しい。

 当人同士で話をしてほしいと、身を引かざるを得なかった。

 

「忙しいから無理じゃ」

 

 にべもなく断ったグレイに、グロウバウゼンはまた顔をしわくちゃにした。

 二十年間グレイを目指して拳を振るってきた者に対してあまりに厳しい答えだった。

 ただ、グレイにもグレイなりの考えがある。

 

「儂は忙しいが、こいつは暇じゃぞ。割と強い」

 

 親指で指し示したのはラウンド。

 人に押し付けようという魂胆である。

 だが実際、ラウンドは人を欲しているし、グロウバウゼンは師匠を欲している。

 そしてグレイの戦い方は脳筋のようで、実は魔法を交えた魔法拳士という、世にも珍しいものである。前提として魔法の知識と素養がなければ、グレイの拳に到達することは難しいのだ。

 今から魔法の理論と実践を教えるには、グロウバウゼンはあまりに教養がない。

 多少才能があったにしても、相当な時間を要することになるだろう。

 少なくともクルムの世話をしている間に、グロウバウゼンを育てる余裕はない。

 

「俺、こいつが強いか、知らない」

「ほう……?」

 

 ラウンドの方はそんな扱いをされたのに、ワクワクした表情である。

 最初にこうして強く出てくる相手が、大概優秀な人材であることを、ラウンドは経験上知っていた。

 

「では、手合わせといくか。俺が勝ったらお前は俺が鍛えてやろう」

「わかった」

 

 その場で睨みあいを始めた二人を、またもウィクトが間に入って止めた。

 

「ここで始めないでくださいね、お願いですから。場所を移動しましょう」

「おう」

 

 こんなところで筋肉ダルマ二人に暴れられては、建物ごと崩壊しかねない。

 間一髪で暴走を食い止めたウィクトは、その大仕事に似合わぬ涼しい表情で、一行を訓練場まで案内するのであった。

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