王族同士が密かに話すことは難しい。
ましてそれが敵対派閥同士となると、なおさらだ。
パーティが終わった翌日、それまで延期されていた王族たちの話し合いが行われた。どの陣営も大きな動きを見せておらず、話し合いは淡々と終わった。
クルムはそのまま、スペルティアとバミのところへ顔を出す。
直近の状況について情報共有をしておこうと思ってのことだ。
スペルティアは公に何か行動を起こしているわけではないけれど、パーティにおいてはクルムの陣営に就くことを明らかにしている。
その件について、礼を言うつもりでもあった。
「スペルティア様、パーティでの立場の表明、ありがとうございました」
クルムは向き合って丁寧に礼を言う。
これに関しては特にクルムから頼んだことではなく、スペルティアから自主的に行ったことであったのだ。
スペルティアは学派や宗教によっては、人類の始祖とも目されているエルフ一族の、唯一知られている、生存している王族である。今は王国に匿われているような立場であるが、世界的に見れば実権はともかく、その権威はハルシ王に勝る。
「私様は、私様がそうすべきと思うことをしただけ。王女の今後の働きにとても期待」
スペルティアという個人について、クルムはあまり詳しく知らない。
ただ、グレイたちの話から想像する限り、スペルティアは各地に散らばったエルフのためにも、いつかエルフの森を取り戻したいと考えている節がある。
それはとても重たい期待であったが、クルムは真面目な顔をして頷く。
「期待に応えられるよう、努力します」
エルフの森は、〈竜食山〉や、〈呪い谷〉の向こうの半島にある。
今ではすっかり魔物に侵され、立ち入ることも難しい土地だ。
ヘグニが、いやオブラ侯爵家が、国の権力を握った場合、そこへ軍を注力する可能性はほぼないだろう。
どうせならば、権威だけがあるスペルティアはこのままずっと、ハルシ王国の王宮にいてもらったほうが良いのだから。
ただし、クルムならば違う。
魔物と対立する〈要塞軍〉に直接の縁を持ち、〈リガルド〉の冒険者ギルドを復興させようと動き出している。
王になったとしても、その縁がなくなることはないだろう。
それだけでもヘグニに頼るよりは、クルムに頼ったほうが良いに決まっている。
そして何より、クルムの隣にはグレイがいる。
スペルティアはグレイのことをよく知っている。
そして、この世で最も強い生き物であると、今でも信じていた。
「それでいい」
クルムの返答は、何かを必ず約束するものではなかったが、そんなものはスペルティアも期待していない。
故郷を取り戻すことが、どれだけ難しいことかをよく理解しているからだ。
それと同時に、スペルティアはクルムの人間性を信頼していた。
自分に対して、思ってもいない口先だけの約束をすることはないと。
「ところで、近頃バミ大臣の体調はいかがですか? スペルティア様と一緒にいるようになって、以前よりお元気になったように見受けられますが」
真面目なやり取りが終わったところで、クルムが少しばかり表情を緩めて世間話をスペルティアに振った。
するとスペルティアは胸を張って得意げに応える。
「健康にいいものを食べさせている。治癒魔法を少しずつ使うことによって体も良くなってきた。まだまだ長生きする。私様のお陰」
「それは朗報です。あれほど頼りになる方も中々いらっしゃいませんから」
クルムがスペルティアをおだてつつ本音をこぼしていると、グレイが振り返って呟く。
「誰か来たようじゃな」
「あ、そうだった」
スペルティアには心当たりがあるようだった。
壁一面にある引き出しの一つを引くと、中から革で作られた巾着のような袋を取り出す。
「失礼します、今、よろしいですか」
「入ってもいい」
部屋の主であるスペルティアは、クルムたちの意見を一切聞くことなく、入室の許可を取って来た男性の言葉に答えた。
扉が静かに開くと、物静かそうな、地味な衣服を身にまとった男性が入ってくる。
入ってきたのは、王位継承争いでは目立たぬ存在である、第二子、セルルトであった。
「……出直すべきでしたか」
「いいと言った。目的はこれだろう」
スペルティアが革袋の先を摘まんで振ると、少しばかり眉をひそめて、ゆったりと部屋を歩きだした。
会談の場では座っているため分かりにくいが、セルルトの身長は意外と高い。
体は細身だが、表情さえもう少し豊かになれば、ヘグニにも似ているような気がした。
セルルトはテーブルの上に、同じような革袋を置いた。
手を離すと形が少しばかり崩れて、じゃらりと小さな音を立てる。
中身は金だろう。
「持っていっていい」
「ありがとうございます」
セルルトが何か、おそらく薬を頼み、そしてスペルティアがそれを受けて調合したものを売ったのだろう。
誰に対しても金を要求しているところは、やはり流石スペルティアである。
セルルトがスペルティアから袋を受け取ると、スペルティアの方も金が入っているであろう袋を手に取って、その中身をテーブルの上にばらまいた。
中身は金貨。
スペルティアはその枚数をきれいに並べて数え始める。
無礼の極致にいるような行動であったが、なにしろスペルティアはとても貴い存在であるので、誰も注意する者はいない。
一人の爺を除いては。
「お主、無礼すぎるじゃろ。一人で支払いに来た王子のことくらい信用してやらんか」
「グレイだったら確認しない?」
「儂、金とか割とこだわらん主義だし」
「明日ご飯食べるお金がなかったら?」
「確認するに決まっとるじゃろ。少しでも誤魔化してたら誰であろうとぶち殺す」
セルルトがスペルティアに向けていた冷ややかな非難の目を、そのままグレイの方へスライドさせる。
そうしてぽつりと小さな声で尋ねた。
「……スペルティア様は、クルムの味方をするのですか?」
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