転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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そよ風

 〈万年祭〉の間、月の初めの三日はパーティが開かれることになっている。

 最初の月が国内の貴族向けのもので、次の月はそれ以外、という形だ。

 今回のパーティに参加するクルム陣営の知り合いは、パクスをはじめとする商会長たちや、高名な冒険者であるウィクトやメナス。他にはスペルティアなんかも参加することになっている。

 

 こちらに関してクルムは、がむしゃらに味方を増やすために動くつもりはない。

 王都の商会関係については、パクスが常に動き続けており、都度情報共有をしている。クルムの名前を自由に使って、好き勝手動いている状態なので、取り込みは比較的順調だ。

 商人たちは王が別の者に変わったとしても、貴族ほどに大きな変化はない。

 それならば、より経済を回す方向で動きそうなクルムにこっそりと味方をしようとするものだっているだろう。

 そうでなくとも、がちがちにオブラ侯爵家をはじめとした貴族たちに地盤を固められているヘグニよりも、恩を売りやすいクルムを応援した方が利益がありそうだ。

 もちろん彼らは二枚舌三枚舌であることが当たり前なので、もしうまくいかなかった場合の保険は、当然掛けてあるのだろうけれど。

 

 パーティは分かりやすく陣営に分かれて話が進んでいた。

 王都を中心として、商人たちの過半数はそれぞれ縁のある者と集まって時間を過ごし、一部の立場を明らかにしている者だけが、また別の集まりを作っている。

 例えば、パクス、スペルティア、それにメナスなんかは、はっきりとクルムの味方として集まっており、そこに今回の貧民街の建築関係で味方に付いた商会長たちや、ファンファの後見人をしていたランゴート=ゴールドなどが加わる形だ。

 逆に立場をはっきりとすることが難しい、冒険者ギルド総長のウィクトなんかは、各地の支部長たちと集まりつつ、プラプラちあちらこちらに挨拶をしているようだった。

 器用な男である。

 

 今回のパーティでは、覚悟を決めてそれぞれの陣営についている者がはっきりと分かったような形だ。

 ジグラには隣国の貴族たちが集まっているし、ヘグニには安定した老舗商会長がついている。

 

 誰がどこに味方しているのかは、常に互いに情報の探り合いであるから、相手に情報を与えないためにもクルムは大人しくしている。

 というか、パクスに『黙ってにこにこ笑って立っていればいい』と遠回しに言われている。邪魔をしたら後でどんな文句を言われるか分かったものではなかった。

 

 挨拶に来る人が途切れたタイミングだった。

 付き添いとして、正装でパーティに参加していたパクスの息子であるヒューレが口を開く。

 

「父上が失礼なことばかりを言って、すみません」

「いえ、お世話になっていますから」

 

 少し見ない間にヒューレは随分と背が伸びたようだった。

 クルムと変わらぬ年齢ということは、丁度成長期だ。

 ついこの間まではあまり変わらないくらいだったはずなのに、今は明確にクルムより背が高くなっていた。

 

「クルム様と出会ってから……、いえ、もしかするとグレイ先生と再会してから、父上は少し変わりました」

「そうなのですか?」

「はい。どこか、いつも淡々としていて、息子の僕でも何を考えているのかよく分からないことがあったんです。でも……、最近はとても分かりやすい」

 

 ヒューレもまた、クルムと同じ年とは思えぬほどに賢く落ち着いた性格をしている。

 もともとパクスとヒューレには血のつながりがなく、パクスがその才能を見出して養子にしたという経緯もあり、関係は随分と複雑であったのだ。

 それが、パクスが感情的な面を見せるようになってから随分と変わった。

 ヒューレは、クルムにもグレイにも、強い感謝の気持ちを持っていた。

 

「商人としては、どうなのでしょう?」

 

 いつもパクスにやり込められ、やや意地悪をされているクルムがそう言うと、ヒューレは小さく笑って答える。

 

「もちろん、商人としては以前よりも切れ味鋭く働いています。そうではなく、何と言ったらいいのでしょうか。人として、父として、分かりやすくなりました」

「なるほど……、それはいいことですね」

 

 いい話だった。

 自分が関わったことで、明確に良い変化が生まれたのだから、クルムだって気分がいいに決まっている。

 

「クルム様、勝ってくださいね。そして、僕にも、恩を返すための時間をいただけると、とても嬉しいです」

 

 そんなことは気にしなくてもいい。

 話し合いの時、ヒューレがパクスと同席しているだけで、クルムに対する風当たりが少しばかり弱まるので、クルムとしてはそれだけでも十分に助かっている。

 しかしクルムは、ヒューレと同じように小さく笑って答えた。

 

「それは、何としても勝たねばなりませんね」

「お願いします」

 

 グレイは若い二人を他の者たちの視線から隠すような位置に立ちながら、黙ってニヤついていた。

 いつかそのうち、もっとクルムが大きくなった時に、これをネタにからかってやるつもりであった。

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