「というわけで、護衛を一人、紹介していただきたいのです」
クルムはデモンズ邸を辞すと、その足で冒険者ギルドへやってきて相談を始めた。
幸いなことに、ウィクトもメナスもギルドでたむろしていた。
なんだかんだ、宿にいるよりここにいる方が賑やかで楽しいらしい。
「護衛か。その、デモンズという貴族が襲われる可能性は高いのだろうか?」
真面目な顔で問いかけてきたのはメナスだ。
冒険者であるメナスやウィクトには、未だ王位継承争いにおける人の命の軽さがぴんと来ていない。
「それから、襲ってくるとしたら、その相手の実力も知りたいですね」
続けたのはウィクトだ。
適切な人物を護衛につけるためには、敵の情報も必要だ。
場合によっては、ウィクト自身が出張るつもりでいる。
どうせ王都にいる間にやることはそれほど多くないのだ。
ウィクトとメナスが交代で動けば、護衛を務められないこともない。
「正直にお答えしますと、こちらが警戒している以上、襲われる可能性は非常に低いです。今の王都は人目も多いですから、迂闊に動けば証拠が出ます。それに、バッハ侯爵たちが襲われた時の相手は、ヘグニお兄様やジグラお兄様の派閥ではなく、【人形遣い】の勢力によるものでした。必要なのは、双方向へ、しっかり護衛をしているという演出をすることです」
「……つまり、デモンズ伯には、護衛をしているから襲われていないと思わせること。襲ってくる可能性がある陣営には、しっかりと護衛をしていると見せること、かな?」
「はい、そういうことです。わがままなお願いですが、お二人に関しては、自由に動ける状態でいてほしいのです。どなたか他に、名の知れた冒険者の方がいるといいのですが……」
ウィクトとメナスが目配せをして、それからグレイの方を見る。
「グレイさん、あの方は?」
「あの方って、あ奴か」
「そうそう、あのグレイの弟子の」
「弟子ではない」
「ああ、グロウバウゼンのことだな!」
ラウンドが手を叩いて納得したところで、クルムが控えめに口を挟む。
「心当たりの方がいらっしゃるのなら、ご紹介いただけますか?」
「うむ、そいつなら今俺のところだな、よし、戻るか」
「はい、ではお願いします。あ、お二方も相談に乗って下さりありがとうございました。また何かあればお願いいたします」
ラウンドとグレイがさっさと歩き出してしまったので、クルムだけは丁寧に冒険者二人に礼を言って、その後を追いかける。
三人がいなくなった後、ウィクトがぽつりとつぶやく。
「あんなにしっかりとした穏やかそうな王女様なのに、やっていることを聞いていると意外と苛烈ですよね」
「少し、グレイに似ているだろう?」
「似てますね。一緒にいるうちに似たんでしょうか?」
「いや、あれは実のところ、根っこの部分が似通っていると見るぞ」
「もし王位につくことがあれば、その時はその時で、苦労しそうですね」
「確かにな」
二人ともグレイのことはある程度知っている。
クルムの方が処世術に優れているが、根っこの部分は今二人で納得したように苛烈なところがある。
敵味方がはっきりと分かれるタイプだ。
どうなったとしても、なだらかな人生は待っていないだろうし、本人もそんなものは望んでいない。
難儀で、そして、人によってはたまらなく魅力的に見える人生を送ることは間違いなかった。
さて、ラウンドが王都にいる間に良くうろついている、貧民街付近へやってくると、目的の人物は他の者たちと混ざって資材を運んでいた。
家は王都の外にあるのだが、ラウンドに弟子入りしてからは〈要塞軍〉やら、貧民街の住民やらと共に暮らしている。無口ではあるが、気は優しくて力持ちであるので、何度かの喧嘩を乗り越えた末、意外とこの集団に馴染んでいた。
連れてきた〈要塞軍〉の中には、一対一でグロウバウゼンに勝てる者がおらず、貧民街四天王であるブルトンと良い勝負をして引き分けたことから、我流とはいえ体を鍛え続けてきたことが嘘でなかったとはっきり証明されていた。
そしてそのグロウバウゼンに挨拶をする前に、クルムは妙な人物を見つけてしまった。
ラウンドがいない間、〈要塞軍〉の一部が、貧民街の住人の仕事を手伝っていたようなのだが、その中に、見たことのある人物が当たり前のように混ざっていたのだ。
「……ケルンお兄様」
こちらもラウンドに弟子入りのような状態になっていることは分かっていたが、まさか貧民街の住人の家を作るために汗を流しているとまでは聞いていない。
これまでも時折クルムが尋ねてくると、端の方で涼しい顔をしていたのだが、今日は不意にやってきたせいで誤魔化すことができなかったのだろう。
はっきり言って、すかしているよりは余程好感度が高かったが、クルムがやってきたことに気付いたケルンは、はっとした顔をした。
そうして、きりのいいところまで仕事を片付けてから、何か一言残して現場から離れ、壁に寄りかかって澄ました顔をし始めた。
どうやらクルムには、自分が頑張っているところを見られたくないらしい。
クルムもそんなケルンのいじましい努力に免じて、気付かぬふりをしてやることにして、目的の人物の元へ向かうことにするのであった。