転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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意外な客人

 貴族にも格というものがある。

 いきなり地方のトップに会おうとしても、話のわからぬ小娘めと思われるのが関の山だ。だから序盤に顔を合わせるのは大抵、小物ということになる。

 ただ、その中でも最序盤にクルムとの面会を取り付けた者は、おおよそ三種類のタイプに分けられる。

 

 一つは、本当に田舎者で、ただ王族が会おうと言ってくれたので喜んで会ってくれるだけの者。こちらはまぁ、味方をしてくれるのならばいないよりましだ。

 

 二つ目は、自分の地方の上の者や、既にどこにつくのか決めている上で、クルムの情報を探ろうとしている者だ。こちらにはあまり油断をしてはならない。

 

 そして三つ目は、今の王都の勢力に不満を持っており、他の候補者を探している者。あるいは、クルムの評判を聞きつけ、後押しするべきか真面目に考えている者だ。

 この三つ目のパターンには、二つ目との複合型もあって、自分の従う地方貴族派閥の上の者に探ってこい、と言われている者もいる。

 どちらにせよ、最も大事にすべき、先に繋がるパターンである。

 一つ目はともかく、二つ目も状況を覆すほどの何かができれば、他派閥への間者ともなり得るので、積極的に味方につけることを狙っていきたいところだ。問題は、味方になったふりをして、身近で情報収集をされることであるが。

 

 そんな振り分けも終えつつ、さぁ、いよいよ最初の面会が近づいてきた前日のことであった。

 いくら面会の予定が入ったからといって、クルムにはまだまだ手紙を送らなければならない先があるし、通常の業務だって残っている。いつものように自分の部屋で黙々と仕事をこなしていると、ウェスカによって来客が知らされた。

 

「どなたです?」

 

 わざわざ知らせに来るのだから、ウェスカでは判断のつかないような相手だ。

 ならば自分が顔を出すべきだろうと立ち上がったクルムは、相手を知らされて固まった。

 

「……ヘグニ王子殿下です。お一人でいらっしゃいました」

「はい? なぜ?」

「ほう、ここでこっそりと殺せばそれで一つことが片付くのう」

 

 不遜かつ悪質な冗談を言っているグレイのことは放っておいて、クルムは真面目にヘグニがなぜ今このタイミングで自分の元へやって来たのかを考える。

 だがいくら考えたところで、その答えは見つからなかった。

 ヘグニからすればクルムなどとるに足らぬ存在である。

 最近はあれこれと動いているので目に付くようになったかもしれないが、それでも、油断して踏ん反りがえっていてくれるくらいでないと困るのだ。

 真面目に視界に入れて慎重に対応されては、勝率ががくりと下がる。

 

 失礼でないように服をさっと替えて、ゆっくりと気持ちを落ち着かせながらヘグニが待っている応接室へと向かう。

 当然、グレイを連れて。

 扉はあけ放たれており、確かに奥の席にはヘグニの姿があった。

 

 何もシミュレーションのようなものはできていなかったクルムだが、心だけはしっかりと平静にしてヘグニの前に立った。

 

「失礼します、ヘグニお兄様」

 

 ウェスカが静かに扉を閉じたところで、クルムはそう言ってヘグニの対面に腰を下ろした。ヘグニは何も言わずに待っていたが、グレイがどっかりと腰を下ろしたところで初めて口を開く。

 

「そちらの、教育係を退席させることはできないか? 二人だけで話をしたい」

「できません。どちらにせよ、私は全ての事項を先生と共有します」

 

 ヘグニの方はだれ一人連れて部屋に入ってきていない。

 それを思えば、クルムも一人でこの部屋に入るのが正解なのだろう。

 しかしクルムは僅かな迷いもなく、ヘグニの提案を断った。

 

「儂がいてはやりにくい話でもあるか?」

 

 ヘグニは一瞬チラリとグレイの方を見たが、すぐにクルムに視線を戻して「いや」と答えた。本当のところはあるのかもしれないが、その表情に然程の変化はない。

 そして、無礼な物言いをするグレイを相手にするつもりは、端から無いようであった。

 

「まさかヘグニお兄様が私などの元へいらっしゃるとは、想像だにしておりませんでした」

「その割には落ち着いているようだ」

「そう努めているだけです」

 

 今クルムは本音で話をしているだけだが、ヘグニにはどちらであるか見抜くことは難しいはずだ。クルムはこの調子で、本音ベースの会話を繰り返しつつ、必要に応じてずらした回答や嘘を重ねていくつもりだ。

 失敗は許されない。

 

「どのようなご用件でしょうか?」

「近頃頑張っている妹の、様子を見に来た」

「御冗談を」

 

 これまで一度も個人的に顔を合わせたことも、喋ったこともない。

 それどころかろくに目に留めたこともない相手の様子を見に来たなど、よくもまぁぬけぬけと言えるものだとクルムは思う。

 だがしかし、ある意味『様子を見に来た』ことに間違いはないので、あながち嘘というわけでもないのだろう。

 ヘグニは棘の混じったクルムの回答などお構いなしに、当たり前のように会話を続ける。

 

「間もなく万年祭が始まるな」

「ええ。既に王都には多くの人が集まり、賑わいを見せ始めております」

「王位を目指すクルムのことであるから、地方貴族にせっせと手紙を送っているのだろう」

「何でもお見通しですね。その通りです」

 

 クルムは否定をしない。

 どうせそんな情報は、ヘグニ派閥につこうと思っている地方貴族から駄々漏れだ。

 その手紙に他派閥に知られて困ることは何一つ書いていないし、動揺する理由もなかった。

 そして正々堂々とやっている以上、後ろめたく思う必要もクルムには一切ない。

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