転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ベゼルフッドの疑問

「わかりました。王都にいる間に少しずつ、南東部の貴族たちに話を広めておきましょう。広め終わったところで、改めて殿下にお知らせいたします」

「ありがとうございます。お願いいたします」

 

 先ほどまでとは打って変わって穏やかな表情になったクルムが両手を差し出す。

 ベゼルフッドはその変貌ぶりに舌を巻きながら、同じように手を差し出してしっかりと握り合った。

 

「……一応確認させてください。私の派閥及び手の届く範囲の貴族家は把握していらっしゃいますか?」

「概ね。すれ違いがあると困りますので、お声掛けいただける方々のお名前を口頭で構いませんので教えていただけますか?」

「わかりました」

 

 ベゼルフッドは了承しながら、頭の中に入っている貴族家の名前を次々に挙げていく。この場で全てを頭に入れることは難しいだろうけれど、貴族家の名前全てがあらかじめ頭に入っていれば、それを仕分けすればいいだけだ。

 クルムにとってそれは、大して難しい作業ではなかった。

 いくつか、想定していた名前が上がらず、逆に想定外の名前が挙がることがあった。後者はおそらく、南東地域ではないけれど、ベゼルフッドが個人的に仲良くしている家柄だ。

 国内にぽつりぽつりと点在している、割と有力な貴族の名前がそこにはあった。

 

「今挙げていただいた方々には、私の方からの声掛けは、一時的に控えます。もし閣下がお話をされても迷っているようなことがあれば、すぐにお知らせください。その時は、私の方でも出向いて説得を試みます」

「直接話したいというものもいるでしょうから、そうしていただくのが良いでしょうね」

 

 クルムの申し出はベゼルフッドの能力を信用していないかのように取られてしまう可能性もあったが、経験豊かな老人であるベゼルフッドは、そこに憤りを覚えたりはしなかった。

 むしろ、できることをすべてやろうと前のめりな姿勢を見せているクルムに、改めて信頼を覚えたくらいである。

 

 クルムはそれから、名前が挙がらなかった一部の貴族について尋ねる。

 するとベゼルフッドから返ってきた答えは、案の定、既にオブラ侯爵家に取り込まれた後だという話だった。

 

「仕方のない話です。判断が間違っているとも思いません」

「いいえ、間違っていたと、思っていただくことになります」

 

 どこまでも強気に笑うクルムに、ベゼルフッドも苦笑する。

 普段であれば、過剰な自信は身を滅ぼすと忠告の一つでもするところだが、今この時においてはそうでなければならない。

 

「私が説得する貴族家の中にも、納得しない者はいるでしょう。そちらもクルム殿下にお伝えしても?」

「もちろんです」

「すでに裏でオブラ侯爵家と手を組んでいる可能性があります。こちらの情報が筒抜けになるのは構いませんか?」

「知られて困ることはしておりません。もちろん、先ほどのお話は閣下と私たちだけの秘密ですが」

 

 悪戯っぽく笑うクルム。

 負けても反乱を起こすなんて話は、そんな笑いで誤魔化していい話ではないが、なぜだかベゼルフッドも苦笑してしまっていた。

 

 二人は、もう一人の退屈そうにしている老人を置いて、これからの様々なことについて意見を交わした。そしてすっかり昼が過ぎて、間もなく夕方に差し掛かる頃にようやく解散し、クルムとグレイはベゼルフッド邸を後にすることとなった。

 

「それでは、今後ともよしなに」

「こちらこそ。全力を尽くしましょう」

 

 クルムが頭を下げて部屋を出たところで、不意にベゼルフッドはグレイの背中に声をかける。

 

「アルムガルド」

「儂はただのグレイじゃ」

「そうか……。……ではグレイ。私はずっと気になっていたんだ。ナックス殿下が誰に殺されたのか。君が、なぜブラック殿を殺したのか」

「……知らん。ブラックのやつに関しては、気に食わないから殺した」

 

 グレイが感情のこもらない返事をすると、ベゼルフッドはさらに続ける。

 

「君は、君とナックス殿下と、バミ大臣、そしてブラック殿は、お互い悪口を言い合いながらも、仲良くしていたはずだ。当時の私は少しだけ、君たちのそんな関係に憧れていた」

「あれだけ文句ばっかり言っていたのにか?」

「それは、君たちに問題行動が多く、その上、ちゃんと理由を説明しなかったからだ。そんなことはどうでもいい。なぜ君はブラック殿を……」

 

 グレイは首だけ振り返ると、じろりと冷たい目でベゼルフッドを睨みつける。

 

「儂は父親のことも、王子のことも殺してたってのに、お主はブラックのことばっかり聞く。本当は分かってるんじゃろう。お主の憧れた優等生のブラックは、儂にとっては最悪の糞野郎だった。それだけじゃ」

「…………そうか。君がそう言うのなら、きっとそうだったのだろうな」

「いつもぎゃあぎゃあ文句ばっかりで、儂の言うことなど信じたこともないくせに」

 

 意外なほどあっさりと納得したベゼルフッドに、グレイは眉をひそめて文句を言った。

 

「いや、そんなことはない。君がそんな男だと思っていたら、私は最初から君にうるさく注意をしたりしなかった」

 

 グレイはその言葉を無視して正面を向き、歩き出そうとしたが、結局ため息をついて肩を竦めた。

 

「仲良くしたかったのなら、当時にそう言えばよかったんじゃ」

「私も若かったから、気恥ずかしかったのかもしれないな。それにきっと、グレイ、君だって私のことなど眼中になかったはずだ」

「……この間すぐに思い出したくらいには、やかましくて面倒くさくて、やけに度胸のある優等生だと覚えておったわ」

「そうか……」

 

 ベゼルフッドは妙な顔をしてグレイを見送ったし、グレイも妙な顔をしたままベゼルフッド邸を後にした。

 クルムは何も言わず、一人思う。

 青春を共に過ごした友人がいるというのは、なんだか羨ましいな、と。

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