転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

396 / 396
クルムとグレイの関係値

 たっぷり二週間ほどかけて、元々兄姉の派閥であった貴族の再取込の作業を終わらせたクルムは、ようやく新たな貴族たちとの面会に取り掛かることにした。

 ちなみに毎日のように繰り返される話し合いと護衛に、グレイは完全に食傷気味である。いっそ貴族たちが敵側についていて、突然襲い掛かってきたりしたら、気持ちよく全員ぶち殺せるのにと、腕を組んだまま妄想にふけったりしていた。

 非常に危険な状態である。

 退屈というのは碌な結果を生まないものである。

 

「さて、今日からの面会は、一から味方に引き入れていかねばならない方々です。あちらは私のことをよく知りませんし、私も断片的な情報しか持っていません」

 

 朝の訓練を終えて一休みしながら、クルムは真剣な顔をしてグレイと向き合っていた。

 いつもはだらりと休憩する時間であるが、今日ばかりはそうはいかない。

 

「わかったわかった、大人しくしておればいいんじゃろ」

「本当にわかってくれていますか? きっかけを見つけたらすぐに暴れてやろうとか思っていませんか?」

「思っとらん、思っとらん」

 

 思っている。

 鬱陶しいことを言ってきたら、ちょっと小突いてやろうかなくらいは思っている。

 あくまで思っているだけで、すぐに実行に移すつもりは流石にないけれど。

 

「頼みます、本当に」

 

 クルムはグレイが余計なことを考えているのを分かった上で、それ以上しつこくお願いをしなかった。これまでも何度となく伝えてきたことであるから、流石に我慢してくれると信じるしかない。

 じゃあグレイを連れていかなければいいじゃないか、という話になるとそれもまた、そういう訳にもいかない。

 何が起こるかわからないのだから、万全を期すために、自分が動かせる中で最も強い存在を護衛としておいておきたいのだ。

 

 朝食をとって、ウェスカに今日の予定を告げ、門番に声をかけて長い廊下を歩く。

 宮中で働く人たちに頭を下げられながら街へ出ると、寄り道はなしで、貴族の屋敷が建ち並ぶ方面へと真っすぐに向かう。

 クルムは目的地付近にやってくると、改めてグレイに声をかける。

 

「最初の訪問先は、ベゼルフッド伯爵家です」

「なぜ奴を選んだ?」

「先生というきっかけがあったからです。……先生の関係を利用するようで申し訳ありませんが、他にこれ程の大物で、探りなしで会って下さるという方はいませんでした。ベゼルフッド家は王国東部国境付近に大きな影響力を持っており、オブラ侯爵家との仲は特別良くないと聞いています」

 

 クルムは誤解をされぬことを願いながら、選定の理由を告げる。

 グレイが、自分の人間関係を他人に利用されることを好まぬ性質を持っているであろうことを、クルムはなんとなく理解している。

 しかし、今の状況を考えると、だからといってベゼルフッド伯爵との面会を後に後に回すのは完全に愚策だ。どうせどこかで面会をすることになるのならば、最も効果的なタイミングで動くべきである。

 

「別に好きにすればよかろう。儂の知り合いだなんだといちいち気にしていてはきりがなかろう。儂のことを嫌っている貴族の方が多いはずじゃから、苦労することもあるかもしれんが、それは儂の知ったことではないしのう」

 

 グレイの答えは意外なことに好きにしろ、であった。

 突き放すふうでもなく、当たり前のようにさらりと告げる。

 

「先生ぐらいのお年の方は、普通皆さん隠居されているのでおそらく大丈夫です」

 

 グレイの反応を受けて、クルムもいつもの調子で返事をする。

 ただ、その声はいつもよりもほんの僅かに浮かれていた。

 その理由は、グレイの返答が、自分のことをこれまで以上に認めてくれた証拠であるようにも感じたためだ。

 

 グレイ自身はそんな自覚はなかったが、確かにクルム以外のほとんどの者に同じことを言われたとしたら、グレイは不愉快そうに鼻を鳴らして相手の評価を下げたことだろう。

 グレイは自主的に手を貸すならばともかく、他人に利用されることが嫌いだ。

 極めて偏屈で、思春期の子供よりも繊細なハートを持つ、面倒な老人である。

 

 ベゼルフッド伯爵家の邸宅は、他とさほど変わらぬ大きさで、特別力を誇示するような作りはしていなかった。

 法衣貴族がこの貴族街に本邸を持つのとは違って、地方貴族が持つ王都の屋敷は、何かあった時のために滞在する別荘のようなものである。維持管理も考えれば、わざわざ豪勢にしようともならないのだろう。

 とはいえ、野心にあふれる者は、王都の邸宅も派手で大きなものを作らせたりするようであるが。

 

 門をくぐり、家中の者によってベゼルフッド家の応接間に二人が通されると、ほぼ待ち時間なく、あとからベゼルフッド辺境伯が姿を現した。

 形式的な挨拶と、二言三言、面会の場を設けてもらったことに関する言葉を交わす二人。

 そのやり取りはとても貴族的であったが、一方で、貴族にしては簡素で飾りのないものであった。

 

 互いに最初に言うべきことは言った。

 そんな間ができた後に、先に口を開いたのはベゼルフッドであった。

 

「しかしこの様子だと……、本当にクルム王女殿下は、彼を護衛にしているのですね」

 

 ベゼルフッドの視線は、グレイに向けられている。

 過去のグレイを知る人間として、グレイが誰かの下について大人しくしていることが信じられないのだろう。

 

「護衛というより……、先生は私の教育係です。私がお願いをして、お招きしました。私が知る中で最も強い方でもあるので、こうして護衛もお願いしている次第です」

「なるほど……? しかし、あのアルムガルドが教育係……?」

「なんじゃ、その言い草は」

 

 ベゼルフッドはグレイが好き放題暴れ回っていた学生時代を知っている。

 だからこそ余計に意味が分からず、すごまれているのを気にする風でもなく、思わず首をひねって考え込んでしまうのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治(作者:柴野沙希)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

現代日本で日の目を見ること無く、うだつの上がらない人生を過ごしていた一般男性。▼彼は、自殺しようとした見知らぬ誰かを助けようとして死ぬ。▼神と問答する中で、気がつけば異世界転生が確定してしまい、あれよあれよと送られてしまう。▼次に目覚めた時には、TS、しかもロンディルト王国の公爵家令嬢に転生してしまったのだ!▼なんてことだ!もう(責任から)逃げられないゾ♡▼…


総合評価:20542/評価:8.83/連載:66話/更新日時:2026年06月04日(木) 07:40 小説情報

バスタード・ソードマン(作者:ジェームズ・リッチマン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

それなりに強力なギフトを持って異世界に転生したものの、モングレルには大きな野望も志もなかった。▼やろうと思えば強い魔物も倒せるし、世界を揺るがす先進的な知識もなくはない。▼だが、そうして活躍することによって生まれる軋轢やトラブルを考えると、保身に走ってしまうのが彼の性格だった。▼ギルドで適当に働いて、適当に飲み食いして、時々思いつきで何かをする。▼これは中途…


総合評価:127438/評価:9.17/連載:427話/更新日時:2026年06月13日(土) 01:28 小説情報

TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情(作者:桜木桜)(オリジナルファンタジー/戦記)

倫理観オワってる男尊女卑世界の貴族令嬢にTS転生してしまった主人公。▼自分を政略結婚の道具と割り切り、お家と領地を守るため、婚姻外交に励む。▼主人公「理想は仮面夫婦! 戦争に強い人を求めます!」▼なお、利用しようと思っていた相手から真っ直ぐな愛を向けられ、満更でもなくなってしまう模様。▼


総合評価:26954/評価:9.35/連載:83話/更新日時:2026年05月09日(土) 12:00 小説情報

プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~(作者:翠碧緑)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

気が付くと、俺は人間と魔族が争うクソみたいな世界で、赤ん坊として捨てられていた。▼孤児院で育ち、飢えと貧困に耐える日々。▼そんな中、外見の特徴を理由に貴族に拾われる。▼どうやら俺の血には「特別な何か」が混じっているらしい。▼理不尽(暴力)。▼理不尽(陰謀)。▼そして、逃れられない理不尽(因果)。▼それでも、俺は生きることを諦めない。▼「そっちがそう来るなら、…


総合評価:6018/評価:9.19/連載:135話/更新日時:2026年06月13日(土) 20:00 小説情報

転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)(作者:ニテーロン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

2026/2/23「次にくるライトノベル大賞2025」文庫部門三位を獲得しました!▼2025/11/25「このライトノベルがすごい!2026」新作文庫部門第二位を獲得しました!▼2025/1/10一巻発売しました!▼2025/6/10二巻発売しました!▼2025/9/10三巻発売しました!▼2026/3/10四巻発売しました!▼五巻、発売決定しました!▼邪神…


総合評価:41587/評価:9.33/連載:217話/更新日時:2026年06月01日(月) 18:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>